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19話

 19


「……なるほど。私を疑ってたわけだ」

 総長とカイが手際よく経緯を説明した後のナーリェの第一声がそれだった。

 ちらり、と視線を向けられたチャトムがたじろぐ。

「……う。だって」言いよどみ、きゅーん、と耳を垂れてしおれた。

「その………ゴメン」

「うーん、疑っていたって言うより、今のはむしろ、心配のしすぎって感じだけどね」

 カイが笑って言う。

「能力と可能性の問題だと言ったのは私ですしね。少なくともあなたにはそれだけの力がありますから」

 これは総長。そして続けて――「うんうん。チャトムはむしろ言下に否定してたよな。ナーリェがそんなことするわけないって」

 その声にナーリェが固まった。

 切れ長の黒い眼で瞬く。

 そのまま左右に視線を揺らした。――この場にいるのは自分も入れて確かに4人だけ。

「……今のは」

「ああ……なんだかなし崩し的に紹介する人が増えてるなぁ」

 そう言ってカイが腰の剣をすっと半分ほど引きぬいた。

「僕の相方の――」

「ティレグだ。ま、お前はチャトムの親友だし?協力を依頼する以上は名乗るのが礼儀ってもん――」

 その台詞もほどほどに、じっと剣を凝視するナーリェ。

 ややもするとおもむろに。

「――腹話術か?」

 瞬間。

「あ、あははははははは!!」

「だぁっはっはっはっは!!」

 2重の笑い声が響いた。

 カイののそれはあっけらかんと。そしてそれに重なる豪快な低重音。

 ――横で総長も口元を押さえて肩を震わせていたりする。

「……ま、まあったくよ、妙な所でそっくりでやんのな」

「さ、さすが幼馴染だけはある、よね」

「いや、しかし――ええ、合理的な判断を二人とも持ち合わせているのは大変喜ばしい事ですよ、はい。学院総長としては」

 苦しい息の元言い募る2人(?)を、なぜかチャトムは顔を真っ赤にして見ている。

 そしてそれを見ながらナーリェは

(……これだけの音の重複……腹話術じゃないのか……?)

 などと考えつつ、はたと何か閃くものがあった。

(…待て、よ……。

 黒い剣……どこからか聞こえる男の声…そして『ティレグ』……!

 まさか…!!)

「おい、ちょっとその剣を見せてくれ」

 勢い込んで言うナーリェに、カイは笑いの衝動をなんとか収めつつ

「うん、良いけど……気をつけてね」

 鞘に収めて腰から引きぬくと丁寧にナーリェに手渡した。

 艶と青みのある黒の刀身をナーリェはしみじみ眺める。

 この細工。

 この魔術波動。

 色に形。

 これは……。

「……まさか……『真昏の闇』………!?」

 知れずもらした呟きに、ほう、という感嘆の声がティレグと総長から上がった。

「これはまた懐かしい二つ名を聞いた……」

「よく知っていましたね、ナーリェ?」

「やはり…そうなのか……」

 どこか呆然とうめくナーリェに、不心得顔なのはチャトムとカイだ。

「ティレグ?」

「おいおい、チャトムはともかく、これだからお前はよぉ。

 我が盟血主殿は自分の持ちもんに無関心でいけねぇや」

 不思議そうに首を傾げるカイに、ティレグは嘆かわしいと言った風に刀身をかすかに震わせた。

「『真昏の闇』っつーのは、オレの製作当時の二つ名さ」

「あとづけの通り名とは別格の、黄金期からの由緒ある尊銘ですよ」

 と解説を入れる総長。

 ナーリェへの紹介の手間はどうやらいらないようだった。

「へぇ、なんかカッコイイね」

 単純に感心するカイに、ティレグはこれ見よがしにため息を吐いた。

 ……剣のクセに。

「でもナーリェよく知ってたね?」

 チャトムはそちらに感心している。ナーリェはしかし当然と言った顔で

「それはそうさ、魔術史学、とりわけ古魔器諸史は私の得意科目だぞ。

 めぼしい古魔器は一通り頭の中に入っている。

 ……その中でも特級だ、魔剣ティラザーグは……まさかこんなところでお目にかかれるとは」

 なにやらナーリェの目の色が変わってきたのを察して、カイは素早くティレグを自分の手の中に取り戻した。

「…なにをする」

 あからさまにむっとするナーリェに、カイは

「いや、なんかこのままばらばらに解体されそうな勢いだったから」

 その言葉にナーリェはさらにむくれる。

「バカを言うな、貴重な古魔器だぞ。何百回と探索と走査の魔法をかけて完全に構造を解明し、再構築できる確信が得られるまでは解体なんてするものか」

 そのナーリェの言に、なにやらサジェイルは「相変わらず研究熱心ですねぇ」などと言いつつ、うんうんとうなづいていたり。

「おいおい、止めてくれよ!体ん中じっくり探られるなんざぞっとしねぇ!

 ……って、しかもそれが終わりゃさくさくバラすような物言いじゃねーか!」

 ティレグが悲鳴を上げる。カイは苦笑した。

「……勘弁してよ、これは一応僕の相方だから、ね?」

「きっと貴重な魔法学発展の礎になるのに」

 いまだ不満そうなナーリェを、チャトムがとりなす。

「ダメだよ、ナーリェ。ティレグが可哀想だし……あたしも、もうお友達のつもりだから、ティレグがナーリェにそんなことされたら悲しいよ」

 それでナーリェは譲歩した。渋々と。無念そうに。それはもう不本意顔で。

「……仕方ないな。でも、じゃあせめて魔剣が発動する所を見たい。

 基底部の調査には、私も同行するぞ」

 こうして彼らは仰ごうと思っていたナーリェの協力を労なく得られたのだった。

 ……若干一名というか一本、不快そうな魔剣がいたりしたのだが。


「実際の話、私に協力依頼したのは大正解だ」

 場所を総長室に移し、途中で取って来た自分の荷物から1枚の図面を出すと、ナーリェは堂々とそう言い切った。

「一部予想も入ってはいるものの、設計図もほら、この通り」

 それは確かに胸を張って自慢できるだけのものではあった。

 大判の紙の上に仔細な図面が丁寧に描かれている。

 各書に注意書きがあって、ほんのささいな設備の機能も魔法構造的に考察されているのが明らかだ。

 これを部分的な資料から再構成したとは。ウワサに違わぬ異才ぶりに、他から感嘆のため息がもれた。

「――わぁ……」

「ほーぉう…」

「これはこれは」

「へぇ……」

 もっともカイは「器用だなぁ」程度の感心しかしてなかっただろうが。

「これはすごいですねぇ……私も以前一度だけ、オリジナルの図面を見た事があるのですが、頼りない記憶によればこれはたいへん正確なものです」

「ナーリェの言ったとおりだね。これならどんな難関研究室にも喜んで迎えられる研究だよ」

「たいしたもんだ……建築学なんかもかじってんのか?」

「まぁな。準科目でその辺を取ってるんだ」

 ナーリェはそのまま図面を指でなぞりながらテキパキと解説する。

「見ての通り、基底部は広大な地下空間というよりも縦横に絡み合う通路で構成されている。

 地下通路がそのまま立体的な魔術陣を構築するような形だな。もちろん街規模だから大きさは尋常じゃないが。

 おおよその形としては、風雷摂領法のトゥーラ、地黎方程式から導かれる偏ペンディアムの組み合わせで――」

 以下カイには理解不能の説明が数分続いた。

 が、とりあえずチャトムと総長はふむふむと聞き入っている。

 ティレグも所々「てことはこれが結界用の補助方陣形のリィーテタか?」などと言葉をはさむ。

(まあ理解したところで、僕じゃどうせ道に迷っちゃうし)と考えるカイ。まあ己が分かっているとはいえる。

 そしてナーリェは図面のある一点を指し示した。

「で、肝心の現場なんだが、言われた位置によると、おそらくこの部屋の真下の少し北よりになる、このあたりの空間だと思うんだ。

 ここは建設当時に資材置き場として活用された場所で、いわば空白地帯。浮遊魔術への関与がないんだ。

 だからここで多少のことをしてもティルバイに深刻な影響は及ぼさない。

 ――そういう判断が犯人にもあったんだろうな」

「なるほど……」

 カイ以外のもらしたつぶやきがはもった。

「えーとつまりココに行って、魔法陣壊せばいいんだね」

「完成度からして、犯人もいる公算が大きいな」

「いっしょに捕まったら一石二鳥ですねぇ……」

 先刻まで途方に暮れていたのが嘘のように、次々と先が明るくなっていく。

「あとは侵入経路なんだが……」

 ここでナーリェはサジェイルを盗み見た。

「……まあ緊急事態だから、総長もあえて見逃してくれると信じて言おう。

 実は、公式通路以外の抜け道を、私はすでにこの図面から発見していて――ついでに何度か基底部に入ってしまったんだな。これが」

 ここまでひたすら感心していたチャトムが、その台詞にぐらりと傾いた。

「ちょ、ちょっとナーリェ!?」

 全面立ち入り禁止になっている基底部に侵入?

 それは明らかに違反行為ではないか。

 何が「基底部の詳細についてまで研究するのはやっぱりまずかったんですか?」だ。

 よくもしれっとそんなことが言えたものだ――しかも緊急事態だから、と前置きして告白するところが確信犯だ。

 目を白黒させるチャトムとは反対に、総長は落ちつきはらって微笑した。

「やれやれ、あなたのことだからもしかしたらとは思いましたけどね――10日前くらいから、ですか?」

 総長の言葉にナーリェは肩をすくめる。

「ええ、まあ。試してみたら入れてしまって、実際の設備を見ていると、もう面白くて。つい帰宅も連日遅くなるくらいに」

 それが「研究の進み具合」だったわけだ。

 総長はふぅ、と軽くため息をついてから、

「ことここに至ってはむしろ歓迎すべきなんでしょうね――まあ処置については万事片付いてから考えましょう」

 釘をさして人の悪い笑みを浮かべた。ナーリェが一瞬しまったかな、という表情を作る。

「んで?結局どのへんに通路があるんだ?」

 これはティレグ。促されてナーリェは気を取りなおして説明を続ける。

「ああ、私が見つけたのはこの――街の西南端にある通路なんだ。

 資料から起こして図面を引いてみると、どうしても1ヶ所魔法構造的に無意味なところがあってな。

 詳しく解析したら、作業員の出入り用の連絡通路として『中空制操典』で設計されていたんだが、後の学院建設時に我々が、意味も分からないまま本の通りに作ってしまったらしいんだな」

「それを見つけたのか、そいつぁすげぇな!」

 ティレグが言うと、ナーリェは誇らしげに、にっと笑った。

「ふ、まあな。

 ただ……問題がないではない」

 言ってぐるりとその場の面々を見回す。

「私ひとりだったら便利なくらいだったんだがな。

 この通路がどうもオートテレポーターのようなんだ――」

 その言葉にすぐに反応したのはティレグとカイだった。

「――マジか?」

「…………それはちょっと……困る、ねぇ……」

 表情を暗くして苦い笑いを浮かべる。

 ナーリェは自分なりにその言葉を解釈して続けた。

「ああ、おそらく転送先はここと、ここと……ここ。3ヶ所に分かれることになる」

 ナーリェが学院敷地の淵あたりの地下に当たる南、北東、北西の地点を指しながら言い、

「そっか、皆で行っても地下では別々の行動になっちゃうね」

 チャトムも同意する。

 そもそもオートテレポーターというのは、魔術遺跡に時折見られる転移魔術のひとつの機能だ。

 ある地点に立つと自動的に対象を所定の場所に送る、というもので、学院の東西門に用いられているのもこれに近い。

 さらに特定の条件によって別々の場所に振り分ける機能も付加されているとナーリェは言い、強制的に別行動になってしまうのが困るのだとチャトムも察したわけだ。

 作業員を持ち場に自動的に送る機能として、おそらく便利なように設計されていたのだろうが……。

「それがよぉ……それだけじゃすまんのだよな……」

 言い渋るティレグ。カイも苦笑した。

「振り分け次第では僕ら、ぜんっぜん役立たずだよねぇ、あはは」

「のん気に笑うな、カイ!」

「どういうことです?」

 サジェイルの問いにカイは笑いながら頭をかいた。

「いえ、以前遺跡調査で同様の仕掛けにあたったことがあるんですよ。

 それが、どうもティレグも振り分けの対象としてカウントされるみたいでして」

「――そ、それってつまり」

 チャトムが表情を凍らせると、ティレグが遠くを見るような口調で応じる。

「あんときゃ大変だったなー……オレとカイが別々のトコに転送されて……」

「ティレグは自力で動けないわ、僕はひとりで武器もナシに道に迷うわ」

 チャトムからカイの方向感覚のなさを聞いていたナーリェはぴんと来て、半眼でつぶやいた。

「……それは確かに話にならんな」

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