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9章

  9


 翌朝、チャトムは早起きに成功した。――というか、元々寝起きは良い方なのだ。深夜まで課題に追われるようなことがなければ。

 加えて今日はカイを迎えに行く約束もあることだし。

(ふ、ふ~ん、どうよ、ナーリェ!)

 無意味に勝ち誇りながら朝食を用意する。

(たまにはあたしが作ってビックリさせてやるんだから!で、昨日言ったことを撤回してもらおっと)

「カフェオレにサラダにハニートーストに――タマゴはどうしようかな~」

 チャトムはこれで、結構料理ができる。

 実家が宿を経営していて、その手伝いをさせられてきたし、バイトも飲食店が多い。

 凝る所にはひたすら凝るくせに、他の事はずさんなナーリェより家事は上手いだろう。

 ただ――ひとつ欠点がある。

「~♪……よし、彩りもかんぺき――はっ!?」

 熱中し過ぎてよく時間を忘れるのだった。

「きゃぁああああ!遅刻しちゃうぅううう!!」

 どたばたどた。

 結局今日もこれだった。


 自分で作った朝食をほとんど食べられないという理不尽に心の中で泣きながら、チャトムは寝起きのナーリェに一声かけて家を出た。

(くぅ~、ビックリさせる間もなかったよぅ~)

 作戦失敗を嘆きつつ宿まで走る――どうにか時間には間に合ったようだ。

 カイは身支度を整えて、食堂で待っていてくれた。

「お、おはよーございますー」

 息を切らせつつ言うチャトムに、カイは今日も笑顔で答えた。

「うん、おはよう……走ってきたの?何もそんな急がなくても良かったのに」

 当然そこには、そんなやりとりをにやにや見ているリーンもいて、

「ふふふ~、早くカイさんに会いたかったのよね~」

 と、走ったせいで上気したチャトムの顔を、さらに赤くさせるのだった。

「ち、ちがうも~ん!もう、カイさん、早く行きましょう!」

「はいはい、お邪魔はもうしないわよーぅ。いってらっしゃーい」

 ひらひら手を振るリーンに見送られ、二人は宿を出た。

 ……まあその後、大通りで朝市を開いている人々にも、昨日と同じように冷やかしを受けたのだったが。


「もう~…失礼しちゃいますよねー。まるであたしにナーリェ以外友達がいないみたいに、みんなして珍しがって……そりゃ…男の子の友達ってあんまりいないけど……」

 すねるチャトムに、カイはくすくす笑った。

「みんな君の事が好きなんだよ」

 笑顔でそう言われると嬉しくも恥かしくなってくる。

「ま、からかうと面白れーしな」

 ……ティレグの台詞で台無しになった。

 昨日と逆に南門から打ち上げで学院内に入った2人は、今日は校舎裏から見て回ろうと言う事で北の方に向かっている。始業30分ほど前なので、まだ人はまばらだ。

「う~面白いってなによー」

「いや、そういう反応が」

「くぅー、人に聞かれちゃ大変なんだから、ティレグは黙っててよぅ」

「平気だ、人は少ないし、音量には気を使ってるから。

 他人が見てもお前さんが、地団駄踏みながらカイに突っかかってるようにしか見えねーよ」

「あっ、やだ、ごめんなさいカイさん」

「気にしなくていいよ。そもそもティレグのせいだしね」

「んだと、チャトムが勝手にエキサイトしてんだぞ」

 しかしカイはティレグの抗議は無視して微笑んだ。

「いや、何しろ普段は僕くらいとしか喋れないから、はしゃいじゃってね。可愛い女の子と話せるのが嬉しくて仕方ないんだよ。許してあげてね」

「待てカイ、なんだそらぁ!」

 危機が目前に迫っているとは思えない平和な朝だった。


「そう言えば……聞いてもいいですか?」

 校舎裏を見てまわりながらチャトムがカイに尋ねた。

 北の裏庭はかなり殺風景だ。4階建ての北棟のすぐ裏手のため日当たりもよくないということで、まばらに木が植えてあるほかは茂みと芝生が広がっている程度だ。見上げると教室の窓が並んでいて、そろそろ始まる授業の用意でにぎわい始めているところだ。

 ティレグは先から感知調査を行っているが未だ何の反応も得られないようだった。

「うん、なに?」

 ただ歩いているのにも退屈したのだろう、と考えてカイはチャトムに応じた。

「いえ、実はカイさんがティレグをどうして持ってるのかなー…とか気になってて。やっぱりお家に伝わっているとか、そういうのなんでしょうか?」

 その言葉にカイは一瞬考える様子だった。「うーん、まあそれに近い、かな」

 その間をチャトムは誤解したらしい。

「あ、ごめんなさい、話したくないなら無理に聞こうとは……」

「ん?ああ、違う違う」

 謝るチャトムの言葉を、カイは手を振って否定した。

「話したって別に構わないよ、君にはもうティレグも紹介しちゃったし。でも出来るだけヒミツってことになってるからね、一応約束してくれる?口外しないって」

 人差し指を立てて内緒、の仕草をしながら片目をつむるカイの茶目っ気にチャトムも顔をほころばせた。

「はい!あたし絶対ヒミツ守ります!」

 元気良く頷く。その嬉しそうな様子にカイも微笑して、

「ありがと。

 僕が生まれ育ったのはアドの隠れ里と言って――まあ隠れ里だから場所はさすがに言えないんだけどね。かれこれ350年ほど前にできた村なんだ」

「350年…っていうと」

「そう、禁魔時代の始まりだ。

 知ってるとは思うけど、魔術狩りの対象になったのは魔術師だけじゃない。

 魔具、つまり魔術のこめられた武器や防具だね、そういうものを使っていた戦士や、それを生み出す魔技師、鍛冶屋たち。彼らも魔術狩りに追われる身になった。そうした人が集まって隠れ住んだのがアドの里。僕の故郷だ」

「……そんなものがあったなんて」

 目を丸くするチャトム。

「記録にないからこそ今でも健在なんだよ。歴史書に名が残っている魔術関係の場所は、当時の政権に発見されたものなんだから」

 発見され、狩りの対象になったからこそ名前が残るのだ。未だに残っているということは、今にいたっても一般には認知されていないということだろう。

「…そっか、なるほど……」

「魔術狩りの始まった頃は、それこそ逃亡者の駆け込み寺的な場所だった。で、結果、魔具や魔具職人、それを使う戦士たちが他に類を見ないほど揃ったわけだね。

 魔術狩り全盛期は、その力で魔術狩りに対抗する闇組織に発展したりしたみたいだね。そのせいでティレグなんかはちょっと有名になってる」

「あ、はい」チャトムは魔術史で何度か魔剣ティラザーグの名を聞いたことを思い出す。その強大な力が多くの魔術狩りを倒したのだと。

「……個々の魔具や人物は知られてたりするわけですね」

「うん、基本的に里自体は秘密の地下組織だったんだけどね。

 それで今は、伝えられてきた魔具を世間から隔離して管理・保管していて、住人は基本的に戦士と鍛冶師だけっていう異常な里になってる」

 笑みを含んで言いきる。

「は、ははは……それで、里に伝わってる魔具のひとつがティレグ――なんですね?」

「そういうこと。戦士にはひとりひとりに魔具が与えられることになっててね。僕はそれがティレグだったってわけ。

 更に魔具を得ると武者修業に出されるのが恒例なんだ。

 魔具も道具である以上、それなりに使っておかないと歪んでしまうし、未発見の魔具なんかを見つけて収集する目的もあるしね」


 カイとチャトムの声を聞きながら、ティレグは昔、カイを初めて見たときのことを思い出していた。

 アドの里の子供たちは、幼い頃は一様に、戦士の訓練と鍛冶師としての教育を両方受ける。戦士も自分が扱う武具の知識を持つべきだし、鍛冶師にも戦士の心得がある方が望ましいからだ。

 そして十歳になると普段は閉鎖されている兵器庫に入れられ、里の武具全てを見せられた後に決断を求められるのだった。

 それらを使う戦士となるのか。それらを産み出す鍛冶師になるのか。その決断を。

 その後、それぞれ師について、一人前になるまで、専門的な鍛錬を積むことになる。

 カイも十歳の時にその儀式に参加して、兵器庫に入った。

 その最奥に安置されていたのがティレグである。

 ティレグは里でも指折りの魔剣であると同時に、その危険性でも群を抜いていた。

 とかく存在が不安定で、周囲の影響を受けやすいのだ。

 製作された当時は魔術全盛時代だったため、大抵の剣士は魔術的な素養ももっていて、彼をコントロールする術も身につけていたものだったが、すでに時代は変わった。並の剣士では彼の力を暴走させてしまう。よって彼を使える感情波の安定した剣士がいないときは、力を抑える封印を施されて里の兵器庫奥におかれていたのだった。

 そして見つけた。ほぼ40年ぶりにこれと思う人間を。

 それが、少年のカイ――身の丈が自分とほぼ変わらないと思われる、痩せてちっぽけな年端のいかない子供であったのだ。ティレグは笑い出しそうになりながら、己の前に立つ子供に語りかけた。

「ほう、お前――なかなか面白い波動をしている。子供のくせにな。

 おいガキ、もしお前が今しばし齢を重ねてなおその波動を保てるならば――この身、その手に預けても構わんぞ」

 その子供は意味が分かっているのか分かっていないのか。恐れる様子もなく、里随一の魔剣に正面から相対していた。今でも覚えている。その静かな瞳の輝き。

「記憶にとどめおけ。我が――ティラザーグの名を」


 結局再会したのはそれから11年を経た2年前だったが、その時に聞かされたその後の経緯には呆れかえったものだ。

 今ではカイらしい選択だと笑うしかないが。

 その彼は、現在

「でも職業選択の自由、って言葉から程遠い土地柄だよね。

 戦士か鍛冶師、たった2つしか仕事選べないんだよ?」

 なんておどけてチャトムを笑わせている。

 ぐるりと回ってきた北の裏庭も、東の端に近づいてきた。日もかなり高くなっている。

「うーん……そろそろここも終わりだけど、どう?ティレグ?」

 水を向けられて、ティレグは一応周囲に人がいないことを確認した。

 授業の始まっているこの時間に校舎裏をうろつく者が他にいるとは思えなかったが。

「いや…ダメだな。ここじゃない」

 その言葉にチャトムががっくりと息を吐く。

「ふぅー…そっか。仕方ないね。じゃあこのままぐるっと東門近くを回って、南東の方に行こうか。図書館とかの大きな建物が多いとこ」

 ティレグはそれに「そうだな」とおざなりに答えていたが、ふと上方から視線を感じた。

 そちらに意識をやると、2階の窓にすらりとした人影――ナーリェだ。

(ほほぅ…これはなんとも分かりやすい。オレら…むしろカイだな、コイツをにらんでやがる)

 ティレグは不謹慎にも心中にやりとしながら考える。

(チャトムに周囲から向けられるまとまった負の感情とは別レベルの……悪意…いや敵意、かな。

 美人は怒ると凄みがあるって言うが……ふふん、なかなか良いガンつけじゃねーか)

 妙に好戦的な思考のティレグ。基本的に肝の座った人間は好きなのだ。

 そう言う意味では、ティラザーグの魔剣としての真価を知っても、恐れず話してくるチャトムやサジェイルも気に入っている部類だろう。

(まあ問題は……なんでカイに敵意を燃やすのか、だけどな)


「あれっ?ナーリェじゃん」

 呼ばれて、窓の外に向けていた視線を背後に回すと、そこには4人ほどの生徒が立っていた。

 その中心にいるのは同期のエイザである。声をかけてきたのも彼女だ。

 エイザはいつも人に囲まれている。周りもおそらく友人たちなのだろう。

 彼らはナーリェに対して1歩引いているようだ。

 学院では知らぬもののない優秀さと人当たりの悪さが災いしてか、ナーリェは特に下級生(といってもナーリェ自身飛び級を重ねている身なので、そのほとんどが同年代か時には年上だったりするのだが)から恐れをもって敬遠されている。

 そして当人も周囲の心境などに頓着する様子もなく、また実際気に食わない相手には容赦がなく、更に一度敵にすると口でも成績でも勝てる人間がまず居ない――という訳で、むしろ無理からぬことだろう。

 そんな中で、エイザは同じ白金の過程にある者以外で普通に話しかけてくる稀少な存在だ。

 気さくで明るく話し上手。いかにも友人が多そうなさっぱりした性格はナーリェも気に入っていて(まあチャトムとも対等に付き合っている人間だと言うことも重要な条件なのだが)同じクラスにいたのは数ヶ月なのに、今でも友人として付き合っている。

 そのエイザは持ち前の遠慮のなさで、ナーリェの後ろから身を乗り出して窓に顔を近づけた。

「なぁに見てんの?未確認飛行物体でも飛んで……あら、なんだ、チャトムじゃない。それと……ああ、視察のひとだっけ、あれ」

 裏庭のチャトムとカイに気がついたようだ。遠地からきた視察の者をチャトムが案内していると言うのはすでに通達があって皆知っている。

「なんか楽しそう、仲良いんだねー」

 談笑しながら歩いていく二人を眺めてエイザがこぼした。

 ナーリェは、かすかな胸の痛みを抑えて「ああ…そうだな」と同意する。

「まあチャトムなら大抵の人とは仲良くなれるだろうけど……」

 そこでエイザはちょっと考えた。なにか迷っているようだ。

 そして後ろを振り返ると、友人達に「ごめーん、先に行ってて」と片手を上げた。ナーリェに遠慮していた彼らはほっとした様子でその言葉に従う。

 その後姿を見送ると、エイザはナーリェの制服の袖を引いた。

「で…実際、あれってどうなのよ?」

 声をひそめて、窓の外を差しながら尋ねる。

「あれ……って?」

 珍しく要領を得ない顔をするナーリェに、エイザはなにか安堵したようだ。

「……なんだ、ナーリェが知らないなら、アタシの勘ぐりすぎか」

「何の話だ?」

 怪訝な顔の友人に、エイザは少々言いにくそうに困り顔を作った。

「うーん、だからさぁ、あれってもしかして……ヘッドハンティングって奴かなーなんて思ってたの」

「ヘッドハンティング?」

「ま、ヘッド、って言い方は違うかもしんないけどさ。引きぬきっていうか勧誘なのかなって。

 だってナーリェだっておかしく思わなかった?なんでいきなりチャトムなのよ。学院には生徒がごろごろいるのに」

「それは……」

「まあね、チャトムはいい子だし?おもてなしに向くかもしれないよ。少なくとも無愛想なあんたよりはね。

 でもさぁ、街中はともかく学院の中じゃ…あれでしょ?

 ま、おバカさんたちの中には、チャムチャム族なんてお遊び半分の接待するくらいの役にしか立たないなんて言ってるのも……ちょっと、にらまないでよ。アタシが言ってるわけじゃないっての」

 エイザはナーリェの形の良い眉がきりきりとつり上がるのを見て、慌ててそう言った。

「アタシはチャトムが頑張ってるのも、ああ見えて結構学力があるのも知ってるわ。

 たまたま種族のせいで魔法がそこそこ使えるからって、その上にアグラかいて努力もせずにあの子を非難してる連中と一緒にしないでよ。

 魔法こそ使えないから下のクラスに止まってるけどさ。準科目の語学なんかじゃアタシも……あんたも適わないでしょ。いや、実用的な会話も考えたら、教官連中でもあの子に教える資格があるのは総長くらいのもんじゃないの?」

 きっぱりと言い切る。エイザのこういうところがナーリェは好きなのだ。

 チャトムのことも認める所は認めるし、天才の誉れ高いナーリェと言えど欠点は平気でこき下ろす。誰とも気さくに付き合う彼女は、誰のことも公正に見ている。そういうところが。

「でも…だから時々不思議に思ってたのよね。なんでチャトムっていつまでも学院にいるんだろうって」

 エイザは窓の下に視線を落とした。そこにはすでにチャトム達の姿はない。

「誤解しないでよ?チャトムがここに居てくれるのはアタシだって嬉しい。楽しいコだし、気楽に付き合えるしね。ここにいるのって大体、ボンボンかお嬢だもん。時々息がつまるわ」

 ふう、とため息を吐く。

 ここは帝国最高峰の魔法学院だ。奨学金などの制度もあるとはいえ授業料は結構値が張る。またよその街からやってくる者も大勢いて、そう言う学生は下宿代なども必要になるため、必然的に入学してくるのは良家や商家の子女が多かった。

 かく言うエイザも裕福な商人の娘だったが、彼女の父は武具の売買で一代で財を成した人物で(「ようするに成金よ、成金」とエイザは言うが)彼女自身はあまり選良意識を持っていなかった。

 ゆえに家柄に加えて高学歴のエリート意識とプライドでがちがちの周囲の人間が疎ましくなることもあるようだ。

 それでも上手く折り合いをつけて付き合えるのがエイザだ。その辺りの対人技術は商いで成功した父から学んだものなのかもしれない。

「だけどさぁ。そろそろアタシらも将来のこととか考えるじゃない?そうするとさ、チャトムって……ここから出た方がイイ仕事見つけられるんじゃないかなんて、余計なお世話だけど考えちゃうんだよね」

 そう言う彼女は、学院を卒業したら魔法鑑定士となって魔法道具で商いをしたいのだと以前言っていた。エイザらしい夢だ。

「今のままじゃ魔法士になれるかも怪しいけど、東方語とかエルフ語ならすぐ通訳とかになれそうだし、帝都の方に行って勉強したら帝立学術院でも語学博士号とか取れそうだしね」

 この学院ではなんだかんだ言って、魔法が使えないと話にならない。でも外に行けば、魔法の要素を除いて単純に学徒としてなら、チャトムはもっと評価を受けられるとエイザは言うのだ。

「…それで……」

 ナーリェの声はかすかにかすれていた。元々ハスキーな声だが……そこになんとも言えない感情が潜んでいるのを感じて、エイザは慌てて視線を窓から横に立つナーリェに向ける。

「そのチャトムが学問所建設の視察の案内をする。…ということは、それを兼ねて面接でもしているのかと思ったんだな?新しく学問所ができるなら、講師とか助手とかが多く必要になるから……チャトムがそういうのにスカウトされてるんじゃないかと?」

 ナーリェは無表情だったが、伏せた黒い瞳が辛そうな色をたたえていて、エイザは自分の言ったことをひどく後悔した。

「で、でも――ナーリェが何も聞いてないならあり得ないよね。アタシの考えすぎ。ほら、あれ、総長が人柄を見込んでってヤツね、多分。

 だいたい、あれだけメゲずに頑張ってるんだもん。きっとチャトムには、何か魔法にこだわるワケでもあるんでしょ」

 フォローを入れるエイザだったが、ナーリェは「――そうだな」と聞き取れないほど小声で呟いて、窓の外に目を向けただけだった。

 外は――うららかというには少々日差しが強すぎるくらいの良い天気だ。

 春ももうすぐ終わる。

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