プロローグ
投稿練習も兼ねて完結作品の投下をしてみます。
「また…やってしまった……」
青年が寒さのあまり目を覚ましてみると、そこには誰もいなかった。
朝方のぴん、と張った清澄な空気の中、発した声は虚しく木々の間を渡る。
辛うじて音を立てるのは、小鳥の声と、まだくすぶり続ける焚き火跡。
昨夜の野営の痕跡は残っているが、荷物はごっそりなくなっていた。――彼の愛剣を除いて。
白白とした朝日の元、呆然とする彼の前を、可愛らしい小動物が走り去――ろうとしてその剣に怯えたように引き返す。
細身の長剣は、柄も鞘も青みがかった黒。
豪奢ではないが精緻な細工が施され、色合いは少々不気味だがきっと逸品だろうと思わせる。
その剣を腰に差しながら、
(いや、この場合、やられてしまった、かな?)
意味のないことと知りつつ、そんな事を考える。
身に降りかかった不幸を考えれば、彼の落ちつきは異様といえた。が、それもそのはず。
これほど繰り返した事ならば、いいかげん慣れようというものだ。
「ったく、オメーも懲りねーよなぁ?これで何回目だ、一体?」
その場には彼一人だというのに、明かに他人のものである低い声が響いた。
指折り数えてみる。「んーと……3回目、かな?」
「このケースのもんだけ、での話だろ、そりゃ」
「まあそうだけど。でも今回は随分良心的じゃないか。身ぐるみ剥がれたわけじゃない」
「ほぉ~良心的、ね。確かに『良心的な詐欺』だな、こりゃ」
皮肉げな声にも気付かず、彼は平然と応じた。
「そうだよ、服も君も残ってる」
「……お前……今オレが言った修飾語と被修飾語に、何か疑問なり違和感なりはないのか……?」
「んー……」しばしの思考。「いや、特に」
「……あ、っそ……」
疲れきった声だった。
「まあ…いいけどよ。お前ってホンット、幸せなんだか不幸なんだかわかんねーよな」
「?」彼には声の主の言っている事の方が分からない。
「んで?どーすんだ?このまま野垂れ死にってわけにゃーいくまい?」
「そりゃね。でもあと一日も歩けば着く距離だし、きっとなんとかなるよ」
「………迷わなければな………」
なぜか「きっとなんとか」ならないことを確信しているとしか思えない調子で声が答える。
「だから君にコンパス代わりになってもらうんじゃないか」
言って彼は長剣をすらりと鞘から抜き放つ。
青黒い鞘から続く鏡面のように美しい刀身は、闇を凝り固めたような漆黒だった。
既に懐かしい作品になりました。初めて完結させた長編だったと思います。




