滅びの村
ふぅ…なんとか終わりました。
途中で何度か戻ろうか迷ったけど、もうあそこには戻りたくなかった。
だから遠くなってもいいから、河原を目指した。
あそこで、サンタにあれを貰ってからだ。
そこから何かが狂い出したんだ。
俺ではない、俺じゃない、俺じゃないんだ。
サンタだ、サンタなんだ、サンタが悪いんだ。
違う、間違ってる、絶対に俺じゃない。
ブツブツと呟きながら、重い足取りで家から少し離れた所で近所の人と鉢合わせになった。
「うわあああ」
咄嗟に悲鳴をあげたのは、近所の人の方だった。
「うッ」
突然の大声で頭に痛みが走り、目の上を抑える。
その手には血がついていた。
いや、全身血に染まっているこの身体を見れば、誰でも悲鳴をあげるだろう。
抑えていた方の目が血のせいで、視界が真っ赤に見えた。
「ひ、ひぃぃいい!」
腰を抜かして尻餅をついた。
なんだ、あの化け物は?いや、本当き化け物なのか?
相手は動かない。おかげで少し冷静を取り戻した。それによって思い浮かんだものは最悪のものだった。
「や、やぁ、こここkんにちゎ、げg、元気かぃ?」
恐怖で声が震え、かすれた。
通じているか分からない。
早く返事してくれ!じゃないとこっちがもたない!一刻も早くこの場を去りたいんだ!
心の中で念じる。すると目を抑えて俯いたままで、口が開いた。
返事は意外なものだった。
「ぁ…ぅ、うるさい…」
小声だがハッキリとそう聞こえた。
「そ、そうかい。すまなかったね。そそれじゃぁね。こ、今度、とt、遠くの町に行くんだろ?き、気をつけてね、一応」
震える声がそう告げた。
そうか、やっぱりこいつもか。
こいつも、余計な心配だと分かっていながら、俺を気にかけるんだな。
あぁ、鬱陶しいな
やっと、河原に着いた。
長かった。
ゆく道ゆく道でいろんな人に会った。
中には、会った事ない人や久しぶりに会った人、忘れていた人、そんな人々に会った。
会う度に、足止めをくらって、今は少々、いや、その数の多さにかなり苛立っていた。
体中血だらけなのは変わらないが、時間が立ったからか、血の色が濃くなって染み付いている。喉も枯れて、潤っている。
腹もまだ入るが、満腹だ。手には肉片を持ち続けている。
逃げ出した時に捨て忘れたのかな?
足取りは更に重くなっていた。やはり満腹が原因か?
それにしても疲れた。だいぶ歩いたから。、疲れ以外にも、体中が痛んでいた。
何日かかけてやっと着いた河原。
そこには黒い衣装のサンタクロースが座っていた。
「ほっほっほー、久しぶりじゃのお」
拳に力が入る。
「貴様ぁぁ、あれは一体なんだったんだ!?」
低い声で脅すように問いかけた。
「ほほう、どうじゃったか?気に入ったか?あれはのう、 おっと、まだ人が喋っておるじゃろう。聞いたきたのはそっちだろう?」
挑発するような声が聞こえてくるが、まずはこいつを一発殴る。
「うがぁあ!ぅおらぁっ!」
「ほっほっほ」
あっさりと交わされる。しかも、最小限の動きで。
「どうやら、あれを食べたらしいな。美味かったろう?」
あれは食べ物だったのか。
「いや、そうとも言えるし、言えない事もあるのう。」
こいつは何を言っているんだ。
「もっと欲しいか?
ほっほっほ、やっと止まったか。約束だしな、ほら、やろう。」
そういうと、サンタは片手であれを取り出した。なんで、俺は殴るのをやめたんだろう?あれが欲しいからか?そんなはずは無い。俺はあれが欲しいだけだ。
「ほれほれ」
サンタがあれを見せつけてくる。
クソックソッ、約束だろ、よこせよ!この!
避けんなよ!この!
「おわっと、しまったのう」
やっとサンタの手から離れた。
やったぜ!これでまた、あれが食える。
だが、あれはサンタの手から落ちたあと、粉々に砕けてバラバラになってしまった。
「あぅ?」
「ほっほっほ、もう無いぞ。貴様が悪いからな。
そう、恨むなら貴様を恨め。」
クソッ、どこへやった!?
「ここにはないぞ?だが、あそこにあるぞ」
そういうと、サンタは河原の方を指差した。
前に見た時はそんなものは無かったはずだが、ここから見ても、河は澄んでいるから、中にあったら分かるはずだが…
そう思いながらも、河の方に向かい、河の中を覗き込んだ。
見つけた!!本当にあった!!やった!!
河の中のそれを取り出そうとし、手を伸ばす。が、触れない。
確かに届いているはずだが。何故だ!
もどかしさに苛立ち、乱暴にそれを取ろう踏ん張る。が、どうしても取れない。
「ああああああああああ!!!!」
発狂した。もどかしすぎる。
「もっと効率よく両腕を使って、って、聞いてないな…」
「うがぁああ!」
両手で水面を乱暴にすくい上げる。
何度かやってみると、やっと掴んだ。
「うぅぅ…うがあああ!」
ガブリとかぶりつく。
「がああああああ!!!??」
同時に痛みが走る。だが、食べるのを続けた。いや、食べるのをやめられなかった。
「ほっほっほ、やっと見つけたかい。そうかそうか、美味いかよかったのう」
美味い!美味い!!
だが、痛みが段々体中に広がっていく。
そんなの御構い無しに、食べ続ける。
気づくと、立ち上がる事が出来なくなっていた。それでも食べ続けた。
「うがあああ!!ぉぉううああああ!!」
痛みが強くなってきた。
流石に食べるスピードが落ちてきたが、食べるのをやめなかった。
そして、最後に、それを残し、それを口に含んだまま、
俺は死んだ。
最後まで食べる事が出来なかったが、最後まで食べるのをやめなかった。
こんま美味いものを食べて死ねるなら本望だった。後悔があるとするならば、もっと食べたかった。
最後に食べたのは、今まででこ食べ物の中で一番美味しく、それに、今までで食べたあれの中でも一番美味しかった。だが、涙の味もした。これはどのあれにも共通したが、最後に食べたのが一番涙の味がした。
そう、最後に食べたあれは全てにおいて一番であった。
「ほっほっほ、この村にはもう用は無いな。それじゃあの。」
黒服のサンタクロースは、満足げな表情を浮かべ、この辺鄙な村を去って行った。
ということで、最終話です。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
夏休みの間だけで何とか完結出来ました。
(宿題はまだ終わってないけど)
出来れば8月中に完結させて、他の話もやりたかったですが、これだけでも終わらせることができて幸いです。
それでは、次はそろそろ贈り物の更新をしたいと思っています。
それでは