ごちそう
更新遅れてすみません。
やっと見つけた憎き仇。
体に緊張が走り、自然と力んでしまっている。
だが、それにさらに力を込めて、サンタに今にも飛びかからんとする態勢をとった。
それはまるで、獣のようだった。
構えからに、体に染み付いた血の臭いからに、その全てが人間ではなく、獣に近かった。
相手を殺し、食いちぎることだけを考える。
他のことを『全部』忘れて。
だが、構えをとっていても相手は一向に動く気配がない。
ヒゲに手を当て、優しく撫でながらサンタが言う。
「わしがあげたプレゼントはどうじゃったか?気に入ったか?」
この一言で、少し我を取り戻し、忘れていた今までのこと思い出す。
元はと言えばこいつの所為だった。
こいつが!
自分のことを棚に上げて、ますます怒りが募る。
このことで更にサンタを殺すのに気が行き、更に我を忘れることになった。
そして、抑えきれず漏れた怒りが、口から漏れ出し唸り声になって相手を威嚇する。
そして、相変わらず相手を見下すような目で自分を見て微笑んでいるサンタに我慢が限界値に達した。
怒りに身を任せ、殺気を撒き散らしながら飛びかかる。
が、そんな単純な動きは躱されるに決まっている。
そして、躱されたことじ対して更に怒りが増す。
自分よりも相手に対して。
あいつの全てが憎たらしい。
憎い
もはや我も忘れ、雄叫びをあげながら飛びかかる。
今度は躱されず、だが、攻撃が当たった感触もない。
それどころか、鳩尾の辺りに痛みが生じている。
その痛みで体が重く感じる。
腹を抑え、痛みを消そうとすると、やつは何かを取り出し、目の前に見せつけた。
それには「餌」が映っていた。
腹の痛みも、これを食べれば消えるのだろうか。
頭の中には、食事と憎しみでいっぱいだった。
そして、その思考はすぐさま行動になった。
勢い良く、今度は手だけを素早く相手の手元へ伸ばした。「餌」を奪うために。
今度こそ攻撃が、浅くではあるが当たった。
そして、手元に持っていた餌を弾いた。
最優先事項として、食事に飛びついた。
だが、その餌は、見えているのに届かない。
もどかしい。
これと似たようなものを知っているはずだが、今は食べることが先だ。
いつかは届くはず、もしかした奥行きがないだけでそこにあるのかもしれない。
考えつくだけのあらゆる手を使って取り出そうとするが、結果は虚しく終わり、かじりついたが、いままでの「餌」の味とは違いしかも、硬かった。
空腹が、苛立ちが頂点に達して、それに力いっぱいの拳を打ち込んだ。
腹の痛みは先程よりはひいていたが、その代わりに現在は空腹だ。
さらに、今度は拳が痛い。
見てみると血が出ている。
そして、「餌」だったものは大きな破片と粉々になったものでバラバラに散らばっていた。
だが、これは血が出ていない。
どういうことだ。わけがわからない。
何も分からない。
拳の痛みと考えられないもどかしさから、それを発散するために叫んだ。
叫ぶ以外の術を"知らなかった"。
叫んだ言葉も、意味のあるものではなく、ただ怒りに任せての咆哮とも言えるものだった。
次第にボルテージも上がって、それにつれて声量も上がっていく。
叫び初めに比べ、だいぶ大きくなったところで、急に目の前に指が現れた。
指には血が滴っていた。
その指が指し示す方向に目を向ける。
いや、首が、体が流れ飛び散る血の方向に勝手に反応した。
その先にあったものは、『餌』だった。
なおも先程となんら変わりない、同じ餌がゆらりゆらりと揺らめいていた。
それはまるで挑発しているように見えた。
「俺は絶対に捕まらない。」「結果はさっきと同じだよ。」などなど、口元が動いているのかすら分かったが、耳にはそう言っているように聞こえる。
血によって見つかった餌で、収まっていたボルテージが再び上昇を始める。
今度の叫びは、咆哮は、自分のを発散させるものとは違い、相手に向けて威嚇をしている、殺意むき出しで相手を脅しているような勢いの籠ったものだった。
その咆哮とともに勢い良く餌に襲いかかる。
餌はまだ上半身しか見せてないので、むやみに飛び込むのでなく、相手を弱らせ、こちら側に引きずり出させる算段だ。
だが、そんなことを考えながらか勝手からか、相手の首元を締め付けてやろうと首根っこめがけてひっかくように掴みかかる。
だが、餌は悠々と、ゆらりゆらり躱す。
そして、相手もこちらを攻撃しようとしているのか、同じような行動をとっている。
だが、おかしなことに、お互いの攻撃は当たらない。
こちらの攻撃は確かに当たっている。
当たった時に、こちらの手にはしっかり感触が、冷たい感覚が伝わってくる。
それと同時に餌も形を歪めて揺れ動く。
だが、攻撃をやめると歪み元通りになり、ただ揺らめくのみだった。
だったら、と相手を粉々に、歪めまくって、グチャグチャに、原型を留めぬように、攻撃しまくってしまおう。
再生するよりも速く、多く。
思いつくと同時に体が動き出していた。
殴り潰すように拳を目一杯『叩きつけ』、しばらくしたら、今度は引きちぎるように、掻き乱すように爪を構え荒々しく切り刻みに乱暴にえぐりつけた。
攻撃する度に、餌の方から液体が飛び散った。体液なのだろうか。
だが、これが「血」じゃないことだけは分かる。
「血」が出てないということはまだ『餌』は完全に弱っておらず、逆に食べる部分がまだ分からないということだ。
こんなに攻撃を加えているのに…
だんだんと焦りが募り、それがさらに怒りを掻き立てる要素となる。
次第に攻撃が大振りになる。
が、体液は相変わらず、いや、先ほどよりかはよく飛び散ってはいるが、血はまだ出ていない。
この悪循環が繰り返される。
と、思ったが、結果は早くも得られた。
微かだが血の匂いがする。
それは拳からだった。
餌は相変わらず揺れ動いているが、「手」から血を流していた。
そう思い、またひたすらに攻撃をする。
そうすると、次第に血の匂いも増していく。
それは相変わらず拳からだったが、餌からも流れる量が増えていた。
そして、乱れた末に両手で餌の首元をえぐりに行くと感触があった。
それをえぐり取ろうと爪で力いっぱい食い込ませて引きちぎる。
そして、自分の手を確認してみる。
皮がめくれ上がって、血を流している。
ということは、餌も同じこと。
流れ出る血を舐め取り、餌に目をやると、餌からはもう血は出ていなかった。
それどころか少し満たされたような顔をしていた。
だが先程と違い、皮が近くに『浮かび上がっていた』。
これならば。と、再び両手で掴みかかりにいった。
やはり、感触はあったが見えている餌とは明らかに違う触り心地だった。
それでも、掴めた感触を力を込めて、爪を食い込ませて引っ張る。
だが、それと同時に痛みが走る。
そして、持ち上げて見たが、掴んでいるのは自分の腕だった。
その後も何度やっても結果は同じだった。
ならばと、持ち上げずにその場で引き千切ってみようとする。
やはり、腕に痛みが生じる。
それを堪えて、力んで引き千切る。
案の定簡単に千切れた。
が、腕の痛みが更に増して襲いかかってくる。
それに耐えつつ戦利品を見つめる。
片腕の感触がない。
だが、それは餌も同じようで、餌は片腕をなくしていた。
これでやっと食事にありつける。
鼻を突く血の生臭さを堪能しながら口に運び、餌の一部を食べる。
その味は、今まで食べてきたどの餌より美味しく、どこか懐かしい香りの漂う味わい深いものだった。
こんなに美味いんだ、取るのが難しくて当然だ。
だが、一度出来たんだ。
必ず次も出来るはず。
そして、餌に身を投げ飛び込む。
体全体に冷たさを感じる。
が、失くした腕からはさらに血が流れ出し、痛みがます。
だが、食事のことで頭はいっぱい。
目も開けられなくなっていたが、体全身で暴れ回り、残る腕で掴んだものを片っ端に引きちぎり口へ運ぶ。
掴んだものを容易に引き千切れるようになっていく。
味は先ほどより薄れていたが、それでも美味いことは同じだ。
散々暴れ回った末に、陸に上がり残った手足で這いつくばりながら次なる餌をまた引きちぎり口へ運ぶ。
やはり陸で食べた方が美味しい。
血の香ばしい匂いも漂う。
ああ、なんて幸せなんだ。
這い上がってきた場所を振り返る。
先ほどまで五体満足についていた餌が頭と細くなった片方の腕だけを残しグチャグチャになっていた。
ついには原型をとどめにほどに醜く映っていた。
それに満足し、食事の続きを行う。
餌を無事に食せたことでさらに旨味がます。
だが、食べるスピードは逆に落ちて行った。
こんなに美味しいものを食べているからだろうか、涙まで溢れてくる。
それでもお構いなしに食べ続ける。
だって、こんなにも美味しいんだもの。
もうあまり残っていない餌の、最後の楽しみに取り掛かった。
が、手が震え、涙もボロボロ零れていく。
そして、無意識にそれを引きちぎった時、痛みが遂に頂点に達し、意識が吹き飛んだ。
意識が消える寸前に残った感情は、憎しみや悲しみじゃなく、ただ、満たされない食欲だけが残っていた。
それで満足だった。
美味しい物を食べて死ねるなんて。
ああ、なんて幸せ者なんだろうか。
こんなにも美味しい物を食べさせてくれて、ありがとう。サンタさん。
さよなら父さん。
お腹が減ったからもう行くね。
今行くよ母さん。
それじゃ、バイバイ、つまらない世界。
美味しい世界。
大変長くお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。
まさか病気に負けるとは。
この物語にお付き合い頂いた方々には本当に心からの感謝を。
ありがとうございました。
今回は見返して行くうちにだんだんと量が増えていつもの平均の倍ぐらいの量になってしまいました。
正直、ここまで(物語も)長くなるとは思っていませんでした。
それに前々からあった最終回詐欺はすみませんでした。
まあ前回で終わらせてもよかったし、今回はそれの補足というか細部説明というか、まあエクストラ編ということで。
まあこの物語は「拾い食いするな」と「人から貰ったものは疑え」ということで。
書いてる途中に何度かスマホのサファリが落ちて挫折しかかってましたが、終われてよかったです。
あとは誤字脱字が無いかが心肺です。
それでは、また別の物語で。
長らくありがとうございました。