異世界ドッジボーラー銃兵衛
城の広間。
石畳の床には白線が引かれ、即席のドッジボールコートが作られていた。
周囲を取り囲むハーフリング達は固唾を飲んで試合を見守っている。
ドッジボールだ。
ハーフリングとオーガがボールを投げ合っている。
ハーフリング「なめるな」
オーガの豪腕から放たれたボールは、空気を裂く唸りを上げて飛来した。
ハーフリングが両手でキャッチした瞬間、ゴンッという重い音と共に腕全体が痺れ、ボールは容赦なく腹部にめり込んだ。
小さな体が吹き飛ばされ、石畳の上を滑るように転がっていく。
空に浮かぶ光の珠が静かに告げる。
「ヒット」
ハーフリング達は戦慄した。
オーガ「くっくっく。所詮はチビどもよ。」
それを見たハーフリング王は絶望した。
だが、まだ方法はある。
ハーフリング王は走り出す。
城にある召喚の間へ向かって。
◇
召喚の間にてハーフリング王は召喚魔法を発動した。
『最強のドッジボーラー』を呼び出すために。
ハーフリング王は呪文を唱えると床に書かれた魔法陣が光りだす。
「うおわっっ。何だここは?」
しかし召喚されたのは
人間の小学生『銃兵衛』でした。
銃兵衛が周囲を見回すと、カビ臭くて薄暗い石造りの部屋。
そして目の前には自分と同じくらいの大きさのオジサン。
銃兵衛「変質者!?」
ハーフリング王「ちっがーう!ワシは王じゃ。ハーフリングの王じゃ」
銃兵衛「はぁ?ハーフリングってなんだよ?」
ハーフリング王は銃兵衛を観察するが…
今は細かい事を気にしている場合ではない。
ハーフリング王「まあ良い、君はドッジボール出来る?」
銃兵衛はからっと笑うと
銃兵衛「オレは全国優勝チームのエースシューター銃兵衛だぜ!」
と自慢げに自らの胸を叩く。
ハーフリング王「よく分からんが強そうじゃな!早速ドッジボールをして貰いたい」
銃兵衛「いや、今は休憩中でさぁ。オーバーワークするとコーチに怒られるんだよ」
ハーフリング王「頼む、なんでも望みを叶えるから!」
銃兵衛「別に望みなんてないし」
ハーフリング王「どうか頼む、とんでもなく強いオーガに負けそうなんじゃ」
強いという言葉に銃兵衛が反応する。
銃兵衛「ふーん。強いドッジボーラーがいるんだな」
拳を突き出し
銃兵衛「いいぜ!やってやるよ」
と了承した。
返事を聴くとハーフリング王は銃兵衛の腕を掴んで城の広間へ走り出した。
ハーフリング王「皆よ、待っておれ!英雄が来てくれたぞ」
◇
城の広間に戻ると、
内野にはオーガが三人、そしてハーフリングは一人だけ。
オーガの投げるボールを、最後の一人となったハーフリングが必死に避け続ける。
「ここだ!」
オーガのパスボールへ、迷わず飛び込む。
だが、それは無理なキャッチだった。
着地など考えている余裕はない。
ここで止めなければ、敗北が決まる。
ハーフリングは両腕でボールを抱えたまま、石畳へ叩きつけられた。
バキッ!
「ぐわああっ!」
腕を押さえ、苦痛に顔を歪める。
オーガリーダーは静かに言った。
「よく頑張ったじゃねーか。だが、その腕じゃもう無理だろう」
ハーフリング「くっ…」
銃兵衛「審判!選手交代だ!!」
オーガ「選手交代だと?」
空に浮かぶ光の珠が銃兵衛の周囲をゆっくりと旋回しながら
「認めます」
と告げた。
オーガA「ふざけるな!俺達の勝利が決まったような状況だろうが!」
オーガB「ここで負けるわけにはいかねぇんだ!」
オーガ達の叫びには、ただの勝負以上の必死さがあった。
だが
オーガリーダー「よせ!!神の判断は絶対だ」
その言葉にオーガ達はしぶしぶ従う事にしたようだ。
銃兵衛はコートの中に入っていく。
オーガ「ふん。お前はハーフリングにしては大きいようだが俺達に言わせればチビよ」
銃兵衛「へっ、ドッジボールに体の大小は関係ねーんだよ」
銃兵衛はボールを振りかぶる。
銃兵衛「いくぜー!ブーメランショット!!」
ボールが空気を裂いた。
オーガ「なんだぁ?普通じゃんかよぉ」
オーガがキャッチしようと手を伸ばす…が
手前で大きくカーブしオーガの手を掠め…他のオーガに向かう。
オーガ「なにっ!」
不意を突かれた他のオーガにもヒットした。
オーガチームは残り1人。
そしてボールはオーガチームに。
オーガリーダー「ほう、お前もマジックボールを使えるのか」
銃兵衛「マジックボール?なんだそりゃ??俺のはテクニックだ」
オーガリーダーは静かに頷いた。
オーガリーダー「ではマジックボールという物を見せてやろう」
オーガリーダーはブツブツと呪文を唱え出した。
するとボールが燃え出した。
オーガリーダー「くらえ!ファイヤーショット!!」
オーガリーダーの放ったボールが一直線に銃兵衛に向かう。
銃兵衛「ちっぃ」
銃兵衛はギリギリで躱すが熱が服を焦がす。
ボールは外野の先の壁に衝突する。
ゴォン!!
なんとボールは壁を砕き散らした。
オーガリーダー「躱すとは…なかなかやるな」
空気が重くなる。
だが
銃兵衛「うおおっ!すげーじゃねーか」
銃兵衛は飛び跳ねた。
オーガリーダー「臆するどころか喜ぶだと?」
銃兵衛「当たり前だろ?ドッジボールは楽しいんだ」
ボールが外野から内野へ戻る。
オーガリーダー「ふっ。喜ぶのは、このファイヤーショットをキャッチしてからにしろ」
オーガリーダーは呪文を唱え始める。
オーガリーダー「トゥレン・ヘンキ、アンナ・タッレ・パッロッレ・リエッキシ・ヴォイマ」
再びボールに炎が纏われる。
オーガリーダー「いくぞ!ファイヤーショット!!」
高速の炎の砲弾が銃兵衛を襲う。
熱波が頰を炙り、視界が赤く染まる。
「うおおおおおお!」
銃兵衛は咄嗟に両腕を交差させてボールを受け止めた。
ゴオオッ!!
凄まじい衝撃が全身を貫く。腕の骨が軋み、熱が皮膚を焦がす。
それでも銃兵衛は歯を食いしばり、足を踏ん張った。
オーガリーダー「馬鹿め!弾き飛ばされるだけだ!」
確かにすごい威力だ。
腕が弾け飛ばされそうになる。
だが、まだやれる事はあるはず。
そうだ!
銃兵衛「トゥレン・ヘンキ、アンナ・タッレ・パッロッレ・リエッキシ・ヴォイマ」
炎が銃兵衛の思いに答えるようにボールを包み直す。
もはやボールは銃兵衛の物だ。
オーガリーダー「なにぃ!お前も古代精霊語を!?」
銃兵衛「アンタの真似しただけさ」
一か八かだったが上手く行った。
炎を制御できた銃兵衛は新たな必殺ショットを構える。
銃兵衛「いけぇ! ファイヤーブーメランショット!!」
炎をまとったボールが唸りを上げて飛び出す。
一直線――そう見えた次の瞬間。
ボールは大きく弧を描き、オーガリーダーの横をすり抜けた。
「外れた!」
誰もがそう思った、その瞬間。
炎の軌跡を引いたボールが鋭く切り返し、背後からオーガリーダーへ襲いかかる。
オーガリーダー「なっ――」
避ける暇はない。
ドゴォッ!!
オーガリーダー「ぐわああああっ!!」
炎の一撃が胸を打ち抜き、巨体は石壁まで吹き飛ばされた。
「ヒット……ハーフリングチームの勝利です」
空に浮かぶ光の珠はそれだけ告げると静かに消えた。
◇
ドッジボールはハーフリングチームの勝利で終わった。
オーガリーダー「くそっ…」
倒れているオーガリーダーは涙を流す。
銃兵衛「アンタもドッジボールに真剣なんだな」
握手を求める。
が、オーガリーダーはその手を払う。
オーガリーダー「そんなんじゃない」
銃兵衛「……なら何故泣く」
オーガリーダー「これはオーガ国の命運を賭けた勝負だからだ」
銃兵衛「どういう事だよ?」
ハーフリング王「オーガ国は異常気象により食料が足らなくなったんじゃ」
銃兵衛「……だから奪いに来たってのか?」
オーガリーダー「そうだ」
銃兵衛「ドッジボールで?」
その問いに沈黙が起こる。
銃兵衛は周囲の人間の様子を伺っていると
ハーフリング王「戦争の代わりにドッジボールで決めるのが神の定めたルールなのを知らぬのか?」
ハーフリング王が問直す。
銃兵衛「なんだそりゃ?どんな世界だよ?」
ハーフリング王「もしかして……異世界の人間?」
銃兵衛「異世界ってなんだよ!」
ハーフリング王は頭を抱える。
銃兵衛は改めて周囲の人間をよく見ると……
ハーフリングと名乗る小さな人間、
オーガと呼ばれる巨大な人間、
余りにも自分と違い個性的である。
ここが自分のいた世界とは違う所である事をなんとなく理解はした。
銃兵衛「つまりオーガ国の飢饉を救えなかったから泣いているんだな?」
オーガリーダー「そういう事だ」
銃兵衛はハーフリング王を見る。
銃兵衛「なあ、そのオーガ国に食料を分けてやってくれないか?」
ハーフリング王「はあぁ?せっかく勝ったのに?嫌に決まっとる」
銃兵衛は呆れたように額を抑えて言う。
銃兵衛「アンタ、なんでも望みを叶えるからって言ったじゃん」
ハーフリング王「ぐむむ」
ハーフリング王「ええい。分かった。我々が困らない程度に貸してやる」
ハーフリング王は悔しそうに腕を振りながら言った。
オーガリーダー「いいのか?」
ハーフリング王「英雄様のお陰で勝てたのだ。仕方あるまい」
オーガリーダーは深く頭を下げた。
オーガリーダー「俺は負けた。だが俺の国は救われた」
そして銃兵衛を真っ直ぐ見た。
オーガリーダー「感謝する。英雄殿」
銃兵衛は照れくさそうに頭をかきながら、視線を逸らした。
銃兵衛「あー。そんな畏まるなよ」
そう言って右手を差し出す。
オーガリーダーはその手を力強く握り返した。
銃兵衛「俺はアンタみたいな強いドッジボーラーと戦えただけで満足さ」
こうしてオーガ達は食料を分けて貰える事になりました。
◇
銃兵衛「で、いつ俺を家に帰してくれるんだ?」
ハーフリング王「え?出来ないんだけど……」
銃兵衛「はぁ?」
ハーフリング王「召喚魔法は呼び出すだけ。送り出す魔法は別なんじゃ」
銃兵衛「ふざけんな!」
銃兵衛はハーフリング王にボールをぶつける
ハーフリング王「ぶっほあぁ」
ハーフリング王はふっとんだ。
銃兵衛「まあいい」
銃兵衛はボールを肩に担ぐ。
銃兵衛「この世界には強いドッジボーラーがたくさんいるんだろ?」
ハーフリング王「お、おるぞ」
銃兵衛はニヤリと笑った。
銃兵衛「じゃあ決まりだ」
銃兵衛「この世界でも最強のドッジボーラーになってやるぜ!」
その言葉を聞き、ハーフリング王は少しだけ安心した。
そして少しだけ不安になった。
――この少年は、いったい何人の国を救い、何人の王にボールをぶつけるのだろうか。
【完】




