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10人目

作者: 奈月ねこ
掲載日:2026/03/24

ひだまり童話館第37回企画「開館10周年記念祭」参加作品です。お題「10の話」

「うわっ! 遅刻だ!」


 亮平は慌てて家を飛び出した。ごはんも食べず、ネクタイ、スーツの上着を抱えて走りだす。


「そのバス、待ってくれー!」


 ちょうどバスの扉が閉まりかけた時に、亮平はバスの扉を叩いた。バスの扉が開き、亮平は飛び乗った。

「時間ギリギリだよ」と、バスの運転手さんに言われ、謝る。でもこのバスに乗らなければヤバかったのだ。

 バスは走りだし、乗り継ぐ電車の駅前で降りる。なんとか電車にも間に合い、亮平は目的地に到着した。


「さあ、ここからだ」


 今日は就職の最終面接の日。亮平にとってとても大事な日だ。


 亮平は面接会場へ向かった。待合室には既に数人の人たちが椅子に座っていた。最終面接に残ったメンバーだろう。空いていた椅子に座ると、自分で作成した面接についての対策論文を確認した。どんな質問をされても答えられるためだ。

 待合室は静かだった。ピリピリとしたムードが漂っていた。そんな中、順番に名前を呼ばれ、面接室へ一人ずつ入っていく。面接室から出てきた人たちの顔は様々だった。


 (どんな質問が出たのかな)


 亮平はドキドキしながら自分の番を待った。とうとう亮平の名前が呼ばれた。


 扉をノックし、中から入るように声が聞こえてから中へと入る。


「失礼します」


 面接官の前まで進んでから、挨拶をする。


「高橋亮平です。よろしくお願いいたします」


 お辞儀をしてから椅子に座る。そして面接が始まった。

 面接は、会社の志望動機など、一般的なものが続いた。想定していた問答集のとおりに答えていた亮平だが、その時お腹が鳴った。


 グゥゥゥ


 亮平は朝ごはんを食べていなかったため、お腹が空いていたのだ。静まりかえる面接室。汗をだらだら流す亮平。


 (何でこんな時に鳴るんだ!)


 そう思っても鳴ってしまったものは仕方がない。亮平はもうどんなことを言われても構わないと開き直った。


 そんな時、面接官が言った。


「今回の採用は10名なんだよ」

「君、もう出ていっていいよ」


 そう言われては出ていくしかない。


「……ありがとうございました」


 一言言ってから退室した。


 (あああ、もうダメだ~)


 亮平はとぼとぼと家に帰った。

 家に帰ると母親から「どうだった~?」と軽い口調で聞かれた。


「ダメだったよ」

「まだ結果は出てないんでしょ?」

「でもダメだったんだよ。お腹が鳴って、面接室を追い出された」


 その言葉を聞いた母親は、大声で笑いだした。


「だから食べていきなさいって言ったのに」

「時間なかっただろ」


 俺はふてくされて自分の部屋に閉じ籠った。


 (あーあ、また就活か)


 亮平は憂鬱になった。


 一週間後、面接を受けた会社から一通の封筒が届いた。どうせ不採用だろ。そう思いながら封を切った。すると、「採用」の文字が目に入ってきた。


 亮平は、その紙をひっくり返し、裏面も確認した。また表を見ると、「採用」の文字があった。


「採用された!」


 亮平の大声に、母親は「良かったわね」と言ってくれた。


 亮平はその用紙を抱きしめ、もう一度じっくりと眺めた。すると裏面の右上に何か書いてあった。


『10』


「10!? 10番目ってこと!? ギリギリだったんだ……」




 少し時は遡り、亮平が面接を受けた部屋。亮平の面接が終わって、出ていった後、面接官たちは大爆笑していた。面接官が亮平を部屋から追い出したのは、皆笑いをこらえていたからだったのだ。


「あれは大物になるぞ」

「営業向きかもな」


 面接官たちは笑いながら、それぞれの用紙の亮平の名前の横に「採用」と記入した。


 採用用紙の裏面に記載されていた『10』。それは採用者へ対し、確認した面接官の人数だった。亮平はそれとも知らず、「ギリギリだった」と汗を拭いたのだった。


 実際亮平が何番目に採用されたかは企業秘密である。



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