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やり直し転移は選べない  作者: 望月蜜桃


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 あれから私は目が覚めてはうとうととし、また眠る、を繰り返していた。


 ユリウスの説明では攫われた時、殴られた衝撃で特殊な回復魔法が解けてしまったらしい。再度その特殊な回復魔法をかけなおしてくれたらしいのだが、体への負担が思ったよりあったらしく、今は絶対安静だと言われた。


 意識がはっきりしたのは助け出されてから三日後だった。

 目が覚めた時に水分は取っていたものの何も食べていなかったため、しっかりと空腹だった。


 まだうまく起き上がれない私のためにベッドまで食事を運んでもらった。

 はじめは具のないスープだけ。それでも一杯分すら食べることができずにその日は休んだ。


 その時はじめてここがブンゲルト領の領主館、ラルフのお屋敷の離れだと知った。

 盗賊に狙われたエメリヒと私をラルフが保護してくれたらしい。

 今はなぜ狙われたのか、それを調べてくれているそうだ。


 そして私を雇ってくれたマチルダには、私が暴漢に襲われケガしたため仕事ができなくなったとユリウスが断りに行ってくれたらしい。

 その際パッチワークキルトの登録の件を知ったユリウスが、私の意思を確認し対応すると伝えたそうだ。

 マチルダがとても心配していたと聞いたので、動けるようになったら謝りに行こうと思う。


 翌日は量を減らしたスープを二回に分けて。

 食べては寝てを繰り返し、途中、ラルフが手配してくれたメイドさんに手伝ってもらって入浴をさせてもらった。至れり尽くせりである。


 私が療養させてもらっている間もエメリヒはエルンストとアンネリーエを待って張り込みを続けていたと聞いた。未だに姿を現してはいないけれども。




 そして一週間後には固形物も食べれるようになった。


 その頃にはもう外に出られそうではあったのだが、エメリヒとユリウスの監視が厳しくベッドからは未だに出してもらえてない。




「あの、ラルフ様は今日も忙しいんでしょうか?」

 エメリヒは今日も張り込みで、今はユリウスと部屋に二人きりである。

 と言ってもとても広い一部屋なのだが。


 私達が使わせてもらっている離れは、一階に一番広い客室、二階に三部屋ほどこちらも広い客室があるらしい。エメリヒとユリウスは二階の部屋を、私は一階の一番広い部屋。

 私が一階なのは私の世話がしやすいのと、ほぼエメリヒもユリウスもここにいるからである。


 一階の部屋には手触りが滑らかなベロア素材のソファとローテーブルが置かれてあり、キャビネットには白い花が飾られている。その奥には私が使わせてもらっている大きなベッドがあって、全体的にチョコレートブラウンで色味が揃えられた、とても居心地の良い素敵な空間になっている。


 ただ一つ、ベッドのすぐ横に私を監視しやすいようにと机とイスをわざわざ移動させて設置されていなければ、であるが。


 そこに座り何かの書類に目を通しているユリウス。

 視線はそのままで先ほどの私の質問への答えは簡潔だった。

「そのようだが」


 そうだろうとは思っていたが、私は落胆が隠せなかった。

「…そうですか…」


 ようやくこちらを見たユリウス。

「何か用でも?伝えておくが」


「いえ…お世話になってるのにお礼も言えてないので」

 と言うのは建前で、顔が見たいと思っただけだ。

 あの攫われた日、変な別れ方をしたままだったから。


「…時間ができたら来てもらえるよう伝えておこう」

 ユリウスの言葉に「お願いします」と期待を込めて返事をする。


 横になるのにも飽きてベッドから下りる。

「部屋からは出ないように」

 すぐ釘を刺された。

 私は「はい」と返事をすると窓際までいき外を眺めた。


 さすが領主館である。離れとはいえとても手入れが行き届いた庭が広がっていた。

 季節柄花は少なかったが紅葉が美しく、景色だけを見ていると日本にいるようだった。


 …そう言えば攫われた時、何か懐かしいものを見た気がする…。

 それに帰りたいと願ったような…。

 なん、だったっけ…?


 この景色みたいに懐かしい、日本の…。




「君の故郷とこの世界は似ているのか?」

 いつの間にそばに来たのか、ユリウスが隣に立っていた。


「…ユリウスさん…」

 考え事をしていたのでちょっと驚いた。

 そして私は彼の問いに答えようとして、止まる。


 この世界…その表現に引っ掛かった。

 ユリウスを見上げると彼も私を見つめていた。


「…詳細は言えないが、君がこの世界の人間ではないことを知っている」


 え…?

 ユリウスが言ったことの意味を理解するのに時間がかかった。


「え…」


 …どういうこと?

 知ってるって、何で…エメリヒ達にだって言ってないのに。


 思わず後退る。


「…何のことでしょうか…」

 墓穴を掘ったと思った。

 こんなに動揺したら認めたも同然だったから。


「君をどうこうするつもりはない。…ただ元の世界…故郷に帰りたがっていると…」

 ユリウスは淡々と言葉をつなぐが、どこか確信を持っているようだった。


「…」


 ユリウスがジッと私を見つめる。私が答えるのを待っているのだと思った。


 怖い…。




 でもユリウス相手にごまかせるとも思えなかった。


 …それに独り隠し続けていることにも…限界だった。


 もしユリウスに「頭がおかしい」と断罪されるなら、それでもいいか…。




 もう…正直に言おう…。

 帰りたがっている?…それはそう。でも…。


「…帰れません。もう体がないので」

 私は日本で死んだのだ。

 戻れたとして体はとっくの昔に火葬されているだろう。


 ユリウスが小さく息を吞んだ。


「私にも何でこの世界に来たのか分かりません。でも神隠しのように迷い込んだんじゃないので。元の世界で私は死んでるから戻れません」


 ユリウスは驚いたまま私を見つめている。

 彼は私の話を聞いてどう思っただろう。


「死んだ人間だと聞いて気持ち悪いですか」

 私は一歩ユリウスから離れる。


 そういえばこの世界にアンデットっているのかな?

 魔物扱いされたらどうしよう。


 …まあ…それもいいか。




 ーーグイッ


 え…?




 気づくとユリウスに抱きしめられていた。


「君の体はここにある。戻れないならここにいればいい」




 …そんなことを言われるとは思わなかった。




「ここには君の家族がいる。エメリヒやエルンスト…母親もとても優しそうな女性だった」

「両親を…知ってるんですか?」

「森の調査をしていた時、君の両親が村の荷物を馬車で運んでいく姿を見た」

「そう、なんですね」

 私達が最後に見たエルンストとアンネリーエ。ユリウスも見てたんだ。

「もし違う世界から来たことが、彼らと一緒にいられない理由になるのなら」

 ユリウスは私をさらに強く抱きしめた。

「俺のところに来たらいい」

 …それは…

「同情ですか?」

「…そうかもしれない。でも君一人ぐらい養える」

 ユリウスの返答に驚く。

「…そういう問題ですか?」

「違うのか?」

 なんというか…ユリウスは少しズレてる気がする。


 でも、私に逃げ道を用意してくれたんだと思った。




 ユリウスは私が弱ってる時に欲しいものをくれるな。

 それは言葉だったり、彼の手だったり。




「じゃあ…その時はお願いします…」

 なんだが気が抜けてユリウスの胸にもたれかかる。

「ああ」

 変わらないユリウスの無関心な返事。

 …この人といるの、本当に気が楽だな。




 トクン…トクン…トクン…


 ユリウスの心音が聞こえて安心する。


 生きてる音がする…。




 そういえば…私の音もちゃんとしているんだろうか?

 考えたこともなかったけど…一度死んでるんだよね。




「ユリウスさん…私の心音って聞こえますか?」

 私はゆっくり体を離すとユリウスを見上げた。


「…確認したことはないが…してるんじゃないのか?」


 自分で自分の胸に手を当てる。

 うん、動く振動を感じる。

 でも私以外の人に確認してほしかった。


「ユリウスさんも確認してくれませんか?」

 ユリウスの手を取って胸に当てようとした。


「待ちなさい」

 ユリウスの手の引き抜きは素早かった。

「それは…いろいろと問題があるだろう」

 そう言うと私から一歩離れた。


「じゃあ耳を当てて聞いてくれませんか?」

 私がさっきユリウスにしたように。


「…っ、それは…必要なことなのか?」

 ユリウスが思った以上に動揺している。


 だけどーー。

「はい」

 私は迷いなく答える。


 ユリウスは少し視線をさまよわせた後「分かった」と、私の前に片膝をついた。




 私の腰に触れると体を引き寄せる。

 いつも見上げるユリウスが、私を見上げてもう一度確認する。

 私が頷いて見せると、彼は顔を傾け自身の耳を私の胸に当てた。




 …トクン…トクン…トクン…




「聞こえる。ちゃんと心音は鳴っている」

 ユリウスがはっきりとそう言ってくれた。


 そっか…。


 そっかぁ…。



 ちゃんと聞こえるんだ、私の心臓の音。




「私は…生きてるんですね…ここで…」




 生きている。




 見て見ぬふりをしていた本音と向き合うのに、一年かかった。


 この世界に来てエルンストやアンネリーエ、エメリヒと過ごしたことも、怖い思いをしたことも、ユリウスに慰めてもらったことも…全部、全部、私が向き合うために、きっと必要なことだったんだな。


 …ポタ。


 ユリウスが私を見上げる。

 彼の頬に私の涙がポタリ、ポタリと落ちて。


「ーーっ」




 この世界も…私の人生の続きなんだ。

 いらないなんて言っちゃダメだった。


 やり直したいなんて、私のエゴだけど…。




 それでも続いているのなら…ちゃんと頑張らなくちゃ。




 一生懸命…生きなくちゃ。




「っ、っっ、~~っ」


 涙が止まらなくなって嗚咽が漏れる。

 ユリウスが私を抱きよせた。


 私がしがみつくとユリウスの膝の上に乗せてくれて。

「うぅ~~っ」


 この世界の大好きな人達のことを想う。


 もう帰れない日本をこの世界に探すのはやめよう。

 それは決して大切な人達を忘れることじゃない。


 でも今を大事に生きていこう。

 大好きな人達と生きていこう。




「ユリウスさん、私…頑張ります。この世界で…」




 ユリウスは何も言わなかったけど答えの代わりに強く抱きしめてくれた。








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