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やり直し転移は選べない  作者: 望月蜜桃


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 規則正しい呼吸が聞こえる。

 休むように言うと彼女はあっさりと意識を手放した。


 イーヴォが体から一度出たことで馴染んできていた回復魔法が途切れた影響だろう。

 リナ自身の体が回復しようと眠りを欲していた。


「聞いていたんだろ」

 ユリウスがそう声をかけると突っ伏していた銀髪が頭を上げた。


 エメリヒはリナを見ると掛け布団から出ていた手を中に入れる。

 小さくため息をついた。


「二股されたなんて知らなかった…」

 エメリヒは自分達と会う前の話だろうと思った。自分達と一緒にいた時にそういった相手はいなかったと断言できる。唯一リナがラルフに好意をよせているのではと疑ったことはあったが、本人が否定していた。


 リナが他人からの視線に鈍感だったのは、無意識にそういう気持ちを遮断していたからなのかもしれない。




『…この娘は元の世界に戻りたがっておる』

『もう戻れない世界にのう…』




 故郷に帰りたいのは家族に会いたいからだと思っていたけど…本当はそいつに会いたかったからなのだろうか。


 泣くような思いをしたのに…その二股野郎に会いたい…のだろうか。




 …まだそいつが好きだから?


 そこまで考えてエメリヒは胸をグッと掴まれたような苦しさを感じた。




 俺ならそんな思いさせないのに。







 黙ってリナの寝顔を見つめるエメリヒ。その横でユリウスも考えていた。




『この世界に執着するものを持たせてやれ…』




 それは何なのか。

 この世界にいたいと思わせることとは。


 彼女がこの世界を好ましく思い、この世界で生きていきたいと思うこと。




 それを知るためにはまず良い信頼関係を築かなくてはいけない。


 だが本来ユリウスは他人に干渉することもされることも嫌う。

 しかし神獣イーヴォを宿したリナを誰かの手に委ねるわけにいかない。

 しかもリナを生かすことを望んでいる。

 ユリウスと協力者であるエメリヒでどうにかしなければいけない。


 だがユリウスは初手で躓いていた。信頼どころか『拒絶と失望』を彼女に持たれてしまった。関係改善の一歩としてリナの気持ちを優先し謝罪した。


 そして知った事実は『拒絶と失望』はユリウスに対してではなく、リナの元恋人に向けてだと分かった。


 とは言っても婚約者とリナを天秤にかけるような提案をした時点で彼女の信頼はないと思っていいだろう。


 ここから挽回するには彼女を理解し、自分を理解してもらうこと。


「…」

 それが一番難しい…。


 ユリウスは魔物と戦うより難しいと眉をひそめた。







 どのくらい時間が経っただろう。


「失恋した少女に必要なものは何だと思う?」

 ユリウスの質問にエメリヒは「は?」という顔をした。

 何故ユリウスがそういう疑問を持ったのか、その経緯は謎だったが、彼は本気だった。


「真面目に聞いている」

 そんなこと真顔で聞かれるとは思ってなかったエメリヒは戸惑った。

「そんなこと…」

 ユリウスがリナのことを言っていると分かったが、エメリヒも言葉に詰まる。


 ここにシュネート村で恋バナが大好きなスーザンがいれば

『そんなの決まってる!新しい恋だよ!』

 と言っただろう。


 だがここにいる二人は周囲に好意をよせられることは多々あっても、自ら誰かに好意をよせたことがない。フラれた経験がない。そんな二人が『新しい恋』という発想がなくても仕方がなかった。


 二人は押し黙る。




 コンコン。


 控えめなノックの音。

 ユリウスが確認すると相手はラルフだった。


「リナの様子はどうですか?必要な物などあればすぐ用意しますが」

 ラルフは部屋に入ることなくそう伝える。

 ユリウスは人のよさそうな彼ならと考えた。


「失恋した少女に必要なものは何だと思う?」

 突然の質問に面食らうラルフ。

「え?」

 それはモテるユリウスやエメリヒの方が詳しいのでは?と思った。

 だが彼は持ち前の応対力で答える。


「そうですね…もし友人が失恋したら…まず話を聞いてあげますね。いろんな気持ちがあると思うので。それから食べたり遊んだり、一緒に気がまぎれることをしますね」

 すらすらと提案が出てくるラルフ。ユリウスもエメリヒも感心してしまう。


「あとは…新しい男性を紹介することでしょうか?」

 その提案には二人とも顔を顰めた。

 二人の反応を見てラルフは苦笑いする。


「失恋したのはリナですか?」

 少女と言葉を変えても、この二人が関心を持つのはリナだけだろうと。


 だがラルフもリナに好きな人がいたことに驚いていた。

 そんな素振りを見たことがなかったからだ。

 でも失恋したのであれば付け入る余地があるのではないのか。


「もしよろしければリナの相手に私が立候補しても?」


 ユリウスとエメリヒが息を吞んだ。




 誰も何も答えない、一時の沈黙。




 ふっと小さく笑った。

「冗談です。この盗賊の一件が片付き次第、リナを忘れるという約束は守ります。それまでは何でも協力しますので仰って下さい。では」


 ラルフは笑顔を崩すことなく礼をすると廊下を戻っていった。




 ユリウスもエメリヒもラルフの気持ちに言葉が返せなかった。






 リナが休んでいる部屋から遠ざかり、ポツリと本音が漏れる。

「ちゃんとリナに伝えたかったな」

 ラルフにとって最初で最後の告白の場になった。


 ユリウスに『忘れてほしい』と言われた時点でもうリナを手に入れることは不可能ではあったのだが。


 それでも機会があれば逃したくはなかった。

 最後の悪あがきである。



 ラルフにとって自分が好きになった女性を結婚相手として選べる、最後の機会だったからだ。








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