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やり直し転移は選べない  作者: 望月蜜桃


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 イーヴォの呼び声に飛行魔法で馳せ参じた美青年。


「遅くなりました。イーヴォ殿」

 軽く頭を下げたユリウス。


「何をやっておった!」

 イーヴォが長い尾を床に叩きつける。


 イーヴォの苛立ちを感じ視線の先を見る。そこには縛られ血が滲んで意識を失っている少女の姿だった。


 ブワリッ


 いつもは己の魔力を最大限まで抑えているユリウス。

 だが怒りから溢れ出た魔力によって外套がたなびいた。




「助けよ」

 一言。

 それだけでイーヴォの体はまたずぶりと少女の中へ入っていく。


 ユリウスはイーヴォの姿が完全に入ると、すぐさま回復魔法をかけた。

 前回のように一気に魔力を注ぎ込む。


 再び『魔器』となったイーヴォが回復魔法の流れを再構築する。


 すると少女の顔色はすぐに戻った。

 頭にできた傷も頬にできた痣もみるみるうちに消えていく。


 止まる寸前だった呼吸も回復した。

 ホッと息を吐くユリウス。


 するとパチリと少女が目を覚ました。


「早く解かぬか」

 忌々し気な表情で命令する少女。

 いつもの彼女を知っているとどうにも違和感がすごい。


 ユリウスは少女を縛っている縄を部分的に凍らせ割り折った。

 自由になった少女は横になったままゆっくりと体を動かす。


「うむ…なんとか繋がったようじゃのぅ」

 はぁーっと深く息を吐く。


 イーヴォはリナの魔器として中にいる間、リナと同化した状態にあった。

 リナが何を考え、どう感じたのか、心の声が聞こえる。

 そして体に受ける痛みなどの感覚も直に衝撃を受ける。


 リナが受けた暴力をイーヴォは看過できなかった。


 チラリとユリウスを見上げた少女。心なしか目つきが悪い。


「鼠が二匹おる。殺せ」

 それはリナを攫った男達二人を指していた。







「はっはっはっ」

 全力で森を駆け抜ける男。


 冗談じゃねぇ!何なんだあれは!

 あんな恐ろしい化け物が出てくるなんて聞いてねぇよ!!


 男はリナの学生カバンをしっかりと持ち、とにかく必死で逃げた。

 男の雇い主は当然置いて逃げた。

 金より自分の命である。


 あんな巨大な狐の魔物見たことねぇ!

 あれは…あれは…このブンゲルト領にいるっていう狐の神獣なんじゃないのか?


 それなら…あの小娘、あれはいったい何なんだ…。

 あの小娘の体から巨大な狐の魔物が出た…。ああそうだ、出たんだ。

 けどまた中に入りやがった!!


 もしそうなら…あの小娘の体に神獣を宿してるってことになる…。

 そんな馬鹿な話…。


 もし、もしもそれが事実なら…あの小娘は…。


 ガサッ…


 ビクリと体が揺れた。男は未だかつてここまでビビったことはなかった。

 立ち止まり、息を潜め、手に持っていたナイフを構える。


 ガサッ…ガサガサッ…




 草むらから出てきたのは銀髪の美少年。

 男は舌打ちをした。


 くそ…次から次へとよぅ…。


 神獣ではなかったと喜べはしなかった。

 男は見ていたのだ。エルンスト家を襲撃したならず者達を先ほどの美青年とこの美少年が一瞬で全滅させたところを。そしてあの場でならず者のボスの口を塞いだのがこの男だった。


 男は何とか戦闘を避け逃げようと、じりじりと後退りした。


「そのカバン…」

 美少年は無造作に近づくと右手を下から上に振り上げた。


 ザシュッ


「ぎゃぁっ!!」


 男の左肩をエメリヒの風魔法で切ったのだ。

 ドサリと学生カバンが落ちる。


「ひっ…!!」

 男はよろめきながらもエメリヒと距離を取ろうと後ろへ飛び逃げた。

 エメリヒは男が落とした学生カバンを拾いながら男の血がついてないか確認する。


「よかった。汚れてない」

 リナの学生カバンの埃を払うと斜め掛けにし、ホッと安堵する。


 男にはエメリヒの行動が異様に見えた。あの小娘と同じように異様な生き物に。

 エメリヒがチラリと男を見る。

「リナは?」


「生きてる!あの娘なら生きてる!!奇麗な兄ちゃんが連れてるよ!!」

 だから助けてくれと続けようとして、言葉は続かなかった。



 ズブッ………ズッ…




「あ…」


 …ドサリ…。




 男は膝から崩れ落ちるように倒れる。




 襲っておいて助けてもらおうなんて図々しいな…。


 エメリヒは男を刺した短剣の血を拭うと鞘に収めた。


 神獣の魔力が解放された直後の遠吠え。それはエメリヒにも分かっていたが、自分より遥かに早くユリウスが飛んでいくのが見えた。それを追ってきての今である。


 エメリヒは男をそのままに走り出した。




 リナは…本当に無事なんだろうか?

 あの夜、神獣は怪我が完治する前にリナの体から出れば壊れると言った。


『…そうじゃ。出ると壊れる』


 神獣の遠吠えが聞こえた時点で、リナの体から出ているんじゃないのか?

 あの大ケガした夜の状態に戻っているんじゃないのか、と心だけは焦る。




 一刻も早くリナの無事を確認したい。

 エメリヒは全速力で駆け抜けた。







「ひっ!…た、助けてくれ…っ」

 男はみっともなく懇願した。立派な衣服は尻もちをついたせいで汚れ、恐怖のあまり涙が頬をつたっている。


「正直に話せば助けてやる。何故この家族を狙った?」

 ユリウスは片手でリナを抱いたまま冷たく見下ろす。

 その少女は眠たげに欠伸をしていた。


「み、見られたから…俺が盗賊を手引きしたのを、エルンストに!」

 ガタガタ震えながら答える。


「だがこの娘達の話だと両親は川に流されたと聞いたが」

 ユリウスの言葉に男は逆上し両手で地面の土を握りしめる。


「死ぬわけないだろう、あの男が!あいつは元冒険者だ!しかも腕利きの!!あんなので死ぬもんか!!だから、だからガキ共を人質におびき出そうと…くそっ!何でこんなことに…あいつらがヘマさえしなければ…くそっ…」

 最後には己勝手な言葉を重ねた。


「他に仲間は?」

 ユリウスの質問に男の肩がビクリとする。

「…いない…」


 いるのか。


「エルンストに見られたのはお前だけか?」

 男は震えながらこくんと頷いた。


 怪しいな…。

 面倒だと言わんばかりのため息が漏れる。

 後の調べは領主に委ねようと男に背を向けたユリウス。


 ズブッ

「ぐっ…」


 男はユリウスが作り出した氷片に後ろから胸を貫かれ前のめりに倒れた。




 エメリヒと合流するためユリウスは少女に振動を与えない程度に急いで歩いた。

「眠たいのですか?」

 片手で抱いている少女は先ほどのやり取りを聞いていたのか聞いていなかったのか、うつらうつらとしている。


「…この娘は元の世界に戻りたがっておる。もう戻れない『主』と同じ世界にのう…」

 イーヴォの言葉でリナが『主』と同じ世界の住人だと判明し、ユリウスは密かに動揺した。質問したい気持ちを抑え、イーヴォの話に耳を傾ける。


「このままではこの娘は生きてはいけぬ。この世界で生きたいと思わせてやれ。この世界に執着するものを持たせてやれ…いい…な…」

 そう言うとスーッと穏やかな寝息を立ててユリウスに全身を預けた。


 寝顔はいつもの無防備な少女に戻っていた。


「…難しいことを言う…」


 ユリウスはリナから向けられた拒絶と失望を思い出し、またため息が出た。








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