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やり直し転移は選べない  作者: 望月蜜桃


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 浮遊感の直後、何かの上に乗せられた。


「リナ!!」

 と同時に私の名を呼ぶ声。


 振り返ると目の前に見知った顔があった。




「ラ…ルフ…さま…?」




 グッと私のお腹を抱え込むように腕を回され、彼の顔が近づく。

「よかった…生きてた…!!」


 ラルフの瞳に薄っすらと涙が浮かぶ。

 そのまま痛いくらいに抱きしめられ、私の肩に顔をうずめたラルフ。


「君達の家が盗賊に襲われたと報告を受けた。盗賊の死体はあるのに君達が行方不明で…俺は…」

 ラルフの声は上ずっていて、それ以上は言葉にならなかった。




 こんなに、心配かけてしまったんだ…。


「ごめんなさい…ラルフ様。エメも生きてます。大丈夫です…」

 ラルフの背中にそっと手を回しさする。


「…そうか…よかった…」

 彼のかすれた声に胸が痛くなった。


 私にとってラルフはエメリヒとすぐ険悪な空気になってしまう困った人だった。

 しかも彼が来ると村の女の子達に冷やかされて大変で。

 それに貴族としては変わってるし、マヨラーだし。


 でも『そろばん』の件で話すようになってから、面倒で穏やかな日常の一コマにはラルフがいるようになった。


 今…こんなふうにラルフに抱きしめられて心配されてることを嬉しく感じてる。

 自分が思う以上にラルフは私の中で親しい人になっていたみたいだ。




 ようやく私の肩から顔を上げたラルフ。

「すまない、取り乱して」

 そう言った彼はもういつも通りだった。


 私はホッとして頭を振る。落ち着いてふと下を見るとそこは馬の上だった。


「えっ!わっ!」

 馬の上だと分かった途端バランスを崩しそうになりラルフにしがみついた。

 とフードが脱げてしまう。


「ははっ!大丈夫、落としたりしないから」

 しっかりと抱きとめられ、またラルフとの距離が近づく。

 私の頬にかかる黒髪をそっとよけてくれた。




「…よかった。また馬に乗せるって約束、守れて」

 夕日に照らされたラルフがあまりにも幸せそうに笑うから。


 私も笑ってしまう。

「はい、私も嬉しいです」




 ラルフの顔が近づいたかと思うと、一瞬頬にふれる。




 え…?


「えっ?」

 今…。


「こんなとこエメに見られたら殺されるな」

 ラルフのからかいまじりの声。

 こっちは驚きすぎて言葉も出ないのに。


「リナ、君を屋敷に連れて帰る。いいね」

 そう言うと私の返事を待たずに馬を動かした。

「あっ、ちょっ」

 ラルフと一緒に行くわけにはいかない。


 ラルフを止めないとーー。




「それは許可できない」




 ラルフと私が乗った馬の前。

 私が止めるより早く立ちはだかったのはユリウスだった。








「ラルフ様、お下がりを」

 立ちはだかった不審者にラルフの護衛騎士がすぐさま反応し、ラルフが乗った馬の前に護衛騎士が馬をまわす。


 が、黒い外套のフードからチラリと見えた顔。

 ラルフは相手がユリウスだと気づくと「待て」と護衛騎士を止めた。


 馬から降りると一礼する。

「ビュルクナー様、大変失礼致しました。領内にご滞在中とは存じておりましたが、ここでお会いするとは思いませんでした」

 ラルフが突然態度を変えたので驚く。


 ビュルクナー様?


 おそらくユリウスの家名なのだろう。

 ユリウスもラルフと同じ貴族だと予想はしていたが、ラルフがここまで畏まる相手とは思っていなかった。


「もうご予定はお済でしょうか?もしよろしければ我が家にお越し下さい。父も喜びます」

 ラルフの言葉からユリウスは領主様とも知り合いだと分かる。


 ええ…どうしよう。

 そんな偉い人にけっこうな態度をとっていたのかと内心青くなる私。


「いや、気持ちだけで。御父上には君からよろしく伝えてほしい」

 ユリウスはそう言うとラルフを避けて私を馬から抱え降ろす。そのまま私を縦抱きにし私の外套のフードを被せると「では失礼する」と立ち去ろうとした。


 えっ!そのまま行くの?


 私の驚きはそのままラルフの驚きで。


「お、お待ち下さい。リナは我が領の民です。彼女をどうするのですか!?」

 ラルフが慌てて止めに入る。


「あの、ユリウスさん、じゃない、様!」

 私も心配かけたラルフにせめて言い訳ぐらいはしたかった。だが私が「様」と呼んだのが気に入らなかったのか、ユリウスから無言の圧がかかった。

「あ…あの、ユリウス、様…さん…ラルフ様と話を…」

「ダメだ」

 即答だった。


 ええええ…何で?


 ユリウスは私のお願いをスルーし、ラルフを振り返る。

 ラルフを見つめ何かを思案すると




「ラルフ殿、彼女は私が見初めた。…意味は分かるな」

 ユリウスの言葉に驚いたのはまたしても私とラルフ。


 思わずユリウスの顔を見ると「話を合わせろ」と目が言っている。

 ええ!…マジか…。


 ラルフを見ると彼は私以上にショックを受けているようで。

 私と目が合うと何かを決意した顔になる。


「それはリナも承知しているのですか?」

 ラルフの問いにユリウスがチラリと私を見る。


 ラルフに嘘をつくのは申し訳ない気持ちが先に立つ。だがもともと言い訳はできても「追われている身」であるエルンスト達の事情は話せない。


 私はラルフから視線を逸らすと頷いて見せた。

 ラルフが小さく息を呑んだ。




「リナ、ビュルクナー様に婚約者がいるのも知ってるのか?」




 え…。




 ラルフの言葉に信じられない気持ちでユリウスを見る。

「婚約者がいるんですか?」

 まさか婚約者がいるのにこんな嘘をついたの?


「家が決めた相手だ」

 何の感情もないユリウスの答え。


 本当に、いるんだ。




「降ろして下さい」

 怪訝な顔で私を見るユリウス。

「降ろしてっ」

 ユリウスの胸を力いっぱい叩いた。

 驚いたのかユリウスの手が緩み、私はバランスを崩しつつも下に飛び降りた。




 よたつきつつユリウスと距離をとる。


 言葉にできない苦しさがこみ上げてくる。




「二股する人は嫌い…大嫌いですっ」


 分かっている。これは八つ当たりだ。

 ユリウスはこの場を収めるために言っただけ。

 本当にこの言葉をぶつけたかった相手はユリウスではない。


 でも…。


「たとえ嘘でも婚約者さんが知ったら傷つく」


 知らなかったとはいえ私もその話に乗った。

 私も同罪。


 最低だ…。




 私はラフルに向きなおすと頭を下げた。

「今のは嘘です。ユリウスさんの婚約者さんの耳には絶対入れないで下さい。お願いします」

 ラルフが動揺しているのが気配で分かった。


 それでもーー。

「分かった。今の話は聞かなかったことにするよ」

 そう約束してくれた。


 私がラルフの後ろにいた護衛騎士さんにも視線を向けると、彼も「聞いてません」と言ってくれた。


 ホッ…。

 これで安心だ。


 でも…こんな酷い嘘、二度とごめんだ…。




「ラルフ様、理由は言えませんが私もエメリヒも大丈夫です。心配しないで下さい」

 精一杯笑って見せる。

 今の状況を考えると今後ラルフと会う機会は訪れそうにもないと思ったから。

 なら最後は絶対笑顔の方がいい。


「今までありがとうございました。じゃあまた」

 もう一度頭を下げる。


 ラルフの反応を見ることはできなかった。

 振り返るとユリウスと目が合う。


「すみません。一人で帰ります」

 横を通り抜けると手を掴まれたが、ユリウスをじっと見つめると離してくれた。


 走って逃げたい気持ちを抑え、とにかく急いで歩いた。

 早くこの場を立ち去りたくて。




 顔が見えないようにフードを深く被りなおす、とーー。


「っ」

 限界だった。


 涙がボロボロと落ちてきて止まらなくなった。




 一年前と同じだ。

 あの日たくさん泣いて区切りをつけたつもりだった。

 でも…。


 学生カバンに入っていたお弁当を思い出す。


 あれは私の心が何の整理もついていなかった証拠。




 この世界に来て終わったことだと、もう『恋愛』は私には関係ないと思い込むことで蓋をしてたけど…。


 本心は違ってた。




 本当は平塚さんに二股されたことに怒ってたし、相手が秘書課一の美人だったとしても納得なんてしてなかった。


 ホントに彼女とデートしたのか知りたかった。

 何で私じゃダメだったのか教えてほしかった。

 平塚さんの口から本当のことを聞きたかった。


 こんなに引きずるのなら、一人で勝手に決めつけないで…聞くべきだった。


 口の中に苦いものが広がる。







 それはあの事故も同じだ。


「っ」




 何で私はーー


 ドンッ!




「あ…すみません」

 前を見ずに歩いていたせいで人とぶつかってしまった。

 よろつきつつ謝罪した。


 前に立つ人を避けようと横に一歩ずれる。

 だがその人も私と同じ方に一歩でた。


 同じ方に避けたのかと思って顔を上げると、前に立った男がニィっと笑った。


「え?」


 そして無言のまま手を振り上げると、勢いよく降り下ろした。


 ガンッ!!

「っ」




 足元から力が抜けて男の方に倒れこむ。

 そのまま男の肩に乗せるように担ぎ上げられた。




 え…。


「な…んで…」







 薄れる意識の中で最後に見えたのは男達の足元だった。








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