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やり直し転移は選べない  作者: 望月蜜桃


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 静まり返った部屋の中。

 二人の間にはピリリとした空気が張り詰める。




「何でそんなことを聞く?あんたに関係ないだろ」

 エメリヒはユリウスの視線を真っ向から睨み返した。


「今日、彼女が作ったコップの敷物。薄く広げた綿に端切れを重ね、綿ごと縫い合わせて模様を作り、模様を表に中に綿、そして裏側に一枚布を重ね縫い合わせた物だった。俺も初めて見たが、出会ったマチルダという女性もそういう発想はなかったと感動していた」


 ユリウスの説明では敷物の出来上がりを想像できなかったエメリヒ。


 だがリナが持つスマホにはいろいろな物のつくり方を説明してくれる『動画』があるのを知っている。


 魔力がなく魔道具が使えなかったリナはそこからいろんな情報を得て実践していた。

 おそらくユリウスの言う敷物もその一つだろうと容易に想像できた。


「それが何?」

 わざととぼけて見せるがユリウスの追及は終わらない。

 ユリウスは逃がさないと言わんばかりにエメリヒを壁に追い詰める。


 そしてエメリヒの顔近くに手をつくと上から見下ろす。


「ここの領内で導入予定だと言っていた計算機、あれも彼女が作ったと言ったな。彼女の部屋にあった花びらを詰めた瓶、あれもそうなんじゃないのか?」


 自分よりかなり背が高いユリウスから壁ドン状態で圧をかけられたエメリヒだったがーー。


「だったら何だ。あんたはアレのことだけ気にしてろよ」

 エメリヒはユリウスの胸ぐらを掴む。


 そしてーー。


「二度と詮索するな」







 翌朝。

 いつも無言の二人ではある。が、ものすごく険悪な空気である。


 ええええ…何?何なの…?


 朝目が覚めると二人はすでに起きていて、一言も口を利かないのである。


「エメ、今日からマチルダさんのところに行ってくるね」

 そう声をかけると「頑張って」と頭を撫でられる。


「ユリウスさん、今日はユリウスさんの外套、着なくて大丈夫ですか?」

 そう話しかけると静かに頷く。

「大丈夫だ。でもフードは被って髪は隠すように」


 私にはふつうに接してくれた二人。でも彼らは目も合わさないまま朝食を終え、エメリヒは張り込みへと早々に行ってしまった。




「あの、エメリヒと何かあったんですか?」

 ルイソン工房に向かう途中、ユリウスに聞いてみたが「何もない」と一言返されただけ。

 それ以上は聞ける雰囲気ではなく、私も黙るしかなかった。


 工房まで送ってくれたユリウス。

 今日はユリウスも自身の外套を着てフードで顔を隠していたので、呼び止められることなく工房までこれた。

 そしてこの後は仕事があるとのことで、工房からは出ないようにと念を押され、また夕方迎えにくると言って人ごみの中に消えて行った。


「はぁ…ラルフ様VSエメリヒの再来かぁ」

 ああ、気が重い。







 しかしルイソン工房では私の憂鬱な気分を吹き飛ばす元気なマチルダに迎え入れられた。


「昨日リナさんが帰った後に作ったんです!」

 見て下さい!と作業台に置かれた色とりどりのコースター。

「すごい!一晩でこんなに作ったんですか?」

 私が作ったコースターを基本に正方形だけではなく丸や多角形、布の組み合わせも増えていて、マチルダのセンスの良さがうかがえた。


 すごい!可愛い!!


 私が感動しているとマチルダが姿勢を正した。


「それでですね、リナさん!この製法をギルドで登録したいと思うのですが、どうでしょう?」


「え…」

 マチルダの提案に「?」となる。


 ギルド…ってあれだよね。役場と並びにある建物。でもあれは商売や冒険者の人達の組合だって聞いた。そこに登録って何だろう?

 

「あれ?もしかしてギルドに所属してない?」

 私の戸惑いが伝わったのか、マチルダが説明してくれた。




「えと、まずギルドっていうのは国を跨いだ組織で、大きく『商人・同職・冒険者』で分かれてるんです」


 ギルドは仕事を依頼する人とそれを受ける人の仲介管理を行う組織で、基本的には自己責任ではあるものの、ギルドを通すことで手数料は発生するが、双方に極端な不利益が出ないように管理・監視してくれている。

 国から独立した組織のため国の干渉を受けない立場ではあるが、緊急時の協力要請はよほどのことがない限り断れない。


「私達みたいな職人は同職ギルドの扱いで、私はその中の服飾部門に登録してるんです」

 登録方法も工房や店舗、商会など組織での登録とマチルダのように個人での登録があると言われた。


「で、さっきの製法を登録というのは、新しい商品の仕組みや製造方法を登録することで、他の人が同じ商品を製作・販売する場合、利益から一定の料金が開発者に入る仕組みになってるんです」


 なるほど…要するに特許みたいなものだろうか。


「リナさんは今まで作った物はどうされてたんですか?」

「私は母と作っていて、それを村全体でまとめて卸してもらっていました」

 シュネート村では個人で受けるというより、複数の商店に村の女性達が作った商品を一定数ずつ納品していたはずだ。


「なるほど。ギルドを通してたとしても村での受注だったのかもしれないですね」

 マチルダは私の状況を知り、少し考える。


「リナさんが提案してくれたコップの敷物ですが、私は今まで同じ製法を見たことがありません。なのでギルドで登録して使用料を取るべきだと思います。商品が出てしまってからでは遅いので」


 マチルダは私に不利益にならにようそう言ってくれた。


 でも日本…というか地球で確立された製法を自分の物として登録するのは気が引ける。それに身を隠している状況でギルドに登録するのは目立たないだろうか?


「あの…一度家族に相談してからでもいいでしょうか?」

 正直、少しでも収入が得られるのは助かる。でもエルンストやアンネリーエに危険が及ぶ可能性があるなら、登録はしなくていい。


「もちろんです!では今日はコップ敷きだけじゃなく、昨日リナさんが言ってた食器や花瓶、鍋の敷物を作っていきましょう!」

 マチルダがすぐに切り替えてくれたことにホッとする。


 その日は日払いという形で銀貨六枚貰った。

 もし私がこのパッチワークとキルティングを登録した場合、マチルダから使用料が別途支払われることになるらしい。


「ぜひ考えてみてくださいね」

 帰り際、マチルダに念を押されてしまった。




「何を考えてほしいと言われたんだ?」

 迎えに来てくれたユリウスにそう問われる。

「それが…あ…宿に戻ってからでもいいですか?」

 まずエメリヒに相談したかった。

「かまわない」

 ユリウスは特に気にした様子もなく、今日も夕飯と明日の朝食を買いに広場の屋台に向かう。




 広場の屋台売り場は今日もとても大変賑わっていた。

 食べ物売り場へ進むと食欲をそそるいい匂いが漂ってきた。


 まだ量は食べられないが、私の食欲はほとんど戻っている。

 そこに豚肉の焼ける美味しそうな匂い。誘われるようにお店へと近づく。


 屋台を覘くと塩とハーブで味付けした豚肉のブロックを焼いていた。

「美味しそう…」

 だが値段を見ると少し高い。


 お財布代わりにしている巾着を開いてみるものの…。

 これを買ってしまうと今日の予算の大半を持っていかれる。

 うう…諦めるか…。


「店主、一番大きなブロックを」

 ユリウスの注文に「まいど!」と元気な声が返ってくる。

「え、あのっ」

 私が慌てて止めようとすると

「俺も食べたかっただけだ。三人で分ければいいだろう」

 そう言うと私の巾着から銅貨二枚を取った。それじゃエメと私の二人分には全然足りない。


 だがユリウスはブロック焼きを受け取ると、次の客のジャマにならないよう私を連れて場を移動した。


「君は食が細い。食べたい物を食べなさい」

 これは主治医としての言葉のようで、一緒に食べるのは決定事項になったらしい。

「はい…ありがとうございます」

 素直にお礼を伝える。


 ユリウスは基本無口だが私のことをよく見てくれていて、さりげなくフォローしてくれる。だがそこに私への関心があるかと言えば、ないように感じる。


 そこは気が楽なんだけど…。

 でもケガをさせた責任…と言うには…なぜここまでしてくれるのか…。


 気になってユリウスの顔を窺い見た。


 そう言えば『レーツェル』の職員という以外、ユリウスのこと何も知らないなと思う。

 年齢や趣味、人柄も…よく分からない。

 もちろん家族のこともーー。




 グイッ!


 突然腕を引かれた、と思ったらお腹に力がかかり宙に浮いた。


 えっ…!?








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