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やり直し転移は選べない  作者: 望月蜜桃


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 エメリヒが戻ったのはもう日が暮れつつある十八時過ぎだった。

 結論から言うとエルンストとアンネリーエが来た形跡はなかったらしい。


「あっちは母さんがいるから俺達より移動に時間がかかってるのかもしれない」

 女性の足ではどうしても遅くなる。私だってシュネート村からメーネルなら四日はかかる。それなのに私を抱えてあの高速移動ができる方がおかしいのだ。

「数日…最低でも三日は様子をみようと思う」

 エメリヒの意見に私も同意する。


 早くエルンストとアンネリーエに会いたい。

 どうか無事でいますようにと心で祈る。




 エメリヒはお昼抜きだった分、宿に戻る際に調達してくれた夕飯とお昼の残りをペロリと食べてしまった。

 私とユリウスも夕飯を食べ、今日も問診を受けた後、早々に寝ることになった。


 寝る前に今日買った文房具と冊子のこと、ユリウスから貰ったペンケースのことをエメリヒに伝えた。

 エメリヒはペンケースを見るともの言いたげにチラリとユリウスを見る。

 間をおいて「ありがとうございます」とお礼を言った。

 ユリウスは「いや」と一言だけだった。


 …なんだろう。この二人、仲悪い?


 またラルフの時みたいに間に挟まれたら嫌だなぁと思った。




 翌朝、エメリヒは朝食を食べるとすぐ出て行った。

 私も外に出る準備をする。と言っても学生カバンを斜め掛けし自分の外套を着るだけだが。


 そして宿泊延長の手続きをして戻ってきたユリウスに断りを入れた。

「ユリウスさん、私もちょっと出てきます。夕方までには戻ります」

 そのまま出ようとして腕を掴まれ部屋に引き戻される。


「どこに行く」

「あ、えっと、仕事を探しに…」


 昨日お金を使ってしまったのもあるが、今後エルンストとアンネリーエと合流できるまでどのくらいかかるか分からない。その後もどうなるのか分からない以上、エメリヒが動けない間は何か仕事をして収入を得たいと思ったのだ。


 シュネート村では、村の女性達がハンカチや小物を作りそこに刺繍などの装飾をしたのち、町の小売業者へ卸していた。シュネート村の小物類は評判が良く村では大事な収入源になっていて、私もアンネリーエに教えてもらいながら一緒に作っていた。

 だからそういう小物を扱うお店で仕事がないか聞いてみようと思ったのだ。もし仕事があれば、こなした分の歩合か日払いでお金が入る。日雇い仕事だ。


「…一人では出せない。俺も一緒に行こう」

 そう言うとまたユリウスの外套を被せられそうになる。

「ま、待って下さい。今日は町中しか移動しませんし大丈夫です。ほらフード被れば髪も隠れますよ。気を付けて行きますから」

 ユリウスは私の体調と盗賊関係の襲撃犯がまだ分かっていないことで身バレするのを危惧してるんだろう。けどそこは十分に分かってるつもりだ。


 むしろ昨日のこともあるし、少しでも女性の目を惹かないようにユリウスが着るべきだろうと思う。


「…ダメだ…」

 ユリウスは無理やり自分の外套を被せると前をしっかり留めた。そしてドアを開けてくれる。ユリウスを見上げると無言の圧を感じる。同行するのも決定らしい。


 今日もまた「ちんちくりん」か。しかも就活に保護者?同伴って…。


 私はユリウスと並び歩きながら、うまく仕事が見つかるか不安になっていた。







 案の定、全滅だった。

 ユリウスの黒い大きな外套を着ている私…ほとんどの対応が黒ずくめの格好でドン引きされ断られるパターンだった。中にはユリウスが同伴していることに「冷やかしなら帰ってくれ」と追い出されたところもあった。


「あの…ユリウスさん。やっぱりこの外套脱いでもいいですか?不審者だと思われてるみたいなので…それと後は一人で回ります、すみません」

 私を心配してついてきてくれたのは分かっているのだが…昨日と同じくユリウスに魅了された女性達から声をかけられては仕事探しが中断されるのである。


 もうユリウスは自分の外套を着て存在を隠した方がいいと思う。


「…すまない、今日までは我慢してもらえないか?」

 ユリウスが困った顔を見せる。どうしても譲れないらしい。仕方ないなぁ。

「今日までですか?」

 何で今日まで?と思ったが、とりあえず考えるのをやめる。


「分かりました。じゃあお昼食べに行きませんか?実はお腹ペコペコで」

 一時休戦だ。

 ユリウスも昼食を取るのには賛成だったらしくホッとした顔をした。


「仕事探しを邪魔したお詫びにご馳走させてくれ」

「ユリウスさん、そういうのはよくないです。折半でお願いします!」

 間髪入れずにそう答えるとユリウスは少し目を見開いた。


「君は変わっているな」

 また言われてしまった。でも亡くなった父が言っていたのだ。

「金の切れ目が縁の切れ目。友達とのお金の貸し借りはダメだって、子供の頃から教えられてきたので」

「友達…」


 あ、しまった。

「あ…年上の方にダメでしたね…。え~と、主治医の先生?」

 慌てて言い直すと、ユリウスは「ふっ」と声を漏らす。そして口元を隠し、笑いを堪えて肩を揺らした。


「いや、友達で」

 そう言って私を見たユリウス。

 太陽の光がユリウスの瞳を通って、まるで青紫色の水晶みたいに見えた。


 なんだか初めてユリウスの素の感情を見た気がした。


「はい、友達で!」


 シュネート村ではせっかく仲良くなったスーザン達とお別れもできなった。でも追われるエルンスト達と一緒にいる限り、突然さよならすることはこれからも続くだろう。

 でも…それでも、その時の出会いを大切にしたいと思った。


 ユリウスとも体が完治するまでの間だったとしても、仲良くできたら嬉しいと思う。




 広場の屋台で各々好きな物を購入した。

 私は温かい鶏肉と野菜のシチューとパンを、ユリウスは串焼きと肉野菜炒め、パン多めで。


 購入した物をその場で食べられるように設置された簡易テーブルまで移動し、昼時だったこともあり相席になったが、なんとかユリウスと並びで座れた。


「いただきます」

 手を合わせて食事を始める。ユリウスも変わらず真似をしてから食事を始めてくれる。


 午後も職探しを続けるか迷いつつのシチュー。

 うん…美味しい。

 この不審者みたいな格好とユリウスがいる状態では、午前中の二の舞だろうしな…。


 どうするか…と、視界の隅に奇麗な色の布が見えた。

 顔を上げると前の席に座っていたのは小柄な女性。テーブルにいろんなサイズの端切れを並べて唸っていた。


「可愛い色ばかりですね」

 そう声をかけるとバッと勢いよく顔を上げ私を見た。


「ですよね!処分するっていう端切れを格安で譲ってもらったんですけど…」

 女性は勢いよく話し出したかと思うと後半は尻すぼみになった。


「それで何を作るんですか?」

 私もアンネリーエと小物作りをしていたので、こういう布を見ると気になってしまって。


「それが…決まっていなくて。どれも微妙な大きさなので…」

 なるほど。


「それなら布同士を縫い合わせて必要な大きさにしたらどうですか?」

 いわゆるパッチワークだ。


 私はテーブルに出ていた端切れを並べて小さな正方形を作る。

「並べる順番変えたらもっと…違う表情になって楽しくないですか?」

 グラデーションになるよう置く位置を変えてみせる。

「わぁ!本当に!…でもつぎはぎじゃ…」


「そうですね…例えばコップの下に敷く物ならどうですか?薄く広げた綿の上に、表になる端切れを縫い付けていって、最後は裏に一枚布をあてて縫い合わせるんです」

 キルティングしたコースターを提案してみる。


「はぁ…」

 女性は出来上がりがどうなるのか想像できていないようで。

「あの、よかったら作って見せてもらえませんか?もちろん出来上がった物は買い取らせていただきますので!」

 と前のめりに言われた。


「え!!」

 仕事を探している私からすると願ったりかなったりだ!


「お、お願いします!!」

 思わず私も立ち上がって女性の手を握って返事をする。


 と、ユリウスから待ったがかかった。落ち着けと言わんばかりにイスに座るよう促され、彼は彼女へ質問した。


「失礼だがあなたは?」

 彼女は私の隣に座っていたユリウスに全く気付いていなかったようで、ユリウスを見ると「ふぉっ」と変な声を上げた。


「す、すみません!あんまりお奇麗なので驚いてしまって!」

 女性の正直な感想だったのだろうが、ユリウスは無の表情になっていた。


 女性は姿勢を正すとコホンと咳払いし

「自己紹介が遅れました。私はマチルダと言います。父がやってるルイソン工房の手伝いをしてます。うちはテーブルやイスなどの家具を専門に作っているんですが、私は布を扱うのが好きで、作った小物を工房に置かせてもらってるんです」


 屈託のない笑顔で自己紹介してくれたマチルダは、ぱっちりとした大きなブラウンの瞳にフチなしの眼鏡をかけ、ハニーカスタード色の緩くカールした髪をポニーテールにした快活な印象の女性だった。


「私はーー」

 と私も自己紹介しようとしたがユリウスに遮られる。

「彼女はリナ、俺はユリウスだ。俺達は人探しをしていて数日この町に滞在している」

「ああ、はい、そうなんです。それで日雇い仕事を探してまして」

 ユリウスは最低限の情報だけ伝えたので、追加で私の要望を付け足す。


「そうなんですね!じゃ滞在している間、私の手伝いをお願いできませんか?」

 マチルダはあらためてそう言うと手を差し出した。


 私は「喜んで!」としっかりと握手を返した。








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