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制服を処分してエメリヒと共に居間に戻る。と、血の匂いがした。
「っ…」
血を流し倒れている複数の男達。思わず目を逸らしてしまう。エメリヒに肩を抱かれ足早にユリウスのもとへ。
「とりあえずメーネルに向かいたい」
エメリヒがユリウスに伝えたのは、エルンスト達と決めていた落ちあう町の一つ「メーネル」である。
数か所決めていた中に、シュネート村から一番近い町、その町を通過した先にあるトロームがある。
だが一番近い町は盗賊の襲撃に遭った場所である。そこにエルンスト達が戻る可能性は低く、同じ理由でその町を通った先にあるトロームも低いと言えた。
エルンスト達がその二つの町を回避し、行方が分からなくなった地点から一番早く辿りつける町がブンゲルト領の中心都市メーネルである。エメリヒはそういう理由でメーネルの名前を挙げた。
ユリウスがチラリと時計を確認する。つられて見るとまだ時刻は昼の十二時にもなっていなかった。
「分かった。明日の午前中までには入れるだろう」
ユリウスはそう答えた。が、私の足では四日以上かかる場所だ。そう伝えると「問題ない」と、ユリウスは着ていた外套を脱ぎ私に被せしっかり前を留めた。
そして「出るぞ」と一言。
エメリヒと私は慌てて頷き、裏口から出るユリウスの後に続く。
外はいつもと変わらない風景。上を見れば澄んだ青空が広がっていた。
秋晴れである。
辺りを見回す。農家の一軒一軒がそれなりに離れていることもあって、エルンスト家がごろつきに襲撃されたなど村人の誰にも気づかれた様子はなかった。
一年近く住んだ家。ゆっくり感慨に浸る時間はない。でも心の中で礼をする。
「森の中を抜ける」
ユリウスの言葉に昨夜のことを思い出し体が強張った。すかさずエメリヒが手を繋いでぎゅうっと握りしめてくれる。見上げると優しく微笑んで言ってくれた。
「何があっても離さないから」
そうだね。私だってエメリヒと離れないし離さない。その覚悟で握り返す。
無言で森に向かって歩き出したユリウスの後を追い、私達も森に入った。
森の中では昨夜と同じルートを辿った。ポールのことを思い出すかもと不安だったが、問題なかった。
なぜならユリウスは森に入った途端、私を片手で縦抱きにし「しっかり掴まるように」と言ったのだ。私は子供のような扱いに唖然とした。
そして同様に驚いたエメリヒに目配せするとユリウスは走り出したのだ。エメリヒは舌打ちしその後に続いた。
二人は信じられない速さで駆け抜けた。私は目を開けていられなくて、振り落とされないようにユリウスの首にしがみつくのが精一杯だった。
途中休憩をはさみつつも、夕方にはメーネルの一つ手前の町に到着した。
どこをどう通ったのか全く分からないまま、慣れないスピードでの移動に足がガクガクして、町に入るとへっぴり腰で歩くことになった。エメリヒが支えてくれたけどかなり恥ずかしかった。
ユリウスが取ってきた宿に入り、ようやく一息つけた。
部屋にはベッドが二つと机とイスが一つ。それだけの簡素な部屋だった。
なんだかこの世界に来たばかりに泊まった宿を思い出すな。
一度部屋を出て行ったユリウスが戻ってくると、宿周辺の店で買ったのか軽食と水を手にしていた。
机に出され食べるように言われる。エメリヒがお金を払おうとすると断られた。が、「そこまでしてもらう義理はない」とムリやり押し付けていた。
ひと悶着ありつつもユリウスが買ってきてくれた夕食は美味しく、朝よりはしっかりと食べれた。
そして夜ーー。
ユリウスから問診を受けた。だるさはあるもののそれ以外は大丈夫だと答えると「まだ血が回復してないのだろう。無理はしないように」と言われた。
要するにまだまだ貧血らしい。こういう確認を毎日するようだ。
「君はしっかり休むように。お前は俺と交代で見張りだ。俺が先に休む。二時間後に起こしてくれ」
私がだるいと言ったからか一人でベッドを使うよう言われ、ユリウスの指示にエメリヒも了承していた。私だけ何もしないのは心苦しかったが、まずは体調を整えてエルンスト達を自分の足で追えるようになるべきだと思い休むことにした。
その夜はなんだかいろんな夢を見た。目の前で人が殺され私も襲われそうになった、と思ったら『クライゼル』の高科類くんが歌って踊って助けてくれたり、ポールの顔をした魔物に追いかけられたと思ったら、ユリウスに抱えられ何度も「大丈夫だ」と頭を撫でられたり。
なんだか頭の中でフル回転の映像を見せられているようで。
「…ナ、…リナ」
私を呼ぶ声で目が覚めた。目を開けるとエメリヒの心配気な顔が見えた。
「起きれる?」
そう言われ、エメリヒの奥にユリウスがいるのが見えて思い出す。
そうだった!昨日私達はあの家を出てーー。
ガバリと起き上がる、とぐらりとした。
「リナ!」
エメリヒに支えられゆっくりと横にされる。
「ごめん、ちょっと勢いよく起きすぎた」
私がごまかすように笑って見せたがエメリヒの顔は険しいままだった。
ユリウスを振り返ると「一人で行く」と伝える。
「ダメ!」
とっさにエメリヒの手を掴んだ。置いていかれる、そう思ったら体が動いていた。
「リナ…」
戸惑った顔のエメリヒ。わがままだとは思ったが一緒がよかった。
「俺が抱えていこう」
ユリウスの発言に「えっ」と思わず声が出た。
「それが嫌なら俺と宿で待機だ」
ユリウスの有無を言わさない声音にーー私は一緒に行くことを選んだ。
エメリヒが買ってきてくれた朝食を食べ、出る準備を済ませる。と、またユリウスの外套をすっぽりと被せられ前をしっかり留められる。
「あの、私は自分のを着てるので大丈夫ですよ?ユリウスさんが着て下さい」
私が脱ごうとすると手で制された。
「俺は平気だ。着ていなさい」
助けを求めてエメリヒを見たが、エメリヒも着ているようにと頷く。
宿を出るとさっそく軽々と縦抱きにされ、恥ずかしさで何とも言えない気持ちになる。
「あの、町から出るまでは歩きます」
てっきり昨日みたいに町から町の移動だけ抱えられるのかと思っていたから焦る。
だいたい町中をあのスピードで通り抜けるわけじゃないし自分で歩きたかった。
これじゃまるで幼子か病人…いや、病み上がりみたいなものだけど。
エメリヒに助けを求めたが、ものすごく嫌そうな顔で頷かれた。
抱えている少女を見ると無の表情をしていた。
ユリウスにしてみれば、華奢なリナを抱えて歩くぐらいどうということもない。むしろ自分の手の中にある方が安心できるとさえ思っていた。
それに昨日からリナの体を巡っている回復魔法の魔力に、微妙にイーヴォの魔力を感じるのだ。イーヴォの魔力を直に浴びたエメリヒは気づいているようだが、ふつうなら気づく者などいない。
それでも油断はできない。
魔力が外部へ漏れないよう魔法付与されている己の外套を着せているのだが、理由を知らない少女はそれも不満らしい。そんな申し訳なさそうな顔をしなくてもいいのだが…。
「疲れたら言うように」
そう言うと彼女は顔を赤らめ居心地悪そうに「はい」と返事した。
昨日はすごいスピードで走っていたからしがみつくのに精一杯でそれどころじゃなかったけど、この抱えられ方…近い!!顔が近い!!
すごく恥ずかしい…。
だけどこちらの羞恥心などユリウスは微塵も察していない。
ユリウスにとっては猫か犬を抱いているのと同じなんだろう。
はぁ…。
諦めた私は極力ユリウスの方を見ないよう、町の景色に目を向けた。
するとーー。
わ…。
ちょうど商店が並ぶ一角だったようで、新鮮な野菜を片手に呼び込みする店主や値切り交渉する女性の声が飛び交い、そこには人々の活気が溢れていた。
目線高い…。
すごいな。こういう空気わくわくする。
そういえば会社勤めしていた頃。
朝の同じ電車で同じ駅に向かう人達の群れの中、ああこの人達も今から働くんだ、自分だけじゃないんだと思うと「頑張ろう」と思えたっけ。
朝の、人が動き出す姿が、空気が好きだったと。
なんだかとても懐かしい気持ちになった。




