表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やり直し転移は選べない  作者: 望月蜜桃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/39

22



 囲まれた…?

 どういうこと?


 私の疑問をよそに、エメリヒは壁に立てかけていた短剣を手に取り、素早くカーテンの隙間から外を確認する。ユリウスもソファに己の外套と共に置いていた長剣を持ち、裏口へ移動するとそっと鍵を開け扉から外を窺う。


 ユリウスはすぐさま戻ってくると

「裏は三だ」

「表は四」

 エメリヒもそれに答える。


 突然の緊迫した空気に私はどうしていいか分からずにオロついてしまう。

「エメ…」

 エメリヒに近づこうとして、手で止められる。

「リナはそいつのそばを離れるな」

 エメリヒがそう言うと、ユリウスに腕を引かれ背中へと庇われた。

 エメリヒが短剣を構えたまま玄関に向かう。


 ーーとその瞬間、バンッ!!と大きな音がしたかと思ったら、突然大男が飛び込んできた。


 ズシャッ!




 エメリヒと大男が交差し、大男がドサリ…と倒れた。

「っ!」

 悲鳴は声にはならなかった。

 エメリヒがさっと後退すると、玄関からさらに大きないかつい男がゆらりと入ってくる。


「おうおう、ただの農家のガキじゃなかったのかよ」

 無精ひげを生やしボサボサの髪を一括りに纏めたいかつい男。その後ろから二人、そして裏口からも三人、ぞろぞろと入って来た。誰もかれもが薄汚れた格好で、手にはナイフや斧、鎌なんかを持っている。いわゆる荒くれ者達だった。


 何?何なのこの人達…。

 突然の出来事に立ち竦んでしまう。


「うひょーべっびんさんばっかじゃないっすか」

 一人がそんなことを言う。仲間が倒れているのに誰も見向きもしない。その異常な様子が恐ろしい。


「ほう?黒髪黒目とは珍しいな。高く売れそうだ」

 いかつい男と目が合い、男は値踏みするように上から下まで私を見た。

「っ」

 ビクリとした私の前にスッとユリウスが立ち隠す。

「そっちの兄ちゃんもお奇麗だなぁ。こりゃあ金になるぜ。お前ら殺すなよ」

 そう言ったと思ったら、一斉に男達が襲いかかってきた。


 が、エメリヒに襲いかかった二人は一瞬で切り裂かれ、吹っ飛んで壁に激突する。エメリヒは風魔法をのせた剣を真横に切り風刃で男達を一刀両断したのだ。


 ユリウスと私に襲いかかった三人の男達は、武器を振り上げたと思うとガタガタンと落としてしまう。そして自らもドサリドサリと倒れてしまった。

 倒れた男達の武器を持っていた手首と胸には氷の鋭い氷片が刺さっていた。


 一瞬で五人が倒れ、残るはリーダーと思われるいかつい男が一人。


「はっ…なん、お前ら…」

 さすがに狼狽えたようだった。いつの間に移動したのか、エメリヒが鍵が壊れてしまった玄関の扉を閉める。


「お前らは何者だ?目的は何だ?」

 いかつい男の後ろに立ち質問するエメリヒ。男の腰の辺りには短剣が若干刺さっている。

「やめっ!」

 さっきの威勢はどうしたのか、女のような悲鳴を上げた。

「言え」

 再度訊ねる。

「分かった!言う!言うから!」


 ヒュンッ!


「ーーぐっ!」


 いかつい大男の首には小型のナイフが刺さっていた。男は「かはっ」と吐血するとガクッと膝から崩れ落ちた。


 ナイフが飛んできた方を見ると、半開きになっていた裏口の扉から逃げていく黒い外套を被った人の後姿が見えた。

 おそらくユリウスと同じく魔力や気配を悟られない魔法付与がされているのだろう。あっという間に姿が消えてしまった。




「チッ…何だったんだ、こいつら…」

 エメリヒの苛立った声。倒れている男達を一瞥すると私の方を見た。

「リナ、大丈夫?」

 突然起きた一瞬の恐ろしい出来事に、ただ呆然とその光景を見つめていた私。

 エメリヒと目が合いハッとする。


 エメリヒはすぐさま駆け寄ってきて抱きしめてくれる。

「ごめん、怖かったよな」

 後悔が滲む声。


 違う。エメリヒが後悔する必要はない。

 だってエメリヒもユリウスも間違ってない。

 襲ってきたんだから。武器を持って。

 やらなかったらやられてた。


 ただこの状況をうまく呑み込めない私が弱いだけなのだ。


 私は頭を振る。


 誰かが言ってた。

 武器を持って襲ってくる以上、相手もやられる覚悟を持つべきだと。


 小さく息を吸うと気持ちを整える。エメリヒから体を離し

「…大丈夫、だよ」

 なんとか笑ってみせる。

 エメリヒは私の気持ちを汲んでくれて何も言わずに頷いてくれた。


「身元が分かる物は何もないな。…だが金で雇われた連中だな」

 ユリウスは私が気持ちを立て直している間にも襲ってきた男達のことを調べていた。

 男達の懐にはそれぞれ複数枚の金貨。いかつい男は大金貨五枚も持っていた。




 この世界では『鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨』がある。

 アンネリーエの話では国によって硬貨の含有量が違うので価値も違うらしいのだが、この国の屋台では鶏肉の串焼き一本でだいたい銅貨三枚らしい。


 それを踏まえてこの国の硬貨一枚を日本円にするとーー。

 鉄貨は十円、銅貨は百円、銀貨は千円、金貨は一万円、大金貨は十万円、白金貨は百万円。

 あくまで私の感覚でではあるが、こんな感じだろうか。




「こんなごろつきが持つ額じゃないな」

 手入れがされていない刃が欠けた武器や服装から、エメリヒも男達の手がかりを探す。


「お前達の追手にはこういう輩もいるのか?」

 ユリウスの問いにエメリヒは「いや」とだけ。


 そう言えばさっき、ごろつきは『ただの農家のガキじゃなかったのかよ』と言った。それはエメリヒと私のことで、狙いは私達だった…。

 エルンスト達の実家からの追手ならエメリヒが剣を使えると知ってるはずだ。そうじゃないってことは、シュネート村で農業を営んでるエルンスト一家しか知らない人間が雇ったことになる。それって…。


「盗賊の一件と関係あるのかな…」

 私の呟きにユリウスも同意する。

「その可能性が高いな」

 ユリウスはごろつきが持っていたお金をハンカチに包むとエメリヒに投げてよこした。


「持っていけ。荷物を纏めたら出るぞ」

「ここは?」

「このままにしておく。お前達の両親がここに戻ることはないだろう。それならお前達は襲われ行方不明。何かの面倒事に巻き込まれたと思われた方が、周囲もそれ以上は詮索しないだろう」

 どんなに噂好きでも、人が死ぬような事件に自ら関わりたい人はいない。

 エメリヒと私はユリウスの意見に頷く。


 エメリヒは私を見ると心配げに訊ねる。

「リナ。ホントはリナの体調を見て出発するつもりだったけど無理みたいだ。頑張れる?」

 私は力強く頷く。

 私達が襲われたってことはエルンスト達も危ないってこと。

 一刻も早く、早く追いつきたい。




 それから私とエメリヒは急いで出る準備に取り掛かった。と言っても昨日荷物を纏めていたので、ほぼ終わってはいたのだが。私は寝間着のワンピースを着替えに部屋に戻った。


 着替えとは別に、一つだけやっておかなくちゃいけないことがあったから。


 それは血だらけの制服を処分すること。

 もう着れない制服だったとしても、この布や縫製はこの世界には不要だろうと思ったからだ。


 私は着替えた後、かろうじて大丈夫だった学生靴を履き、学生カバンを斜め掛けにした。そしてカバンを隠すように上から自分の白い外套を羽織る。




 制服を台所のかまどまで持ってくると、中に入れた。


 残っていた火種が制服に着いた。少しずつ制服が燃えていく。

 エルンスト、アンネリーエ、エメリヒが「捨てなくていい」と許してくれた物。


 でも…。


 この世界で私の家族はエルンストとアンネリーエとエメリヒだ。彼らが私を大切にしてくれたように、私も彼らを大切にしたい。


 彼らの命と私の思い出なら、彼らの命を取るのは当たり前だった。







 自らの出る準備を終えリナの様子を見に来たエメリヒ。

「リナ?何して…」

 台所で食料でも詰めているのかと思えば、リナはかまどの前に立っていた。

 エメリヒは疑問に思い、かまどを覗き込む。

「えっ!?制服!?何でっ!!」

 慌てて取り出そうと手を伸ばしたらリナに止められた。


「いいの。まだカバンもスマホもあるし。着れないのに持っていくのは荷物になる。父さんや母さんを追うのに邪魔になるから。ここで消していく」


 リナは感情が読めない目で焼けていく制服を見つめていた。


「…でも大事な物だったんだろ?」

 何だか俺の方がざわついて焦ってしまう。


「うん。…両親が買ってくれた物だったから」

 高校入学直前で亡くなった父と母が買ってくれた物。父からの最後の贈り物。


 それを知る由もないエメリヒだったが、リナの口から『家族』の話が出たのは初めてで、彼は息を吞んだ。


 出会った時、リナは「分からない」「思い出せない」そう言って素性を隠した。

 でも本当は嘘がつけない性格なのだろう。スマホを出すと自分の国のことをいろいろ話して聞かせてくれた。迂闊だなと思う反面、リナの国の話は面白く興味がわくものばかりだった。そして話す時のリナは懐かし気で嬉しそうで。でもふとした時に寂しそうな顔を見せた。

 そんなリナでも今まで自分の素性だけは言わなかった。名前も家族の話も。


 それが今、話したのだ。

 リナにとってそれだけ気持ちが揺らぐことだったんだろうと、エメリヒは心配になる。


 エメリヒがリナの顔をジッと見つめていると、横顔がうっすらと透けて見えた気がした。


 え…?


「リナ!」

 思わずリナの肩を掴む。するとさっき透けて見えたのが見間違いだったのか、実態のある、いつものリナの顔だった。


「どうしたの?エメリヒ」

 驚いたリナの顔。


 ただ顔色が悪くて、そう見えた…?




「…いや、何でもない」


 そう言ったエメリヒの顔はリナより青ざめていた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ