第6話 揺らぐ静けさ
食事を終えて、灯りを落とす。
一日の疲れがゆっくりと身体に沈んでいくのを感じながら、布団を整えた。
横になった拍子に、胸の奥がわずかに温かくなる。
あの琥珀のペンダント。
レオンが受け取ったときの、短い沈黙。
「大事にする」と言った、低い声。
言葉は少なかったけれど、レオンなりの受け取り方だった。
そう思うと、今日は久しぶりに、何も考えずに眠れそうな気がした。
布団に足を入れ、身体を横にした、その瞬間。
――ざわ、と。
風とは違う音が、遠くから届いた。
私は目を開けたまま、呼吸を止める。
耳を澄ますと、そのざわめきは消えなかった。
一定じゃない。人の気配が混じったような、不規則な騒がしさ。
私は起き上がって、窓に近づいた。
外を見ると、森の縁のほうに、点々と揺れる光があった。
松明だ。
炎の列が、夜の中に浮かび上がっている。
それらは、迷いなく――確実に――こちらへ向かってきていた。
胸の奥が、ひやりと冷える。
これは、偶然じゃない。
数は、ひとつやふたつじゃなかった。
集団だ。
しかも、ばらばらではない。動きに、統制がある。
思わず、窓枠に手をついた。
こんなことは、今まで一度もなかった。
夜の森は、いつも静かだった。
騒がしいのは獣か、嵐の前くらいで――人の光が連なることなど、記憶にない。
炎が揺れるたび、木々の間を影が移動する。
距離は、少しずつ縮まっていた。
胸の奥に、確信めいた違和感が広がっていく。
隠れる気はない。
むしろ、見せるつもりで来ている。
そのとき、胸の奥に、名前だけが浮かんだ。
レオン。
考えるより先だった。
彼の家は、私の家と目と鼻の先にある。
この距離なら、声を張れば届く。
あの人が、この異変に気付かないはずがない。
音。光。人の動き。
どれか一つでもあれば、もう外の気配を読んでいるはずだ。
窓の外で、松明の列が少しずつ形をはっきりさせていく。
炎の揺れに合わせて、人影が増えた。
村の端のほうで、犬が吠えた。
それは、警戒の声だった。
私は窓から目を離し、部屋の中を見回す。
昼と変わらない、いつもの家。
土壁も、床も、置かれた道具も同じなのに、空気だけが違っていた。
遠くで、金属が触れ合うような音がした。
武具だと、考えるより先に分かった。
胸の奥に、嫌な予感が沈んでいく。
森の灯りは、もう村の境界を照らしていた。




