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第3話 遠い世界の色

村を抜けると、道の幅が少しだけ広くなった。

人々の行き交う音が変わる。


人の流れから少し外れたところで、控えめな看板を見つけた。

そのまま、中に入る。


仕立て屋の扉をくぐると、布と糸の匂いが混じった空気が肌に触れた。

壁際には反物が積まれ、天井からは淡い色の布が何枚も吊るされている。


「いらっしゃい」


年配の仕立て屋が私を見ると、すぐに作業台へ案内した。

手早く採寸が進み、仮留めの布が当てられる。


針が布を通る音を聞きながら、ふと視線を横に流した。


店の奥、少し離れた場所に、一着だけ掛けられているものがあった。

深紅のドレスだ。


光を吸うような赤。

装飾は控えめなのに、布そのものが強く主張している。


思わず、目が留まる。

そのまま、ほんの少しだけ見つめてから、視線を戻した。


綺麗だとは思った。

けれど、それ以上の言葉は浮かばなかった。


触れれば壊れてしまいそうな、遠い世界の色だった。


針の音が、規則正しく続く。

 

「はい、これで大丈夫ですよ」


布が解かれ、私は一歩下がる。

動いてみても、裾は引っかからない。


「ありがとうございます」


代金を払って外に出ると、陽が少し高くなっていた。

店の前で待っていたレオンが、こちらを見る。


「終わったか」


「うん。問題なし」


そのまま歩き出そうとして、私は足を止めた。


誕生日プレゼントのことが頭をよぎる。

一緒に歩いたままでは、何も選べない。


私はレオンのほうを向いた。


「レオン、ちょっとだけ別行動を提案します」


彼の眉がわずかに動く。


「別行動?」


「そう。レオンは違うとこにいて。着いてきちゃダメよ!」


言い切ると、彼は一瞬、間を置いた。

その沈黙が、少しだけ長い。


「……理由は?」


探るような視線。

私は肩をすくめて、曖昧に笑った。


「内緒」


レオンは小さく息を吐いた。


「面倒な言い方するな」


そう言いながらも、拒否はしない。

代わりに、通りの先を指さした。


「じゃあ、俺はあっちの鍛冶屋を冷やかしてる。時間は?」


「そんなにかからないと思う」


「……わかった」


それだけ言って、彼は歩き出した。

途中で一度も振り返らない。


秘密にする、というだけの小さな選択。

それでも、足取りは少しだけはっきりしていた。


私は、人の少ない通りへと足を向ける。

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