19 泥を洗い流しましょう(2)
「いいですか!?振り向きますよ!?」
散々確認した挙句、振り向くと、ハルムは目を疑った。
確かにアセリアは、キルトをきっちり巻いていた。
けれど、なぜか肩を隠すのに必死で、足の方は疎かだったらしい。
太ももから下が見えてしまっている。
白い脚がもじもじと動く様や、恥ずかしそうにそっぽを向いた横顔から、目を離せなくなりそうだった。
「お嬢様!もうちょっと脚を隠せませんか!?」
突っ込むと、アセリアは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「手が届きませんでしたのよ」
とにかく、アセリアの足元にある泥だらけの洋服入りの桶を持っていかなくては、お湯を入れることが出来ない。見たところ、桶はこれしかないのだから。
アセリアの脚は見ないように努力しながら、桶を取り、井戸のそばに泥だらけの服を積む。
それから井戸で桶を洗い、お湯を作った。
アセリアの足元に桶を置き直す。
「どうぞ、お嬢様。脚と、出来れば頭も綺麗にしてくださいね。私は外に出てますから」
「ええ、任せてちょうだい」
と返事を聞いたはいいけれど。
外に出ていくらもしないうちに、窓が叩かれた。
何かあったのか?
すかさず小屋に入る。
「お嬢様!?」
アセリアは、キルトを巻き、こちらを向いて立っていた。
「ハルムぅ……」
髪から水滴を滴らせ、潤んだ目でキルトを内側からキュッと握りしめている。
見た感じ、何かあったような感じはしないが……。
むしろ、こうやって、向かい合っていることの方が大事件じゃないだろうか。
「何かありまし……」
「ひゃっくしゅん!ひゃっくしゅん!ひゃっくしゅん!」
言い終わらないうちに、アセリアのくしゃみが小屋の中に響く。
「寒くなってしまって……ひゃっくしゅん!」
どうやら、髪を洗うのも足を洗うのも苦手だったようだ。髪からぼたぼたと水がしたたり落ちていた。
確かに、もっと大きなタライでもないと、髪を洗うのは骨が折れるかもしれないが。
桶にお湯を足す。
「まず、足から洗ってくださいね」
「やってくださいませ」
…………うっ。
言われるかもしれないとは思ったが……。
まあ、ここで拒否して風邪を引かれるのも困る、か。
「わかりました」
仕方なく、椅子にアセリアを座らせて、その前にしゃがみ込んだ。
必死に、前を向かないようにする。
この距離で、膝や太ももを間近に見るのはまずい。
「では、触りますね」
「ええ、いいですわ」
正直、ハルムは女性に触れたことなどない。
この人生で、触れるほど誰かに近付く必要なんて一度だってなかったのだ。
少し緊張しながらも、アセリアの真っ白な足を慎重に持ち上げた。
「ひゃあんっ」
「……っ!」
まったく……、なんて声出すんだよ。
「大丈夫ですか、お嬢様」
「え、ええ。何の問題もありませんわ」
慌てている、泣きそうな声。そこには、恥ずかしさとくすぐったさが入り混じっている。
いや、俺からみたら問題大有りだが!?
問題ありありですが続きます!




