表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/54

第2話「あの子との再会(3)」


 その夜、寮の自室で、キオは窓の外を眺めていた。


 星が、夜空に美しく輝いている。


『キオ』


 シュバルツの声が、心に響く。


『今日は……良い一日だったな』


『うん。オーウェンとも仲良くできたと思うし、実習でも何とかうまくいった』


 キオは今日の出来事を振り返る。魔法の暴走を止めたこと。周囲からの賞賛。そして——


『ルイが、見ていてくれた』


 あの一瞬の視線。キオを見つめていた、あの澄んだ青い瞳。


『でも、話しかけてはこなかった』


『当然だ。お前は最高位の貴族。あの子は平民。簡単に話しかけられる関係ではない』


 シュバルツの言葉は、冷静で現実的だった。


『でも……僕は、ルイと友達になりたい』


『焦るな。機会は必ず来る。お前が行動すれば、いつか道は開ける』


 シュバルツの言葉に、キオは頷いた。


『明日、話しかけてみようかな』


『お前らしくやればいい』


 窓の外の星が、まるで励ますように瞬いている。


『そうだね……頑張ってみる』


 ---



 一方、女子寮の一室では。


 ルイは自分のベッドに腰を下ろし、今日の出来事を振り返っていた。


「ねえねえ、ルイ! 今日の黒髪の男の子、すごかったわね!」


 異国の少女——カリナが興奮気味に話しかけてくる。


「あんな冷静に、魔法の暴走を止めるなんて! 私びっくりしちゃった!」


「そうだね……すごかった」


 ルイは控えめに答えた。


 確かに、すごかった。あの冷静さ、優しさ、的確な判断。周りの生徒たちが驚いて固まっている中、迷わず行動した黒髪の少年の姿。


『やっぱりあの子って、七年前の……あの子なのかな』


 もしそうだったとしたら、あの時の子にまた会えたのがすごく嬉しい。会って話がしたい。でも、それと同時に、自分とは住む世界が違う存在なのだと感じた。


 最高位の貴族。圧倒的な魔力。周囲から向けられる賞賛と尊敬の眼差し。今の彼は七年前とは違うのだと、自分が気軽に話しかけてはいけない人なんだと、そう思った。


『私が話しかけても、迷惑なだけかもしれない』


「ルイ、どうしたの? ぼーっとして」


 カリナが不思議そうに尋ねる。


「ううん、何でもないよ。ちょっと疲れちゃっただけ」


 ルイは笑顔を作った。


 確かに七年前のことは覚えている。あの小さくて可愛い子が、寂しげに泣いていたこと。一緒にクッキーを作ったこと。


 でも、それはもう過去のこと。


 今は、お互いに違う世界にいる。


『それでいいんだよ。私には私の世界がある』


 そう自分に言い聞かせながら、ルイは今日一日の疲れを癒すために、ベッドに横になった。


 でも、閉じた瞼の裏には、キオの真剣な横顔が浮かんで離れなかった。


 ---



 しかし、キオはまだ気づいていなかった。


 ルイが自分のことを思い出してくれていること。そして、自分と同じように、あの日のことを大切に覚えていてくれていること。


 でも同時に、ルイが「別の世界の人」として、距離を置こうとしていることも——


 そして何より、今日の出来事が、ある人物の興味を強く引いてしまったことを——


 ---



 とある大学の研究棟の一室。


 窓から月明かりが差し込む研究室で、ベゼッセン・シュバルツ・ヴァーグナーは、手元の資料を見ていた。


 それは、部屋の影からベゼッセンのことをニヤニヤと見つめている「闇」がもたらした資料。


 そこには、キオの今日の実習での出来事が、詳細に記されている。


「キオ……やはり、お前は……」


 ベゼッセンの目には、複雑な感情が浮かんでいた。


 期待。不安。そして、何か計り知れない思惑。


 彼は書類を静かに閉じると、窓の外の夜空を見上げた。


 自分と同じ夜空色の髪を持つ少年——キオ。


 ずっと見守ってきた大切な存在。


「ああ......お前に会える日が待ち遠しいよ」


 その言葉は、優しさとも、何か別の感情とも取れる、不思議な響きを持っていた。


 月明かりの中、ベゼッセンの影が、長く長く伸びていた。



最後までお読みいただきありがとうございます。

面白い、続きが気になると思っていただけましたら、

下の☆マークから評価や、ブックマーク(お気に入り登録)をしていただけると、執筆の励みになります!

(お気軽にコメントもいただけたら嬉しいです)

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ