第7話「それぞれの魅力(2)」
キオたちの席では、カリナがぱあっと顔を輝かせた。
「わあ! 六人で勉強するのね。楽しそう!」
ルイは少し緊張した面持ちだったが、セドリックは嬉しそうに頬を緩めている。
「どの国の魔法について調べましょうか?」
セドリックが皆に問いかけると、カリナが元気よくぴん、と手を挙げた。
「じゃあさ! じゃあさ! 私の故郷の魔法について話してもいい? さっきの音楽の授業で話題になったから!」
「ぜひお願いする」
オーウェンが穏やかに頷くと、カリナは待ってましたとばかりに目をキラキラさせた。
「この前の勉強会で、精霊さんとの協力について話したでしょ?」
「ああ、メラメラちゃんとアクアくんだね」
キオが思い出すように言う。
「そうそう! 実はね、私の故郷では、精霊さんと一緒に歌を歌うの!」
「歌と精霊が関係してるの?」
ルイが興味深そうに身を乗り出す。
「うん! 歌って魔力を込めやすいから、精霊さんも喜んでくれるのよ。だから私の故郷では、魔法を使う時に歌を歌うことが多いの」
「だから、君はあんなに自然に歌えるんだね」
キオが納得したように頷く。
「それに、歌には感情が乗るでしょ? 精霊さんは感情にすごく敏感だから、歌で気持ちを伝えると、もっと力を貸してくれるの」
カリナの生き生きとした説明に、セドリックが目を輝かせた。
「すごい......。魔力が少なくても、歌や感情で補えるってこと?」
「そうなの! だから私の故郷では、精霊さんとどれだけ仲良くなれるかが大事なのよ」
「精霊さんと楽しく、歌を歌いながら暮らせるっていいね」
ルイが温かく言った。
「そうそう! それに友達と協力するのと同じで、一人じゃできないことも、みんなと一緒ならできるの!」
オーウェンが手元の羊皮紙に感心したようにメモを取る。
「我が国の魔法は個人の魔力を重視するが、カリナの故郷は協力を重視する。文化の違いが、魔法の在り方も変えるんだな」
「うん! 前にも言ったけど、この国に来て、みんなが一人で魔法を使えることにびっくりしたもの。私の故郷では考えられないわ」
セドリックが少し考え込んでから口を開いた。
「僕みたいに魔力が少ない人にとって、カリナの故郷の方法はすごく希望になります。それに......」
「それに?」
「錬金魔法みたいに、物の魔力を使う方法もあるんだよね。精霊と協力するのとは、また違った可能性だと思うんだ」
「確かに! どちらも、自分だけの魔力に頼らない方法だね」
キオが興味深そうに言う。
「カリナは『誰かと協力する』、セドリックが興味を持っているのは『何かを活用する』。魔力を補う方法も、色々あるんだね」
「そうだな。重要なのは、自分に合った方法を見つけることだ」
オーウェンがまとめるように言った。
「セドリック、君はどんな魔法に興味があるの?」
ルイが優しく尋ねる。
「僕は......やっぱり錬金魔法に興味があります。鉱物の中の魔力を引き出して使う技術。自分の魔力が少なくても、その技術を身につければ、できることが増えるんじゃないかって」
「それは素晴らしい考えだね」
キオが微笑む。
「カリナの精霊魔法と、セドリックの錬金魔法。どちらも、魔力の少なさを別の方法で補う。でも、アプローチは全然違う」
「うん! 私は精霊さんっていう『友達』と一緒。セドリックは鉱物っていう『道具』を使う感じかな?」
カリナの分かりやすい説明に、セドリックも頷いた。
「そうだね。どちらも素晴らしい方法だと思うよ」
一方、エルヴィンは自分のグループで説明を続けていた。
「この時代の魔法体系は、古代リベルタ王朝の影響を強く受けていて、特に召喚魔法の儀式は——」
「へぇ......そうなんだ」
グループメンバーの反応は、薄い。明らかに興味がなさそうだ。
エルヴィンの声が、わずかに小さくなる。
ちょうどその時、後方から、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
エルヴィンは思わず振り返った。
キオたちのグループでは、カリナが身振り手振りで何かを説明している。みんなが笑顔で聞き入っている。その輪の中心には、キオとオーウェンがいる。
エルヴィンは前を向き直し、ノートに目を落とす。
持っていたペンで、余白に小さな線を引く。何度も、何度も。まるで意味のない落書きだ。
「フォルケ君? 大丈夫?」
「............ああ。続けよう」
キオたちのグループでは、話題がさらに深まっていた。
その後も魔法談義は尽きることなく盛り上がったが、チャイムが鳴る少し前、授業の終わりが近づき、発表についての話になった。
「それで、発表はどうしましょうか?」
セドリックがおずおずと切り出す。
「カリナの精霊魔法について発表するのがいいんじゃないかな。カリナ、発表をお願いできる?」
「まっかせなさい!」
キオの言葉に、カリナが自信満々に胸を張る。
「それなら、セドリックも一緒に発表してはどうかな? 君が見つけた魔法の新たな可能性について話すのがいい」
オーウェンの提案に、セドリックは目を丸くした。
「えぇ!? 僕がですか!?」
「セドリックしかいないだろう」
「ははっ、そうだよね」
オーウェンとキオに立て続けに言われ、セドリックは最初こそわたわたしていたが、やがてふぅっと息を整えると、決意を固めたように頷いた。
「セドリックなら大丈夫だよ」
そんな彼に、ルイも優しく言葉をかける。
「人前で話すコツなら任せてくれ。これでも王族だからな、貴族の前で話すことには慣れている」
「僕も昔、人前で取り組みについて発表したことがあるから、話の構成やポイントならアドバイスできると思う。だから安心して」
キオの場合、オーウェンと違って人前で話したのは前世でのことだったが、その経験は今も体に染み付いている。
発表の時間。
カリナとセドリックは少し緊張した面持ちで教壇に立ったが、二人で顔を見合わせこくりと頷くと、練習通りに発表を始めた。
カリナが明るく説明する。精霊との協力、歌と魔法の関係、異なる文化の魅力。
セドリックが落ち着いた声で補足する。錬金魔法との類似点、魔力を補う様々な方法、それぞれの可能性。
二人の発表は、完璧に調和していた。
教室中が、固唾をのんで聞き入っている。
「——素晴らしい発表でした」
発表が終わると、シュトゥルム先生が心からの称賛を贈ってくれた。
「異なる文化への敬意を払い、そこから自分たちの可能性を見出す。非常に優れた内容でした。異文化理解と自国文化の相対化、その両方が見事にできていた点を高く評価します」
先生の言葉に続いて、クラス全体から温かい拍手が送られた。
エルヴィンも、拍手をしている。
パチ、パチ、パチ。
その手の動きは、どこか機械的だった。
視界の端に、振り返って見える後方の席の様子が映る。キオとオーウェンが、本当に嬉しそうに微笑んで二人を迎えている。
エルヴィンの拍手が、ふと止まった。
膝の上に置かれた両手が、わずかに震えている。
「フォルケ君?」
隣の生徒が不思議そうに見る。
「............いや、何でもない」
エルヴィンは小さく首を振ると、前を向き直して再び拍手を始めた。
でも、その手は——
ぎゅっと、拳を握りしめている。指の関節が、白くなっていた。
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