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夜空色の青春  作者: 上永しめじ
第四章「芽吹きの春と燃えるような夏」
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第53話「体育祭に向けて(2)」

 


 練習が始まった。


 実技場にはアイゼン先生の魔法によって様々な障害物が設置されている。低い壁、複雑に張られたロープ、細長い平均台、そして空中に浮かぶ魔法の光の輪。


 さらには筒状の装置からは、プシュッという音と共に魔法の風船が飛び出し、ふよふよと不思議な軌道で生徒たちの行く手を阻んでいた。



『あの魔法の風船、勢いよく筒から飛び出しているわりには、不規則な動きをしているね』

『本来あのスピードで射出されるなら真っ直ぐ進むものだが、魔法でわざと動きをつけているんだろう。一筋縄ではいかなそうだな』


 キオは気を引き締め、前を見据えた。



「それでは、順番に挑戦していけ! 全ての障害物を越えるんだ!」


 アイゼン先生の号令で、最初のペアが挑戦を始める。やがて、ルイとカリナのペアの番になった。



「ルイ、がんばりましょ! まずは私から行くわね!」



 カリナは緊張する様子もなく、新しい遊びを見つけた子供のように目を輝かせている。


「よーし! フワフワくん、準備はいい? 一気に高く行くわよ!」


 フワフワくんが強いつむじ風を起こしてカリナをふわりと浮かせた。


 カリナは「わあ、すごーい!」とはしゃぎながら、まるで空中を散歩するように光の輪を次々とくぐり抜けていく。


 その軽やかな動きは、日頃から精霊と全力で遊んでいる彼女ならではの連携だった。



「素晴らしい!」


 ベゼッセンが拍手をする。


「マージェンさん、精霊との協力が見事ですね。人の体を浮かせるのはコントロールが難しいものですが......きっと、日々精霊たちと練習しているんでしょうね」


「えへへ、ありがとうございます! フワフワくん、やったわね!」


 着地したカリナは、満面の笑みを弾けさせた。



 次は、ルイの番だった。


「............」


 ルイはスタートラインに立ち、少し青ざめた顔でコースを見上げていた。カリナほど運動が得意ではない彼女にとって、この課題はあまりに高い絶壁に見えていた。


 どうすればいいのか、カリナがフワフワくんと飛んでいる間も、必死に思考を巡らせていた。



『カリナみたいに、風で浮くのは私には怖い......。でも、トロプとなら......!』


 ルイは震える手で、水の精霊トロプをそっと導く。


「トロプ......。私、あそこを通りたいの。......すごく、怖いけど。......一緒に、頑張ってくれるかな」


 消え入りそうな声で、けれど懸命に絞り出した彼女の願い。それに答えるように、トロプがプルプルと波打ってルイの腕にまとわりついた。


 トロプが通ったあとの宙には水の残影がある。



 その水の跡を見たルイは、何かを思いついたように顔を上げた。そして、決心したように、トロプに耳打ちをする。


 ルイに何かを言われたトロプは嬉しそうに飛び跳ね。水の力を解き放った。


 トロプは空中に飛び出すと、光の輪を結ぶようにして、キラキラと輝く水の通り道を作り出していく。



「えいっ......!」


 ルイは思い切ってその水のトンネルへと飛び込んだ。水の弾力に包まれながら、トロプが導くままに体が運ばれていく。


 それは、彼女がトロプを見て思いついた。「自分でも失敗せずに輪をくぐれる方法」だった。



 バシャッ!


「ぷはっ......!」


 ゴール地点で水のトンネルが弾け、ルイは地面に降り立った。



「はぁ、はぁ......。で、できた......」


 やり遂げたことが嬉しくて、ルイの瞳には小さな自信の光が宿っていた。



「よくできましたね、リンネルさん」


 ベゼッセンが、驚きを含んだような温かな微笑みを浮かべて近づく。


「まさか、水の流れを空中に生み出し、その流れに身を任せて光の輪をくぐるとは......。面白い発想ですね」


「あ......ありがとうございます......っ」


 ルイが息を切らしながらも、嬉しそうに頬を染める。



「ただ――」


 ベゼッセンが目配せすると、ヴェルメがどこからか取り出した厚手のタオルをルイへと差し出した。



「全身ずぶ濡れになってしまうのが欠点ですね。風邪をひかないように気をつけてください」


「あ......はい」


 ルイは顔を真っ赤にしながら、ヴェルメからタオルを受け取った。ベゼッセンは風の魔法で温風を生み出し、彼女の体を乾かしてあげるのだった。



 続いて、セドリックの番になった。彼は雷の精霊コロネと共に、緊張した面持ちで障害物の前に立つ。



「コロネ......頑張ろうね」


 小さな声で励ますと、コロネが「キュキュ!」と元気よく鳴いた。セドリックは一瞬ためらったが、コロネに向かって小さく頷く。


 コロネはビリビリビリと毛を逆立てていく。コロネの身体から微量な電気が発せられ、それがセドリックに流れていった。


 セドリックの茶色の髪は、コロネと同じように逆立った瞬間、セドリックは駆け出した。



 その動きは、まるでアスリートのようで、ヒョイヒョイと障害物を避けていき、無事に越えることができた。



「やった!」


 セドリックは喜びの声をあげる―――が




 ゴールした瞬間、セドリックの動きがピタリと止まった。


「......はぁ、はぁ。......あ、あれ?」


 彼が最初の一歩を踏み出そうとした時、足がもつれて盛大にたたらを踏んだ。


「おっととと......!」


 木で出来た人形のように、ぎこちない動きでなんとか踏みとどまるが、その顔は心なしか引きつっている。



「モイヤー君、大丈夫ですか?」


 ベゼッセンが歩み寄る。セドリックは慌てて姿勢を正そうとしたが、身体が言うことを聞かない。


「は、ひ、はい......! ひゃ、ひゃくじょ、じょうぶ、れふ......!」


 口が完全に痺れてしまっているようで、言葉が全く回っていない。本人は必死に笑顔を作っているつもりなのだろうが、頬がヒクヒクと痙攣しており、なんとも奇妙な表情になっていた。


 カクカクとした動きでコロネを抱き上げようとするが、指先がコロネの毛に触れるたびに「ビロッ」と小さな火花が散り、そのたびにセドリックは「ひぅっ!」と短い悲鳴を上げて身体を硬直させていた。



「モイヤー君、素晴らしいですよ」


 ベゼッセンは、その様子を見て少し苦笑しながらも、称賛の言葉をかけた。


「コロネ君の力を上手く利用していますね。それに、君の思いやりと協力する姿勢がよく伝わってきました。......ただ、身体に痺れが相当残っているようですね」


 セドリックは「は、ふ、ふぁい......!」と、カカシのように硬直したまま何度も頷いた。ベゼッセンは彼に自信を持つよう促しつつ、体の痺れを軽減させる工夫について、改めて的確な助言を与えた。



 キオは、その様子を少し離れた場所からじっと見ていた。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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