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夜空色の青春  作者: 上永しめじ
第三章 「紅・銀の波乱と創生の祭典」
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第48話「白銀の審問」

 



 創世祭の儀式が幕を閉じてから、わずか数刻後のある場所——。



 王都大聖堂の最奥、一般信徒の立ち入りが許されぬ聖域。冷ややかな白石で築かれた会議室には、凍てつくような沈黙が澱んでいた。


 高い窓から射し込む西日が、純白の壁と銀の燭台を赤く染め上げている。だがその赤は温かみをもたらすことなく、まるで乾いた血のような禍々しさを漂わせていた。



 長い樫の卓を囲むのは、この国を宗教で支えるジルヴァ一族の重鎮たちだ。


 上座には、今回の創世祭総指揮を務めたマジェスタ家当主が腰を下ろしている。セレネの父であるこの男は、白銀の髪を一切の乱れなく撫でつけ、彫像のように動かない。凪いだ湖面を思わせる表情の下で、制御された激怒が煮えたぎっていることだけが、肌を刺すような威圧感となって伝わってくる。



 その隣には、ハイリヒ家当主——ルドルフの父。彼もまた白銀の髪を持つ壮年の傑物だが、今はその端整な顔を石のように強張らせ、口を一文字に結んでいた。



 対して、卓の向かい側に座る二人の様子は対照的だった。



 クロイツ家当主——ヴィクトールの父は、顔面蒼白で俯いている。膝の上に置かれた手は止める術もないのか細かく震え、時折、過呼吸気味の湿った音が喉から漏れた。


 リヒト家当主——マティアスの母に至っては、今にも崩れ落ちそうな体を辛うじて椅子に繋ぎ止めている有様だ。血の気を失った顔は幽鬼のようにやつれ、視線は虚空を彷徨っている。



 卓の端には、老神官グリゴリと数名の魔導師たちが、処刑を待つ罪人のように身を縮めて控えていた。



 そして——壁際には、三人の若者が立っていた。


 ルドルフ・ジルヴァ・ハイリヒは、感情の一切を削ぎ落とした顔で前を見据えている。傍らでは、八枚の翼を持つ天使の精霊ルシエルが、主と同じ冷徹さで静止していた。


 ヴィクトール・ジルヴァ・クロイツは、魂が抜けたように呆然と立ち尽くしている。足元の銀狼の精霊が不安げに鼻先を擦り付けるが、彼が反応する気配はない。



 マティアス・ジルヴァ・リヒトは——もはや立っているのが不思議なほど顔を青く染め、全身を激しく痙攣させていた。



「......始めようか」


 重苦しい空気を切り裂くように、マジェスタ家当主が口を開いた。


「グリゴリ。報告を」


「は、はい」


 老神官は深く頭を下げ、震える手で資料を開いた。



「儀式終了後、直ちに地下制御室にて魔法陣の検証を行いました。その結果......人為的な工作の痕跡が確認されました」


 リヒト家当主が、ひっ、と小さく息を呑む。


「埋め込まれていたのは『純白の石』。魔力を異常増幅させ、暴走を誘発する媒体です。幸いにも儀式中に何者かが除去したため、最悪の事態は免れましたが......」


 グリゴリは言い淀み、チラリとマティアスへ視線を向けた。


「......石から、リヒト家のマティアス少年の魔力痕跡が検出されました」



 その言葉が落ちた瞬間、リヒト家当主の体がガクリと揺れた。


「そ、そんな......嘘です......」


 彼女は縋るように身を乗り出したが、足がもつれてテーブルに手をつく。



「マティアス......! マティアスがそんなことをするはずが......!」


「母様......」


 マティアスが、蚊の鳴くような声で呟く。その表情は、絶望に塗りつぶされていた。



「控えよ」


 マジェスタ家当主の一喝が飛ぶ。温度のない声だった。


「報告はまだ終わっていない」


 グリゴリが脂汗を拭いながら続ける。


「工作が行われたのは儀式開始直前と推定されます。本来、地下室の管理は厳重でしたが......その時間帯、私が偽の呼び出しを受けて持ち場を離れておりました」


「偽の呼び出しだと?」


 ハイリヒ家当主が眉間の皺を深くする。


「はい。マジェスタ当主様の名を騙ったものでした。当然、そのような指示は出ておりません。誰が私を遠ざけたのか、現時点では不明です」


 室内の空気が、鉛のように重くなる。


「不明......」


 クロイツ家当主が、うわごとのように呟いた。



「つまり......息子は......何者かに利用されたと......?」


 リヒト家当主は縋るようにグリゴリを見る。


「断定はできません」


 グリゴリは無情な事実を告げた。


「しかし、魔力の痕跡がリヒト家のものであることは動かぬ証拠。マティアス殿が実行犯として関与したことは、疑いようもございません」


 重苦しい沈黙が落ちた。


 マジェスタ家当主が、ゆっくりと首を巡らせ、マティアスを射抜く。


「マティアス・ジルヴァ・リヒト」


「は、はいっ......!」


 名を呼ばれただけで、マティアスは鞭で打たれたように身を竦ませた。


「申し開きはあるか」


 マジェスタ家当主の鋭い眼光にマティアスは息を吸うことも忘れてしまった。



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