表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜空色の青春  作者: 上永しめじ
第三章 「紅・銀の波乱と創生の祭典」
152/167

第47話「二人だけの祭り(3)」

 


 空がだんだんと茜色へと変わりつつある刻限。


 少し歩き、人混みが途切れた路地裏に入り、二人は足を止めた。



 祭りの中心地からは少し離れており、喧騒もここまでは届かない。聞こえるのは遠くで鳴る楽隊の音色だけだ。オーウェンは息を吐きながら、スカーフをスルリとはずす。



「うーん......三人とも、なかなか見つからないわね」


「ああ......さすがに人が多すぎるな。もしかしたら、向こうも僕たちを探して歩き回っているのかもしれない」


 同意しながらも、オーウェンはポケットの中の硬い感触を確かめた。


 渡すなら、今しかない。この静かな場所で。


「カリナ」


「ん? なあに——」


 振り返った彼女の前に、オーウェンは隠し持っていた包みを差し出した。


「これを......君に」


「え?」


 カリナは目を丸くして、オーウェンと包みを交互に見た。



「開けてみてくれないか」


 促されるままに、カリナは不思議そうに包みを開いた。

 薄紙の中から現れたのは、街灯の明かりを受けて煌めく髪飾り。


 翡翠と朱色の石が、まるで小さな星のように瞬いた。



「わあ......っ! すごく綺麗......!」


「さっき、露店で見かけてね」


 オーウェンは照れくささを誤魔化すように、頬をかいた。視線をどこにやればいいのか分からない。



「君に似合うと思ったんだ。......その、スカーフのお礼も兼ねて」


「本当に......? 私に?」


「ああ。それに......」


 言葉を探して、オーウェンはカリナの瞳をまっすぐに見つめた。

 その瞳には、オーウェンの姿が映っている。



「カリナには、いつも笑っていてほしいと思っている。君のその笑顔を見ていると、僕も元気がもらえるんだ。心が軽くなる」


「オーウェン......」


「だから、これは僕からの感謝の気持ちだ。いつも、共に楽しい時間を過ごしてくれてありがとう」


 カリナは髪飾りを胸元で大事そうに両手で包み込んだ。

 やがて、彼女は花が咲き誇るような、満面の笑みを弾けさせた。


「すごく嬉しい! こんなに素敵な髪飾り、初めてもらったわ!」


「......気に入ってくれたか?」


「うん! ありがとう、オーウェン!」


 その笑顔の眩しさに、オーウェンは目を細めた。


 ああ、この笑顔が見たかったのだ。

 渡せてよかった。心の底からそう思った。高鳴っていた心臓の鼓動が、今は穏やかで温かいものに変わっている。



「でも......私、もらいっぱなしじゃ悪いわ」


 カリナが申し訳なさそうに眉を下げる。


「お返しなんていらないさ。君が喜んでくれたなら、それが一番の——」


「ダメよ! 何かお返ししたいの! 友達だもの!」


 譲らないカリナの真剣な表情に、オーウェンは思わず吹き出した。


「......じゃあ、一つだけお願いしてもいいか?」


「何? 何でも言って! 私にできることなら!」


「また、二人で街に出かけないか」


「え......?」


 カリナがきょとんとする。



「今日一日じゃ、とても遊び尽くせなかった。もっと色々なものを見て、もっと色々なものを食べて......君と一緒なら、もっと楽しいと思うんだ」


 恐る恐る告げた言葉に、カリナはぱあっと瞳を輝かせた。


「私も、オーウェンと一緒だと楽しいわ! もっともっと遊びたい!」


「本当か?」


「うん! 約束ね! また一緒に街を探検しましょう!」


 指切りをするように、視線が絡み合う。

 祭りの喧騒が遠くへ退き、二人だけの穏やかで、甘やかな時間が流れていた。




 ——その様子を見てしまった三人が、慌てて物陰に隠れたことにも気づかずに。

 


 ほんの数秒前まで、三人は二人に向かって駆け出していた。


「あそこ! カリナとオーウェンじゃない!?」


「本当だ! 見つけた!」


「早く合流しよう!」


 しかし——路地の入口に差し掛かった瞬間、三人は同時に足を止めた。


 オーウェンが、何かをカリナに差し出している。


 カリナが、それを受け取り、顔を輝かせている。


 二人が、柔らかい笑顔で見つめ合っている。



「......っ」


 キオが咄嗟に腕を広げ、ルイとセドリックを押し止めた。

 三人は息を殺し、そっと噴水の陰へと身を隠す。


「見つけられてよかったけど......」


 キオが声を潜める。


「二人とも無事......みたいだね」


「でも......なんだか、その......」


 ルイが頬を赤らめて黙り込む。セドリックも困ったように笑っていた。


 その光景は、誰かが割って入ることを拒むような、完成された世界に見えた。



「声をかけようか」


 そう言って一歩踏み出そうとしたキオの肩を、セドリックが静かに、しかし力強く押さえた。


「待って」


「セドリック?」


「......今は、声をかけるべきじゃない気がする」



 セドリックは真面目な顔つきで、遠くの二人を見つめていた。


 彼は決して冷やかしているわけではない。


 ただ、その場の空気、二人の表情、流れる時間——それらを冷静に観察し、今、自分たちが介入することが二人の「思い出」にとって最善ではないと判断したのだ。その瞳には、友人の大切な時間を守ろうとする静かな配慮が宿っている。



「邪魔しちゃ悪いよ。もう少しだけ、二人の時間にしてあげよう」


 その言葉にルイが何度も頷き、キオは不思議そうに静かに頷いた。


 三人は、シュバルツがかけてくれた「気配を消す魔法」を維持したまま、大切な友人たちの幸せなひとときを、物陰からそっと見守り続けた。


 彼らが声をかけたのは、それからしばらくして、二人の会話が一段落し、ふと空を見上げたタイミングだった。



「オーウェン! カリナ!」


「キオ!? みんな!」


 振り返った二人の顔には、驚きと共に、隠しきれない充実感が浮かんでいた。



「......楽しかった?」


 キオの問いかけに、オーウェンとカリナは同時に頬を染め、「「うん、すごく!」」と声を揃えた。



 温かな夕暮れ、五人の笑い声が重なり合い、祭りの空へと溶けていく。



 彼らの春は、まだ始まったばかりだ。


最後までお読みいただきありがとうございます。

面白い、続きが気になると思っていただけましたら、

下の☆マークから評価や、ブックマーク(お気に入り登録)をしていただけると、執筆の励みになります!

(お気軽にコメントもいただけたら嬉しいです)

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ