表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜空色の青春  作者: 上永しめじ
第三章 「紅・銀の波乱と創生の祭典」
148/167

第46話「祭りの喧騒と惑わしの魔法(2)」



「ねえ、あれ......」


 カリナが不意に足を止めた。


「なに?」


「あそこの人たち、こっち見てない?」


 カリナが指差した方向を見ると、数人の町民がこちらを凝視していた。ひそひそと何かを話し合い、興奮した様子で指を差している。


「あ......」


 キオは、嫌な予感がした。


 キオとオーウェンは儀式の代表として、大聖堂の巨大な魔法映写板に映し出されていたのだ。黒髪の少年も金髪の少年もそうそう居るものではない。


「ま、まさか......」


 その予感は、すぐに現実となった。


「あっ! あれって、儀式に出ていた方じゃない!?」


 誰かの叫び声が上がった途端、周囲の空気が一変した。


「本当だ! シュバルツ一族の代表様だ!」


「金髪の方は......オーウェン殿下!? 王子様だわ!」


「きゃあああ! 生で見られるなんて!」


 瞬く間に、人々が殺到してきた。


「ちょ、ちょっと待って!」


 キオが慌てて後ずさろうとするが、もう遅い。四方八方から押し寄せる人波に、あっという間に囲まれてしまった。


「素敵でした! 儀式!」


「あの光の雨、感動しました!」


「握手してください!」


「お近くで拝見できて光栄です!」


 口々に叫ぶ声が、洪水のように押し寄せてくる。


「あ、あの、ありがとうございます......」


 キオは必死に笑顔を保とうとするが、四方から伸びてくる手に、身動きが取れなくなっていた。


「殿下! 殿下!」


「オーウェン様——!」


 オーウェンの周囲はさらに酷かった。王族を一目見ようと、老若男女が押し合いへし合いしている。


「皆さん、落ち着いて......」


 オーウェンが制止しようとするが、興奮した群衆の耳には届かない。


「キオ君!」


 ルイの声が、どこか遠くから聞こえた。人混みに押されて、いつの間にか離れてしまったらしい。


「ルイ!」


「キオ——!」


 カリナの声も、かき消されそうだ。


 もみくちゃにされながら、キオは必死に友人たちの姿を探した。しかし、視界を埋め尽くすのは見知らぬ人々の顔ばかり。熱気と体臭、興奮した叫び声が渦を巻き、息が詰まりそうになる。




 その時だった。




「あ——! 見て! 空!」


 セドリックの甲高い声が、群衆の中から響いた。


「なんだあれ―――!」


 その叫びに、人々の視線が一斉に天へと向いた。


「え? なになに?」


「どこどこ?」


「何も見えないけど......」


 群衆の注意が逸れた一瞬——。


「今だ! こっち!」


 誰かの手が、キオの腕を掴んだ。振り返ると、セドリックが必死の形相でこちらを見ている。


「走って!」


 考える間もなく、キオは駆け出した。人混みの隙間を縫うように、脇道へと滑り込む。


 気づけば、狭い路地裏に飛び込んでいた。




「はあ......はあ......」


 薄暗い路地で、三人は息を切らしながら壁に背を預けた。


 キオ、ルイ、セドリック——三人だけだ。


「オーウェンとカリナは......?」


 キオが慌てて周囲を見回すが、二人の姿はどこにもなかった。


「はぐれちゃった......」


 ルイが肩で息をしながら、青ざめた顔で呟いた。


「ごめん......僕が空を指差したから、みんなバラバラに......」


 セドリックが申し訳なさそうに俯く。


「ううん、セドリックのおかげで逃げられたんだよ。ありがとう」


 キオは、友人の肩を優しく叩いた。


「でも、どうしよう......」


 ルイが不安げに路地の入口を見つめる。大通りからは、まだ群衆の興奮した声が聞こえていた。


「とりあえず、ここは見つからないように......」


 キオが小声で言いかけた、その時——。




 ぞわり。




 背後で、空気が揺らいだ。


 振り返ると、キオの影がゆっくりと盛り上がり——そこから、見慣れた姿が現れた。


「スバル!」


 漆黒の髪、紫の瞳、背に揺れる翼と長い尾。竜人の姿をしたシュバルツが、呆れた顔で三人を見下ろしていた。


「なんだか、騒がしいな」


 低い声が、路地裏に響く。


「キオ君の影から出てくるの初めて見た......」


 セドリックが目を丸くする。


「すごい魔法だね」


 ルイも驚きを隠せない様子だ。


 シュバルツは、どうということはないという顔をして、キオの傍に歩み寄った。


「怪我はないか」


「うん、大丈夫だよ。ありがとう、スバル」


 キオが微笑むと、シュバルツの表情がわずかに和らいだ。




「それで、どうする? あの騒ぎでは、このまま戻るのは難しいぞ」


 シュバルツが腕を組んで問いかける。


「オーウェンとカリナを探さないと......」


 キオが困ったように眉を寄せた。


「でも、また見つかったら、同じことの繰り返しになっちゃうよね」


 ルイが不安げに言う。


「キオ君もオーウェン君も今日の主役だったからね......」


 セドリックが、キオを見つめながら呟いた。


 確かに、儀式当日の街中は普段とは、人も街の様子も異なる。キオの黒髪はいつも以上に目立ってしまうだろう。


「どうしよう......」


 キオが途方に暮れたように呟いた、その時——。




「仕方ない」


 シュバルツが、低く呟いた。


 その手が、すっとキオのローブに触れる。


「え? スバル?」


「じっとしていろ」


 シュバルツの指先が淡く紫色に光った。その光がキオのローブに吸い込まれていくように広がり、やがて服全体を薄い膜のように包み込んだ。


「な、何これ......?」


 キオが驚いて自分の体を見下ろす。服の見た目は変わらないが、どこか奥行きが曖昧になったような、不思議な感覚があった。


「惑わしの魔法だ」


 シュバルツが、事もなげに言った。


「は、惑わし?」


 セドリックが目を丸くする。


「空間を歪ませ、周囲からの認識を曖昧にする。完全に姿を消すわけではないが、注目を集めにくくなる」


「えっ、そんな魔法があるの?」


 ルイが驚きの声を上げた。


「空間魔法の応用だ。キオの存在を『背景』に溶け込ませる。近くで凝視すれば気づくだろうが、通りすがりの者が目を留めることはなくなる」


「すごい......」


 キオは、自分の手を見つめた。確かに、何かが変わったような気がする。存在感が薄れたというか、周囲の空気に馴染んだというか。


「便利な魔法だね」


「本来は隠密術だが、こういう時にも使える」


 シュバルツの声には、どこか照れくささのようなものが混じっていた。


「私たちにもかけてもらえる?」


 ルイが期待を込めて尋ねると、シュバルツは小さく頷いた。


「お前たちにも施しておこう。二人を探すなら、目立たない方がいい」


 同じように、ルイとセドリックのローブにも淡い光が広がった。


「わ......なんだか不思議な感じ」


 セドリックが自分の体を見回す。


「これで、あの人混みの中でも見つかりにくくなるはずだ」


 シュバルツの言葉に、三人は顔を見合わせた。


「じゃあ、お祭りを回りながら、オーウェンとカリナを探そう」


 キオの提案に、ルイとセドリックが頷いた。


「うん。きっと二人も、僕たちを探してるはず」


「早く合流できるといいね」





最後までお読みいただきありがとうございます。

面白い、続きが気になると思っていただけましたら、

下の☆マークから評価や、ブックマーク(お気に入り登録)をしていただけると、執筆の励みになります!

(お気軽にコメントもいただけたら嬉しいです)

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ