表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜空色の青春  作者: 上永しめじ
第三章 「紅・銀の波乱と創生の祭典」
147/167

第46話「祭りの喧騒と惑わしの魔法」

 



 大聖堂を出ると、そこには夢のような光景が広がっていた。


 色とりどりの旗が風に揺れ、屋台から立ち上る湯気が春の陽光にきらめいている。甘い香り、香ばしい匂い、威勢のいい呼び込みの声——すべてが入り混じり、街全体がひとつの生き物のように息づいていた。


「わあ......すごい人出だね」


 キオは思わず立ち止まり、目の前に広がる景色を見渡した。


 大通りを埋め尽くすほどの人、人、人。平民も貴族も、老若男女の区別なく、誰もが笑顔で祭りを楽しんでいる。


「本当に! これだけの人が王都に集まるなんて!」


 カリナが目を輝かせて周囲を見回す。その肩の上では、メラメラちゃんが興奮気味に揺れていた。


「創世祭は年に一度の国家的祭典だからな。地方からも大勢の人が訪れる」


 オーウェンが穏やかに説明する。しかしその表情には、どこか緊張の色が浮かんでいた。王族である彼にとって、この人混みは少々神経を使う場所なのかもしれない。


「儀式が終わったこの時間帯が、一番賑わうんだ。日が暮れるまで、このお祭り騒ぎは続くよ」


「へえ......王都のお祭りって、こんなに大きいんだね」


 ルイも感心したように呟く。その隣では、火の精霊フレアと水の精霊トロプが、物珍しそうに人波を眺めていた。


「僕も、こんなに大きなお祭りは初めてかも......」


 セドリックが少し怯えたように、肩の上のコロネを撫でる。フェネックの精霊は、大きな耳をぴくぴくと動かしながら、主人を安心させるように頬をすり寄せた。




 五人は、人波に流されないよう固まりながら、大通りへと足を踏み出した。


 通りの両側には、所狭しと屋台が並んでいる。


「さあさあ、焼きたてパンだよ! 三大竜を模した竜パン、いかがですか!」


「こっちは創世祭名物の三色団子! 黒、金、白銀——縁起物だよ!」


「果実酒はいかがですか! 今年の新酒、甘くて美味しいですよ!」


 威勢のいい呼び込みの声が、あちこちから飛んでくる。


「あ、あれ見て! あの屋台、カラメルりんごだ!」


 カリナが指差した先には、陽光を受けて宝石のように輝く赤い果実が山積みになっていた。甘い香りが漂い、子供たちが目を輝かせて列を作っている。


「あっちは焼き栗だね。すごくいい匂い......」


 ルイも、鼻先をくすぐる香ばしさに頬を緩めた。


「僕、あの竜の形のクッキーが気になる......」


 セドリックが控えめに指差した屋台には、三大竜を模した精巧なクッキーが並べられていた。黒竜、金竜、白銀竜——それぞれの特徴を捉えた細工は、食べるのが惜しいほどの出来栄えだ。


「よし、まずはあそこから回ってみよう」


 オーウェンが提案し、五人は人波をかき分けながら歩き始めた。




 通りを歩くたびに、目に飛び込んでくる光景は華やかだった。


 店先には薔薇と百合の花輪が飾られ、軒下にはチューリップの鉢植えが並んでいる。街灯の柱には藤の花が巻き付き、薄紫の房が風に揺れるたびに、ふわりと上品な香りが漂った。


「綺麗だね......まるで街全体が花畑みたい」


 キオが思わず足を止めて見上げると、建物の二階の窓辺からも、色とりどりの花々が顔を覗かせていた。


「今年は特に気合いが入っているな。今年は特別な年だったから、街の人たちも張り切っているんだろうな」


 オーウェンが微笑みながら説明する。


 広場に設置された噴水の周りは、まさに花の絨毯だった。白いマーガレット、黄色いタンポポ、青いネモフィラ、ピンクの芝桜——地上に虹が降りたかのような鮮やかさに、子供たちがはしゃぎながら駆け回っている。


 大道芸人たちも、あちこちで喝采を浴びていた。


 広場の一角では、オレンジ髪の青年が両手を掲げると、掌から炎の竜が立ち上って宙を舞った。観客から歓声が上がり、子供たちは目を丸くして拍手を送っている。


「すごい! あんな魔法、僕にもできるかな?」


 セドリックが感嘆の声を上げると、オーウェンが笑った。


「あれはかなり高度な火炎制御だな。練習次第では、セドリックにもできるようになるかもしれない」


「本当? じゃあ、練習頑張ろうかな」


 セドリックの目が輝いた。




 噴水の傍では、吟遊詩人が奏でる竪琴の音色に合わせて、小さな風の精霊たちが舞っていた。その旋律は風に乗って広場全体に響き渡り、人々の心を優しく撫でている。


「なんだか夢みたいだね......」


 ルイが、うっとりとした表情で呟いた。


「うん。こんな平和な光景、ずっと続けばいいのに」


 キオも、静かに頷く。


 儀式の緊張から解放され、友人たちと過ごすこの穏やかな時間。何気ない日常が、こんなにも尊く感じられる。




 しかし——その平和は、長くは続かなかった。





最後までお読みいただきありがとうございます。

面白い、続きが気になると思っていただけましたら、

下の☆マークから評価や、ブックマーク(お気に入り登録)をしていただけると、執筆の励みになります!

(お気軽にコメントもいただけたら嬉しいです)

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ