第45話「光の雨(3)」
「それにしても」
オーウェンが、窓の外を眺めながら呟いた。
「あの光の雨......本当に綺麗だったな」
「はい......まるで、夜空から星が降ってきたようでした」
セレネも、うっとりとした表情で頷く。
「みんなの魔力が調和するとあんなに綺麗な光になるんだね。感動したよ」
キオは、二人の言葉を聞きながら、静かに微笑んだ。
あの光景は、きっと一生忘れない。
三色の魔力が混ざり合い、光の雨となって降り注いだあの瞬間——。
それは、みんなと、そしてシュバルツと一緒に創り出した、奇跡だった。
ガチャ
「三人とも、お疲れ様でした」
ルドルフが、温かい飲み物を運んできてくれた。
「......途中で何かあったようですが、それを乗り越えての、あの素晴らしい儀式。私は感動いたしました」
彼の瞳には、純粋な賞賛の光が宿っている。
「ありがとう、ハイリヒ君」
キオが礼を言うと、ルドルフはふわりと微笑んだ。
「いいえ。今日のキオ様は......本当に素晴らしかった」
温かい飲み物を受け取り、三人はしばらく穏やかな時間を過ごした。
緊張と恐怖に満ちた儀式の後だからこそ、この静かなひとときが、何よりも尊く感じられる。
やがて、控え室を出る時間が来た。
「さて、そろそろ行こうか」
オーウェンがゆっくり立ち上がり、軽く伸びをした。
「ルイたちが外で待ってるはずだ。疲れはとれてないが、せっかくのお祭りだし、みんなで楽しもう」
「あ、そうだった」
キオも慌てて立ち上がる。儀式の緊張ですっかり忘れていたが、今日は創世祭——王都中がお祭りムードに包まれているのだ。
「わ、私は......これから家族と合流しますので......」
セレネが、少し寂しそうに言った。
「でも、キオ様、オーウェン様......今日は本当に、ありがとうございました」
深々とお辞儀をするセレネに、キオは優しく微笑んだ。
「こちらこそ。また学校でね、セレネさん」
「ああ。また会おう」
オーウェンも穏やかに手を振る。
セレネは顔を赤らめながら、テレシアと共に控え室を後にした。
二人を見送った後、キオは傍らに立つシュバルツを見上げた。
「スバル」
「なんだ」
「......本当に、ありがとう」
キオは、真っ直ぐにシュバルツの紫の瞳を見つめた。
「今日、僕があそこで立っていられたのは、スバルがいてくれたからだよ。スバルが力を貸してくれて、スバルが導いてくれて......だから、僕は最後までやり遂げられた」
シュバルツは、しばらく無言でキオを見つめていた。
その表情は相変わらず読み取りにくい。だが——。
「......当然のことをしただけだ」
シュバルツは、ふいと顔を背けた。
「でも、お前の役に立てたのなら本望だ」
その言葉に、キオの胸がじんわりと温かくなった。
「俺は、お前の傍にいる。これからも、ずっと」
シュバルツの長い尾が、そっとキオの腰に巻き付いてきた。
それは、彼なりの精一杯の愛情表現だと、キオにはわかっていた。
「......うん」
キオは、シュバルツの尾に手を添えながら、微笑んだ。
「僕も、スバルと一緒にいたい。ずっと」
「おーい、キオ」
オーウェンが、扉の前から声をかけてきた。
「そろそろ行こう。ルイたちを待たせてる」
「あ、うん! 今行く!」
キオは、シュバルツと顔を見合わせた。
「行こう、スバル。みんなでお祭り、楽しもう」
「......ふん。騒がしいのは好かんが、仕方あるまい」
口ではそう言いながらも、シュバルツの足取りは軽い。
大聖堂の外に出ると、春の陽射しが眩しく降り注いでいた。
通りには屋台が立ち並び、人々の笑い声と美味しそうな匂いが溢れている。
そして——。
「キオー! オーウェンー!」
カリナの元気な声が聞こえた。
見ると、ルイ、カリナ、セドリックの三人が、大きく手を振っている。
「お疲れ様! 儀式、すっごく綺麗だったよ!」
「キオ君、本当に素敵だった......」
「あの光の雨、感動したよ......!」
友人たちの笑顔に、キオの心が温かく満たされていく。ルイたちの笑顔を見たら、儀式の時の疲れが嘘のように消えていった。
「さあ、行こうか」
オーウェンが、いつもの穏やかな笑顔で言った。
「今日は、思いっきり楽しもう」
キオは、深く頷いた。
大切な相棒と、大切な友達がいる。
それだけで、世界はこんなにも輝いて見える。
春風が、夜空色の髪を優しく揺らしていく。
五人とそれぞれの精霊たちは、賑やかな祭りの中へと歩き出した。
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