第45話「光の雨(2)」
「......なんと」
どこからか、呟きが漏れた。
参列者たちが、息を呑んで天を仰いでいる。
そこには——信じられない光景が広がっていた。
三色の魔力が、完璧な調和を保ちながら天へと昇っていく。黒と金と白銀が、互いを打ち消し合うことなく、むしろ互いの輝きを引き立てながら、螺旋を描いて上昇していく。
そして、その光が天井に達した瞬間——
ふわ、ふわ、ふわ......
光の粒子が、雨のように降り注ぎ始めた。
黒い光、金色の光、白銀の光。三色の光が混ざり合い、無数の小さな粒となって、大聖堂の中を満たしていく。
それは——幻想的という言葉すら生ぬるい、この世のものとは思えない美しさだった。
まるで、夜空から星々が降り注いでいるかのような。
あるいは、神々の祝福が、この場に降り注いでいるかのような——。
キオやオーウェン、セレネも静かにその光景を見上げていた。
「光の......雨......」
ルドルフが、恍惚とした表情で呟いた。
「これが......三大竜の調和......」
参列者たちの間から、感嘆のどよめきが広がっていく。
恐怖で張り詰めていた空気が、一転して歓喜と感動に塗り替えられていく。
「素晴らしい......」
「なんと美しい......」
「これぞ、創世の再現......」
光の雨は、参列者たちの上にも降り注いでいた。それに触れた者たちは、不思議な温もりを感じ、心が洗われるような感覚を覚えている。
王族席では、国王と王妃が目を見開いていた。
「おお......」
国王が、言葉を失ったように呟く。
「まさか......これほどの......」
「オーウェン......」
王妃は、目元を拭いながら微笑んでいた。
光の雨が降り注ぐ中、シュバルツは静かに動いた。
キオの傍らに寄り添っていた彼は、誰にも気づかれないよう、長い尾を魔法陣の方へと伸ばした。
光の雨が視界を遮り、参列者たちの注目が天井に向いている今なら——誰も気づかない。
シュバルツの尾の先が、魔法陣の端に触れた。
そこには——本来あるはずのない、白い染みがあった。
魔法陣を暴走させた元凶。おそらく、何者かが仕込んだ異物。
シュバルツは、その白い染みの上を、尾で静かになぞった。
バチッ!......スゥ
黒い小さな稲妻が走り、白い染みが蒸発するように消えていく。そして、魔法陣の紋様が本来の形に戻っていった。
同時に、魔法陣からの増幅作用が完全に停止した。
『これで良し』
シュバルツは、誰にも気づかれないまま、尾を元の位置に戻した。
後は——この幻想的な光景を、美しく終わらせるだけだ。
キオは、シュバルツの意志を感じ取っていた。
魔法陣の増幅が止まり、三人の魔力が自然と収束し始めている。
光の雨も、少しずつ弱まっていく。
だが、それは突然の終わりではなく——優しく、穏やかに、余韻を残しながらの終幕だった。
ふわり。
最後の光の粒子が舞い落ち、大聖堂に静寂が戻った。
三人の魔力は、完全に安定していた。
オーウェンは、深く息を吐きながら、自分の手を見つめている。
セレネは、テレシアに支えられながらも、安堵の表情を浮かべている。
そしてキオは——シュバルツの温もりを感じながら、静かに目を開けた。
成功した。
僕たちは——やり遂げた。
「......おお」
マジェスタ家当主が、感極まったように声を上げた。
「まさに奇跡......! これこそ、三大竜の真の調和......!」
大聖堂全体に、割れんばかりの拍手が響き渡った。
参列者たち——貴族も、聖職者も、一般の招待客も——皆が立ち上がり、三人を称えている。
「素晴らしかった......!」
「感動した......!」
「これぞ創世祭の真髄......!」
キオは、その拍手の渦の中で、傍らに立つシュバルツを見上げた。
竜人の相棒は、いつもの無表情を保ちながらも、その紫の瞳には確かな誇りと——温もりが宿っていた。
『よくやった、キオ』
心に響くその声に、キオは小さく微笑んだ。
『ありがとう、シュバルツ。君がいてくれたから、できたんだよ』
―――
儀式が無事に終わり、控え室に戻った三人は、緊張が解けてぐったりと座り込んでしまった。
「はぁ......終わった......」
オーウェンが、珍しく疲れた声を漏らす。
「本当に......どうなることかと......」
疲れたように金色に輝く前髪をかきあげた。
「わ、私も......途中で、倒れるかと思いました......」
セレネが、まだ顔色が悪いながらも、安堵の溜息をついた。
テレシアが心配そうに主人の顔を覗き込み、セレネはその頭を優しく撫でている。
「でも、なんとかなったね」
キオが言うと、オーウェンがふっと笑った。
「ああ。正直、途中で諦めかけたよ。魔力が全然言うことを聞かなくて......」
「私も、です......。もう駄目だと思った時に、キオ様の魔力が......」
セレネが、頬を染めながらキオを見た。
「とても、温かかったです。怖くなくなりました」
「僕も同じだ」
オーウェンが深く頷いた。
「キオの魔力に包まれた瞬間、不思議と落ち着いたんだ。暴走していた力が、急に素直になった気がした」
二人の言葉に、キオは照れくさそうに頭を掻いた。
「僕一人の力じゃないよ。スバルが......助けてくれたんだ」
キオは、壁際に静かに立っているシュバルツを見上げた。
竜人の相棒は、相変わらず無表情を保っている。だが、その紫の瞳が、一瞬だけ柔らかく細められたのを、キオは見逃さなかった。
「スバル殿には、感謝しかありませんね」
オーウェンが、シュバルツに向かって軽く頭を下げた。
「あなたがいなければ、僕たちは大変なことになっていた」
「わ、私からも......ありがとうございます、スバル様」
セレネも、深々とお辞儀をする。
シュバルツは、ふんと鼻を鳴らした。
「礼には及ばん。俺はキオの傍にいただけだ」
素っ気ない言葉。だが、その声には確かな温もりが含まれていた。
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