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夜空色の青春  作者: 上永しめじ
第三章 「紅・銀の波乱と創生の祭典」
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第45話「光の雨」




 魔法陣が、不気味に明滅していた。


 暴走する魔力が、三人の身体から際限なく引き出されていく。キオの足元で渦巻く漆黒の力は、もはや自分の意志とは無関係に膨れ上がり、大聖堂の空気そのものを飲み込もうとしている。


『シュバルツ......!』


 キオは心の中で叫んだ。


 オーウェンは歯を食いしばり、必死に自分の魔力を抑え込もうとしている。だが、その額には玉の汗が浮かび、顔色は蒼白だ。


 セレネは——もう、立っているのがやっとだった。傍らでテレシアが必死に支えているが、彼女の瞳からは光が失われつつある。


「キオ様......!」


 セレネの悲痛な声が聞こえた。


「キオ......!」


 オーウェンの声も届く。


 二人が、苦しんでいる。このままでは——。


『キオ。決断しろ。時間がない』


 シュバルツの声が、静かに、しかし切迫した響きで告げた。


『俺を信じろ。そして——お前自身を信じろ』



 その言葉に、キオの脳裏にある光景が蘇った。



     



 ——あの日の、ヴィクトールとの訓練。


 何度打ちのめされても立ち上がり、何度も何度も魔力を放出しては止め、放出しては止めを繰り返した。


 全身が傷だらけになりながらも、キオは諦めなかった。


 そして、その果てに掴んだ感覚——。


『力が大きすぎるなら、小さく分ければいい』


 それは、かつて魔力に乏しかった前世の自分が、強大な魔石を扱うために理論と工夫で編み出した答えだった。


 一度に全てを制御しようとするから溢れる。ならば、小さな単位に分けて、一つずつ積み重ねればいい。


 小さな「核」を作り、その周囲に薄い膜を何重にも重ねていく。イメージするのは、何層にも重なる玉ねぎの皮。あるいは、極薄のガラスを千枚重ねた防壁——。



     



『そうだ、キオ』


 シュバルツの声が、導くように響いた。


『あの時、お前が編み出した技術を思い出せ。薄い膜を、一枚一枚めくるように——』


『めくる......?』


『そうだ。絞り込むのではない。広げるんだ。だが、むやみに広げるのではなく、一枚ずつ、丁寧に。お前の夜空は、何でも包み込める——そうだろう?』


 キオは目を閉じた。


 へそ下の魔力の源。そこから噴き上がる、制御不能な力の奔流。


 それを——絞り込むのではなく、広げていく。


 だが、一気にではない。


 ベールを一枚。


 また一枚。


 一枚一枚、丁寧にめくるように、層を重ねながら広げていく。



『そう、その調子だ』


 シュバルツの声が、静かに励ます。


『焦るな。俺がついている』



 キオは、ゆっくりと意識を広げた。


 自分の内側にある漆黒の力を、極薄の層として一枚ずつ展開していく。その膜は、夜空のように深く、優しく、すべてを抱擁する帳となっていく。


 一枚目——自分自身を覆う。


 二枚目——足元の魔法陣を鎮める。


 三枚目——周囲の空気を落ち着かせる。



 だが、そこで限界が来た。


 自分一人では、これ以上は——。



『キオ』


 シュバルツの声が、これまでとは違う響きを帯びた。


 静かで、深く、絶対的な信頼が込められた声。



『俺に身を任せろ』



 その言葉と同時に、キオの身体の中に温かい力が流れ込んできた。


 シュバルツの力だ。


 それは、太陽のような熱さではなく、月明かりのような穏やかさでもなく——夜空そのもののような、静謐で、深遠で、すべてを満たす温かさだった。



『お前の身体を通して、俺が力の流れを導く。お前は、ただ領域を広げろ』



 キオは、全身の力を抜いた。


 抵抗をやめ、シュバルツに身を委ねる。


 契約で結ばれた絆——その絆を通して、シュバルツの意志がキオの身体を導いていく。



 すると——不思議なことが起きた。


 これまで指の間から溢れ出していた魔力が、まるで自分の一部のように従順に動き始めたのだ。シュバルツの力が、キオの魔力と混ざり合い、一つの大きな流れを形成していく。



『いいぞ、キオ。次は、あの二人を——』



 キオは、オーウェンとセレネの方へ意識を向けた。


 二人の魔力が見える。


 オーウェンの黄金の光——温かく、力強いが、今は暴風のように荒れ狂っている。


 セレネの白銀の光——澄んでいて、優しいが、今は本人を飲み込もうとしている。



『あの二人を、お前の夜空に招き入れろ。暴走する魔力を、夜の帳で鎮めるんだ』



 キオは、自分の世界を広げた。


 夜の帳を一枚、また一枚と重ねながら、オーウェンとセレネに向かって伸ばしていく。


 夜空は、星も月も太陽も——すべてを抱く器。


 ならば、黄金の光も、白銀の光も、受け止められないはずがない。



「......キオ?」


 オーウェンが、驚いたように目を見開いた。


 暴走していた黄金の魔力が、急に楽になったのを感じたのだろう。キオの漆黒の力が、優しく彼を包み込み、荒れ狂う魔力を鎮めていく。



「キ、キオ様......?」


 セレネも、同じように驚いていた。


 彼女を飲み込もうとしていた白銀の光が、急速に落ち着いていく。キオの夜空が、彼女の魔力を優しく受け止め、安定させているのだ。



『よし。あとは——俺に任せろ』



 シュバルツの意志が、キオの身体を通して三人の魔力を統べ始めた。


 黒。金。白銀。


 三色の力が、シュバルツの導きによって一つの大きな流れを形成していく。


 暴走していた魔力が、調和へと変わっていく。


 ぶつかり合っていた力が、寄り添い始める。


 そして——



 ふわり。



 大聖堂全体が、淡い光に包まれた。



     




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