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夜空色の青春  作者: 上永しめじ
第三章 「紅・銀の波乱と創生の祭典」
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第44話「荘厳なる儀式と突然の異変(3)」

 



 同じ頃——大聖堂の地下、制御室。


 薄暗い石造りの部屋には、複数の神官たちが詰めていた。床一面に広がる魔法陣は、聖堂中央の本番用魔法陣と連動し、魔力供給と制御を司る心臓部だ。


 その中央で、老齢の神官グスタフが青ざめた顔で魔法陣を見つめていた。


「何が......何が起きている......!」


 儀式が始まった直後のことだった。


 魔法陣が、突如として異常な挙動を示し始めたのだ。



「グスタフ様! 魔力の出力が制御できません!」


「増幅回路が勝手に作動しています!」


 若い神官たちが悲鳴に近い声を上げる。



 グスタフは、魔法陣の中央を凝視した。


 そこには——異変があった。


 本来なら淡い白銀の光を放つはずの紋様が、今は真っ白に染まっている。まるで虚無そのもののような、不気味な白。



 その白が、液体のようにじわじわと広がり、周囲の紋様を侵食していく。


「なんだ、これは......!」


 グスタフは目を見開いた。



 白い何かが、魔法陣全体に溶け込むように浸透している。それは見たこともない現象だった。触れることもできず、止めることもできない——ただ、全てを飲み込むように、魔法陣全体を狂わせていく。


「止められません......! 何をしても、反応しない......!」


「制御術式が、完全に乗っ取られています......!」


 神官たちが必死に対処を試みるが、白い侵食は止まらない。




 グスタフは、絶望的な表情で天井を見上げた。


 上からは、凄まじい魔力の波動が伝わってくる。


 三人の若者たちが、今まさに苦しんでいることを——


 彼は、痛いほどに理解していた。



「上に連絡を......! 儀式を中断させなければ......!」


 だが、すでに魔力の暴走は止められない段階に達していた。





 ―――


 大聖堂では、混乱が続いていた。


 ズズズズズ......


 大聖堂の床が、不気味な音を立てた。


 暴走する魔力が、建物そのものを侵食し始めていた。天井から塵が舞い落ち、壁にさらに大きな亀裂が走る。


「このままでは......大聖堂が......!」


 マジェスタ家当主が、歯を食いしばりながら指示を飛ばす。



「参列者を避難させろ! ジルヴァの神官たちは防護結界を!」


 白銀の髪を持つ神官たちが、一斉に動き始めた。防護魔法の詠唱が重なり合い、参列者たちを守る光の壁が展開されていく。


 だが、暴走する魔力の勢いは衰える気配がない。



 キオは、苦悶に顔を歪めながらも、必死に状況を把握しようとしていた。


『シュバルツ......僕に、何かできることはないの......?』


 キオは心の中で問いかけた。


『......ある』


 シュバルツの声が、静かに、しかし確信を込めて響いた。


『キオ。お前がヴィクトールとの訓練で身につけた技術を思い出せ』


『訓練で......?』


『お前は、あの時、何を学んだ? 力が大きすぎるなら——』


 その言葉に、キオの脳裏に鮮烈な記憶が蘇った。


 ——力が大きすぎるなら、小さく分ければいい。

 ——一度に全てを制御しようとするから溢れるのだ。ならば、小さな単位に分けて、一つずつ積み重ねればいい。


 何層にも重なる玉ねぎの皮。極薄のガラスを千枚重ねた防壁。


 あの時、自分の魔力を制御するために編み出した技術——


『でも、シュバルツ......! あれは自分の魔力を絞り込むための技術だよ......! さっきだって、この溢れ出る魔力をどうにかしようとしたけど、どうにも——』


『発想を変えろ、キオ』


 シュバルツの声が、力強く導く。



『絞り込むのではない。広げるんだ。お前の夜空は、何でも包み込める——そうだろう?』


 キオの目が、大きく見開かれた。



『三人分の暴走する魔力を......僕の夜空で......包み込む......?』


『そうだ。薄い膜を何重にも重ねて、暴走する力を包み込め。お前の夜空は、星も月も太陽も——全てを抱く器だ』


 シュバルツの声に、かつてない熱が込められていた。



『俺が、力の流れを導く。力がどう流れ、どう調和するか——俺には分かる。お前は、ただ夜空を広げろ。俺がその形を整えてやる』


 キオは、その言葉の重みを理解した。


 シュバルツは——黒竜の眷属。


 この世界の根源に最も近い存在として、力の流れを誰よりも理解している。



『わかった......! 私がやる......!』


 キオは、苦しむオーウェンとセレネを見た。


 オーウェンは歯を食いしばり、必死に魔力を抑え込もうとしている。だが、その額には玉の汗が浮かび、顔色は蒼白だ。


 セレネはもう、立っているのがやっとという状態だった。テレシアが必死に支えているが、彼女の瞳からは光が失われつつある。


「キオ様......!」


 セレネの悲痛な声が聞こえた。


 彼女は、蒼白な顔でありながらも、必死にキオを見つめていた。


「キオ......!」


 オーウェンの声も届く。


「僕たちのことは......自分で......何とか......!」


 二人の声に、キオの心が揺れた。




 だが——


『キオ。決断しろ。時間がない』


 シュバルツの声が、静かに、しかし切迫した響きで告げる。


『俺を信じろ。そして——お前自身を信じろ』


 キオは、深く息を吸い込んだ。


 視界の端で、参列者たちが避難していくのが見える。


 ジルヴァの神官たちが、必死に防護結界を維持している。


 マジェスタ家当主が、声を枯らしながら指示を出している。


 ルドルフが、セレネの名を呼び続けている。


 そして——オーウェンとセレネが、苦しみながらも、必死に自分を保とうとしている。




『私が、やらなきゃ』


 キオは、静かに目を閉じた。


『シュバルツ......一緒に』


『ああ。いくぞ、キオ』


 暴走する魔力の渦の中で——キオは、意識を深く、深く沈めていった。



 へそ下の魔力の源。そこから立ち上る、漆黒の力。


 それを——絞り込むのではなく、広げていく。



 薄く。広く。果てしなく。


 夜空のように——全てを包み込む、優しい闇の帳として。


『力の流れを感じろ。オーウェンの光、セレネの銀——全てがお前の夜空の中にある』


 シュバルツの声が、キオの意識を導いていく。


『いい。その調子だ。もっと広げろ——そして、俺の言う通りに流れを整えろ』



 キオの内側で、何かが大きく動き始めた。


 やるべきことは、分かっている。


 あとは——それを、成し遂げるだけだ。



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