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夜空色の青春  作者: 上永しめじ
第三章 「紅・銀の波乱と創生の祭典」
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第44話「荘厳なる儀式と突然の異変」



 大聖堂の正面扉が、荘厳な音を立てて開かれた。


 重厚な鉄と聖なる木が組み合わさった扉が左右に退くと、眩いばかりの光が溢れ出す。ステンドグラスを通した虹色の輝きと、無数の蝋燭の炎が織りなす黄金の光。それらが一つになって、入場する者たちを祝福するかのように降り注いでいた。


 最初に姿を現したのは、シュバルツ一族の代表——キオ・シュバルツ・ネビウスだった。


 漆黒の正装を纏い、夜空色の髪をなびかせながら歩を進める。傍らには竜人の精霊スバルが控え、その存在感は圧倒的だった。漆黒の翼と尾、深い紫の瞳——神話の一場面が現実に降り立ったかのような光景に、参列者たちから感嘆のどよめきが漏れる。


「おお......」

「あれが黒竜の眷属......」

「なんと神々しい......」


 キオは緊張で心臓が早鐘を打つのを感じていた。両脇に並ぶ来賓たちの視線が、まるで針のように全身に突き刺さる。


『シュバルツ......』


 心の中で呼びかけると、すぐに温かな声が返ってきた。


『大丈夫だ。俺がいる。堂々と歩け、キオ』


 その言葉に背中を押されるように、キオは顔を上げた。




 続いてオーウェン・ゴルト・リンドールが入場する。黄金の衣装が陽光を受けて眩く輝き、その堂々たる姿はまさに王族の風格だ。傍らではグリフォンのソラリスが金色の羽毛を輝かせ、主人に寄り添っている。


「王子殿下......」

「金竜の血統はやはり違う......」


 参列者たちの賞賛の声が重なり合う。


 そして最後に、セレネ・ジルヴァ・マジェスタが姿を現した。


 純白の絹地に銀糸の刺繍、月長石の胸飾り。白銀の髪が光を受けて煌めき、その姿はまさに天上から降り立った聖女のようだった。傍らには大地の精霊テレシアが穏やかな微笑みで控えている。


「マジェスタ家の令嬢......」

「なんと美しい......」

「まるで神話の聖女のよう......」


 三人が並んで歩く姿は、まさに百年に一度の稀有な光景だった。


 黒、金、白銀——三大竜の色を纏った若き継承者たち。そしてそれぞれの精霊たち。彼らの歩みに合わせて、大聖堂の空気そのものが敬意を示すかのように震えている。


 王族席では、国王と王妃が我が子の晴れ姿を誇らしげに見つめていた。


「誇らしいな」


 国王が小さく呟く。


「ええ......オーウェンも、そしてあの子たちも素敵だわ」


 王妃が目元を押さえながら微笑む。




 三人は大聖堂の中央、三体の神竜の像が鎮座する祭壇の前に到達した。


 黒竜、金竜、白銀竜——三体の像は、それぞれ異なる姿勢で天を仰いでいた。黒竜は翼を大きく広げ、金竜は光を放つかのように首を伸ばし、白銀竜は慈愛に満ちた眼差しで下界を見守っている。その造形は精緻を極め、今にも動き出しそうなほどの迫力があった。


 像の前には、純白の絹を纏った男性が待ち構えていた。白銀の髪を厳格に撫でつけ、鋭い眼光を放つ——セレネの父、マジェスタ家当主だ。今日の儀式の総指揮を務める彼は、三人の到着を見届けると、威厳に満ちた声で口を開いた。



「シュバルツ一族代表、キオ・シュバルツ・ネビウス殿。ゴルト一族代表、オーウェン・ゴルト・リンドール殿下。ジルヴァ一族代表、セレネ・ジルヴァ・マジェスタ」


 三人の名が荘厳に読み上げられる。


「ここに、三大竜に連なる若き継承者が揃いました。本日の創世祭、どうか三大竜の御心に沿う、清らかなる儀式となりますよう」


 マジェスタ家当主は両手を広げ、参列者全体に向かって宣言した。




「それでは、魔力調和の儀式を執り行います」


 その言葉を合図に、祭壇の周囲でジルヴァ一族の神官たちが動き始めた。白銀の髪を持つ聖職者たちが、長年の訓練で培った動きで、儀式の準備を進めていく。


 ルドルフもその中にいた。彼は恭しく頭を垂れながら、祭壇の脇に控えている。その傍らでは、八枚の翼を持つ天使の精霊ルシエルが、厳かに佇んでいた。


 ヴィクトールもまた、分家の代表として補助の役割を担っていた。彼は無表情のまま、定められた位置についている。その足元では、銀色の狼の精霊が主人と同じく隙のない佇まいで控えていた。



 祭壇の床には、巨大な魔法陣が刻まれていた。


 複雑な紋様が幾重にも重なり合い、三大竜の紋章を中心に、無数の古代文字が螺旋を描いている。



 キオは魔法陣の中央に立ちながら、その紋様を見つめた。


『この魔法陣、すごく精巧だな......』


 前世の魔法研究者としての知識が、その複雑さを理解させる。


 以前、ルドルフが説明してくれたことを思い出す。この魔法陣は、ジルヴァ一族が数百年かけて完成させた術式で、魔力の調整を補助し、暴走を防ぐ機能があるのだと。地下の制御室と連動し、儀式参加者の魔力を安定させ、調和させるための装置——それがこの魔法陣だった。




 キオは所定の位置についた。


 三人は三角形を描くように、魔法陣の頂点に立つ。


 キオは黒竜の位置——北の頂点に。オーウェンは金竜の位置——東の頂点に。セレネは白銀竜の位置——西の頂点に。


 それぞれの足元で、魔法陣の紋様が淡く輝き始める。



「それでは」


 マジェスタ家当主が厳かに告げた。


「まず、個別に魔力を解放していただきます。焦る必要はありません。ゆっくりと、自身の内なる力を感じ、それを外へと導いてください」


 三人は深呼吸をした。



 最初に動いたのはオーウェンだった。


 彼は静かに目を閉じ、意識を自身の内側へと向けた。胸の奥で眠る光——ゴルト一族に受け継がれてきた、太陽のような魔力。それを、ゆっくりと呼び覚ます。


 フワッ......


 黄金色の光が、オーウェンの周囲にふわりと広がった。温かく、優しく、それでいて力強い光。参列者たちから、感嘆の溜息が漏れる。


「さすがは王子殿下......」

「なんと美しい光だ......」



 続いてセレネが魔力を解放した。


 白銀の光が、彼女の周囲を包み込む。それは月光のように澄んでいて、大地の恵みのような温もりを帯びていた。テレシアもまた、主人の魔力に呼応するように、穏やかな緑の光を放つ。


「ジルヴァ一族の聖なる光......」

「まさに聖女の証......」



 そして——キオの番だった。


 キオは深く息を吸い込み、へそ下にある魔力の源を意識した。


 以前の訓練で掴んだ感覚——薄い膜を何重にも重ねるイメージ。一気に放出するのではなく、小さな単位に分けて、一つずつ積み上げていく。




『いくよ、シュバルツ』


『ああ。お前なら出来る』


 ドォォォ......


 漆黒の魔力が、キオの足元から静かに立ち上った。



 それは夜空を凝縮したような深い闇色でありながら、どこか温かみを帯びていた。星々のような紫の光点が散りばめられ、見る者を宇宙の深淵へと誘うかのような神秘的な輝きだ。



 参列者たちが息を呑む。


「なんという......」

「これが黒竜の魔力......」

「底知れない深さだ......」




 三人の魔力が、それぞれの位置で安定して展開された。


 黒、金、白銀——三色の光が、魔法陣の上で美しく調和している。


 マジェスタ家当主が満足げに頷いた。


「素晴らしい。三名とも、見事な魔力制御です。それでは次の段階に移ります」


 彼は厳かに手を掲げ、宣言した。


「これより、魔力調和の儀を執り行います。三名は、互いの魔力を感じ取り、調和させてください。世界創造の再現——三大竜が力を合わせ、この世界を形作った、あの瞬間を」



 三人は頷き合った。


 キオはオーウェンとセレネの魔力を感じ取ろうと、意識を広げた。


 オーウェンの黄金の光——温かく、包容力があり、まるで太陽のような安心感。

 セレネの白銀の光——澄んでいて、穏やかで、大地のような安定感。


 そして自分の漆黒の魔力——深く、広大で、すべてを包み込む夜空のような存在感。


『三つの力を、一つに......』


 キオは意識を集中させた。



 自分の魔力を、少しずつオーウェンとセレネの方へと伸ばしていく。同時に、二人の魔力も、こちらへと流れ込んでくる。



 三色の光が、中央で触れ合い、混ざり合い——



 その瞬間だった。


 ビキィッ......!


 魔法陣全体が、不気味な音を立てた。



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