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夜空色の青春  作者: 上永しめじ
第三章 「紅・銀の波乱と創生の祭典」
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第40話「特別な指導(2)」



 翌日。


 創世祭の代表練習が終わった後、キオは別室に呼び出された。


 そこは、練習場の隅にある小さな訓練室だった。壁には魔力吸収の魔法陣が施されており、万が一の暴走にも対応できるようになっている。



 室内には、キオとシュバルツ、そしてヴィクトールだけ。



 他の生徒の姿はなく、静まり返った空気が張り詰めていた。



「では、始めましょうか」


 ヴィクトールが腕を組んだまま、キオを見下ろした。


 その表情は、昨日までの礼儀正しさとは打って変わって、冷たく、どこか獰猛な気配を帯びている。



「まずは基本からです。私が合図をしたら、魔力を放出してください。そして、私が止めろと言ったら、即座に止める。......簡単でしょう?」



「はい、わかりました」


 キオは頷き、意識を集中させた。



「では......始め」


 キオは魔力を解放した。


 黒い靄が足元から立ち昇り、室内を満たしていく。



「止め」


 ヴィクトールの声に、キオは慌てて魔力を引っ込めようとした。


 だが、勢いがついた魔力は簡単には止まらない。減速はするものの、完全に停止するまでに数秒の遅延が生じた。


「遅い」


 冷たい声が飛んでくる。



「話になりませんね。これでは、オーウェン殿下やセレネ様と息を合わせるなど夢のまた夢だ」



 キオは唇を噛んだ。


 自分でもわかっている。止めようと思っても、魔力が言うことを聞かないのだ。



「もう一度。......始め」


 キオは再び魔力を放出した。


「止め」


 ......やはり、遅れる。


「遅い。もう一度」



「始め」「止め」「遅い」「始め」「止め」「まだ遅い」


 ヴィクトールの指示は容赦なく、休みなく続いた。



 何度繰り返しても、キオの反応は改善しない。むしろ、繰り返すうちに疲労が蓄積し、制御はどんどん粗くなっていった。


 十回、二十回、三十回......。



「話になりません」


 ヴィクトールが深い溜息をついた。


 その目には、明らかな侮蔑の色が浮かんでいる。


「やはり、量だけの力は使いものにならない。......いいでしょう。少し、実戦的な訓練に切り替えましょうか」


 彼は一歩、キオに近づいた。



 その足元で、銀色の狼の精霊がグルルと低く唸る。


「今度は、私が攻撃魔法を放ちます。あなたは、それを防いでください」


「......攻撃魔法?」


「ええ。実戦での魔力の操作は意外と繊細かつ難しいものです。実戦を想定した訓練をすれば、あなたでもコツが掴めるかもしれませんよ。安心してください。もちろん、手加減はしますよ」



 その言葉とは裏腹に、ヴィクトールの瞳には冷たい光が宿っていた。




「では、行きますよ」


 ヴィクトールの手に、銀色の光が収束する。


 ジルヴァ一族が得意とする光魔法——本来は癒しをもたらすそれを、極限まで圧縮して攻撃に転用した、鋭い銀の(つぶて)だ。



 ヒュンッ!


 銀の礫が放たれた。


 キオは咄嗟に魔力の盾を展開しようとした。だが、先ほどまでの反復訓練で疲弊した体は、思うように動かない。



 ガンッ!


 盾が間に合わず、礫がキオの肩を掠めた。


 制服の袖が裂け、薄く血が滲む。


「っ......!」


「おや。避けられませんでしたか。......もう一度」



 ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!


 矢継ぎ早に放たれる攻撃。



 キオは必死に身を捩り、魔力の盾を展開しようとするが、疲労した体では反応が追いつかない。


 腕を、脚を、頬を——次々と鋭い光が掠めていく。



「......っつ!」


 キオが痛みに呻いた。



 瞬間、シュバルツが動いた。

 漆黒の翼が広がり、キオを覆い隠すように前に出る。


「......いい加減にしろ。どういうつもりだ」


 シュバルツの声が、地を這うような低音で響いた。


 その紫の瞳には、押し殺した怒りが燃えている。



「おや、竜人殿。これは訓練ですよ?」


 ヴィクトールは平然と肩をすくめた。


「始める前にも言いましたが、実戦を想定した、大事な訓練です。キオ様がいつまでも甘やかされていては、儀式で恥をかくのは本人でしょう? 私はそれを防ごうとしているだけです」


 シュバルツの尾が、苛立たしげに床を叩いた。

 今にも飛びかかりそうな殺気が膨れ上がる。


「スバル、いい」


 キオが、息を切らしながら言った。


「キオ」


「大丈夫。......続けてください、ヴィクトールさん」



 キオは膝に手をついて立ち上がりながら、ヴィクトールを見据えた。


『キオ、やめておけ。こいつは明らかにお前を傷つけることを楽しんでいる』


『そうかもしれない。......でも、この人の言うことも一理あるんだ』


 シュバルツが息を呑む気配がした。


『今の僕じゃ、魔力の制御が全然できない。それは事実だよ。......だったら、どんな形であれ、練習するしかないじゃないか』



 キオは汗を拭い、再び構えを取った。


 ヴィクトールは一瞬、何かを言いかけたが——すぐに冷笑を浮かべて、腕を上げた。


「......結構。では、続けましょう」



 

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