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夜空色の青春  作者: 上永しめじ
第三章 「紅・銀の波乱と創生の祭典」
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第40話「特別な指導」





 数日が経った放課後。


 創世祭の練習は、少しずつの成果を受けて、より本格的な段階へと進んでいた。


 広間には今日も夕暮れの光が差し込み、磨き上げられた床を茜色に染めている。壇上に描かれた巨大な魔法陣は、さらに複雑な紋様が追加されていた。



 オーウェン、セレネ、そしてキオ。


 三人は定位置につき、ルドルフの指示を待っていた。




「今日は、より実践的な動きを確認しましょう。まずは個別の魔力制御から」


 ルドルフが手元の資料をめくりながら、穏やかに告げる。


「セレネ様、オーウェン殿下、そしてキオ様。順番にお願いします」


 まずセレネが一歩前に出た。


 長く美しい白銀の髪が揺れ、その足元から純白に近い光が静かに立ち昇る。清浄で、優しく、どこまでも澄んだ魔力だった。大地の精霊テレシアが穏やかに微笑み、その光に寄り添うように輝きを放つ。



「素晴らしい。完璧な調和です、セレネ様」


 ルドルフが恭しく頷く。


 続いてオーウェンが前に出た。


 金色の魔力が太陽のように力強く、しかし無駄のない精緻さで展開される。圧倒的な質量を感じさせながらも、一点の揺らぎもない見事な制御だった。



「オーウェン殿下も、申し分ありません」


 そして、キオの番だ。


 キオは深呼吸をして、意識を内側へ向けた。

 練習で掴んだ感覚。夜空のように広がる、果てしない器——。



 ドォ......ッ。


 黒い魔力が静かに湧き上がる。

 今までの暴発とは違い、今度は薄く、広く、広間を包み込むように展開された。



 ......だが。


「ふむ」


 ルドルフが満足げに頷く一方で、背後から冷ややかな声が落ちてきた。


「......悪くはありませんが」


 ヴィクトールだ。



 彼は腕を組み、値踏みするような視線でキオの魔力を見つめていた。


「広げる分には問題ないようですね。ですが、実際の儀式ではそうはいきません。魔力を『収縮』させる局面もある。そちらの制御は、いかがですか?」


「え......収縮?」


 キオが戸惑って振り返る。


「ええ。儀式の中盤、三色の魔力を一点に集約させる場面があります。その時に求められるのは、ただ放出するだけではなく、『絞り込む』技術です」



 ヴィクトールは優雅に歩み寄りながら、続けた。


「量だけが取り柄の魔力では、他の二人を潰してしまいかねません。......ですよね、ルドルフ様?」


 ルドルフは少し考えてから頷いた。


「確かに、その通りです。キオ様、試しに魔力を一点に集中させてみていただけますか?」



 キオは頷き、意識を手のひらに集めた。


 広がっていた黒い魔力を、掌の上へと収束させる——。



 だが、簡単ではなかった。


 キオの魔力は、まるで水を両手で掬おうとするかのように、指の間から溢れ出してしまう。


 集めようとすればするほど、制御が乱れ、周囲に飛び散っていく。



「あ......っ」


 焦りが生まれる。


 その焦りがさらに制御を難しくする。悪循環だった。


「やはり」


 ヴィクトールが冷ややかに言った。


「大きな器に、大量の水を注ぐことはできても、それを小さな杯に移し替えるのは難しい。......野放図に溢れさせるだけでは、使い物になりませんね」


 その言葉には、明らかな棘があった。


 だが、キオは今、自分の力不足を痛感していて、反論する余裕がなかった。



「ヴィクトール、口の利き方には気をつけなさい」


 ルドルフは冷ややかな視線をヴィクトールに向けた。


「......失礼しました」


 ヴィクトールは恭しくルドルフに頭を下げる。


「いえ、ヴィクトールさんの言っていることは正しいので......すみません」



 キオは、はははと笑いながら頭を搔く仕草をした。



 ヴィクトールの拳が、誰にも見えない位置で強く握りしめられる。



『キオ』


 シュバルツの声が心に響く。


『焦るな。お前の魔力量では、急に絞り込むのは難しい。少しずつ練習するしかない』


『......うん、わかってる。でも、このままじゃ儀式に......』



「キオ様」


 不意に、ルドルフが進み出た。


「私から提案があります。ヴィクトールに、キオ様の魔力制御の特別指導をお願いするのはいかがでしょうか」


 その言葉に、ヴィクトールの目が一瞬、暗い輝きを帯びた。


 すぐに礼儀正しい表情に戻った為、誰もその様子に気づくことはなかった。



「私がですか」


「ええ。クロイツ家は代々、魔力の精密制御に優れていらっしゃる。それに、ヴィクトールは練習補助担当でもあります。キオ様に指導するのに、これほど適任の方はいないでしょう」



 ルドルフの言葉は、純粋な善意から出ているようだった。


 だが、ヴィクトールの口元がわずかに歪んだのを、シュバルツだけは見逃さなかった。


『この男......』




「......光栄です。謹んでお受けいたしましょう」


 ヴィクトールは深々と一礼した。


 その瞳の奥で、暗い炎が揺らめいていることを——キオはまだ、知らなかった。



 

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