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夜空色の青春  作者: 上永しめじ
第3章 「紅・銀の波乱と創生の祭典」
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第35話「雪羽うさぎと白銀世界の決闘」




 朝の光が差し込む食堂には、焼きたてのパンとコーヒーの香りが漂っていた。


 長いテーブルには、セク、リーリエ、ノックス、キオ、シュバルツ、ルイ、ベアトリス、そして双子のルーアとネロ。いつものメンバーに加え、ガロンも席についている。


 穏やかな談笑が続いているが、ガロンだけが押し黙ってパンを口に運んでいた。昨晩の議論を引きずっているのは明らかだ。時折、キオの方を見ては、どこか歯痒そうに視線を逸らす。


 そのピリついた感情を敏感に感じ取っているのか、彼の肩に乗ったサラマンダーも落ち着きなく舌をチロチロと出し入れしていた。


「ねえ、ノックスさん」


 その少し硬い空気を払うように、リーリエが明るい声を上げた。


「さっき使用人から聞いたのですけれど、近くの池に『雪羽うさぎ』が現れたそうですのよ」


「えっ、雪羽うさぎ!?」


 ルーアが目を輝かせ、ガタッと身を乗り出す。


「それって、白くて耳がふわっふわの精霊獣のこと!?」


「ええ。とっても愛らしいの。この時期にしか見られない貴重な生き物ですわ」


 それを聞いたノックスが、口元を緩めた。


「へえ、それはいいな。みんなで見に行かないか? ちょうどいい気分転換になるだろう」


「行く! 絶対行きたい!」


 ルーアが嬉しそうにパタパタと足を揺らしていた。隣のネロはすました顔をしているが、耳が少しピクリと動いたのをキオは見逃さなかった。


「キオ、お前たちも行くだろう?」


「うん、もちろん」


 キオが頷くと、ルイとベアトリスも顔を見合わせて嬉しそうに微笑んだ。


「私、雪羽うさぎを見たことがないんです。本物が見られるなんて、嬉しいです」


「私もですわ。とても楽しみ」




 セクがコーヒーカップを置き、穏やかに告げた。


「私とリーリエは仕事が残っているから留守番だ。ノックス、子供たちを頼んだぞ」


「任せてくれ、兄さん。よし、じゃあ食べ終わったらすぐ出発しよう」


 ガロンは少し迷うような素振りを見せたが、拒否することもなく、最後の一切れを口へ運んだ。





―――

           


 池へと続く森の道は、一面の雪化粧だった。


 どうやら雪羽うさぎたちの影響で、この辺り一帯に雪が降ったようだ。


 木々の枝はずっしりと雪を被り、足を踏み出すたびにキュッキュッと小気味よい音が響く。頬を刺す冬の冷気が、かえって清々しい。


「わぁ......っ!」


 視界が開け、池のほとりに出た瞬間、ルーアが歓声を上げた。


 そこだけ、きらきらとダイヤモンドダストのように雪が舞い続けている。まるで小さな吹雪の結界に守られた、幻想的な光景だった。


 凍った池の周りを、白い綿毛のような生き物たちが跳ね回っている。


 雪羽うさぎだ。


 雪と同化しそうなほど真っ白な毛並み。最大の特徴である長い耳は、鳥の羽のようにふわふわと広がり、動くたびに優雅に揺れる。


「かわいい......!」


 ルイが思わず吐息を漏らす。



 雪羽うさぎたちは人を怖がる様子もなく、のんびりと雪上を跳ねていた。その中の一匹がひょこひょこと近づいてきて、ルーアの足元で首を傾げる。


「触っていい......?」


 ルーアがおそるおそる手を伸ばすと、うさぎは逃げるどころか、小さな鼻をクンクンと寄せてきた。


「大丈夫だ。雪羽うさぎは人懐っこいからな」


 ノックスが見守る中、ルーアがそっと背中を撫でる。うさぎは気持ちよさそうに目を細めた。



「よしよし......あったかい」


「ネロも触ってみたら?」


「......別に。興味ないし」


 そう強がりつつも、ネロの視線は遠くで跳ねる子うさぎに釘付けだ。




「さて、せっかくだ。少し遊んでいくか」


 ノックスが手袋をはめ直し、穏やかに言った。


「雪だるまでも作ろう」


「やるー!」


 ルーアの元気な返事を合図に、静かな雪原がにわかに騒がしくなった。



 ルイはベアトリスに雪の丸め方を教えていた。


「こうやって、雪の上を転がしていくと大きくなるんだよ」


 膝をついて雪を丸めながら、ルイが実演してみせる。


「まあ......あら、本当。どんどん大きくなりますわね」


 ベアトリスは目を丸くして、転がるたびに膨らんでいく雪玉を見つめた。


「私、こうして遊ぶのは初めてですの。ゲルプ一族の本邸は温暖な地域にありましたから、雪自体が珍しくて......」


「そうだったんだ。じゃあ、今日は思いっきり楽しまなきゃね」


 ルイが優しく微笑む。その笑顔に、ベアトリスの頬がふわりと緩んだ。


「ルイさんは、小さい頃からこうして遊んでいたの?」


「うん。毎年冬になると、お父さんと一緒に庭で雪だるまを作ったりしてたよ。お父さんが張り切って、私より大きな雪だるまを作ろうとして、途中で崩れちゃったこともあったなぁ」


 懐かしそうに目を細めるルイ。その声には、温かな家族の思い出が滲んでいる。


「まあ、素敵。温かいご家庭ですのね」


「うん。......だから私も、いつかそういう家庭を作れたらいいなって」


 ルイがぽつりと呟く。その言葉に、ベアトリスは少し驚いたように瞬きをした。


「ルイさん......」


「あっ、ごめんね、変なこと言って。さ、続きを作ろう!」


 照れ隠しのように話題を変えたルイが、新しい雪玉を作り始める。ベアトリスは小さく微笑んで、その隣に並んだ。


「いいえ、変なことなんかじゃありませんわ。......私も、そう思いますもの」



 二人は顔を見合わせ、くすりと笑い合った。



 不格好ながらも愛らしい雪だるまが、少しずつ形になっていく。ベアトリスは初めての雪遊びに夢中になり、手袋が濡れるのも構わず雪を丸め続けた。


「ベアトリスさん、上手になってきたね」


「本当ですか? ふふ、嬉しいですわ」


 冬の陽射しが二人を柔らかく照らし、吐く息が白く空へ溶けていった。




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