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【第一章完結】この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~  作者: たちばな立花


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34.犯人探し

 イズールの横顔は真剣だ。

 自分が標的になったのだからしかたない。

 イズールを誘拐した犯人は捕まったが、黒幕の正体は見つかっていない。

 またいつ誘拐されるかわからない状態なのだ。


(私もさっさと解決したい)


 いつ家族が傷つけられるかわからない状況は、気持ちが悪いからだ。

 私が四人いれば、一人ずつに張りついて守ることもできる。しかし、私は一人だし、行動の自由が少ない三歳の子ども。

 できることが少なすぎる。


「レティシア姫? 大丈夫?」


 イズールが心配そうに私の顔を覗いた。

 どうやら深く考え事をしていたようだ。

 私は少し遅れて返事をする。


「ん」

「もし、つらいならこの鏡をしまって」

「へーき」


 マナは大きく減っていない。

 イズールの屋敷と王宮は近い。近い場所を盗み見るのにそこまで負荷はかからないのだ。


「レティシア姫は平気って言いながら無茶をするからなぁ」


 イズールが呆れたような声色で言った。

 それはお互い様だと思う。

 イズールも相当頑固な性格をしている。

 私は反論することなく、黙って鏡を見つめた。

 鏡の中ではアランと補佐官が、報告書を睨みながら会話を続けていた。


『すぐの特定は難しそうだな』

『ですが、警戒はできます』

『居住区内の警備の強化を』

『はい。念のため警備には祭りの時とは無関係の部署の騎士をあてましょう』

『それがいい』


 補佐官の提案にアランが頷く。

 補佐官は『では失礼します』と言って、部屋を出て行った。

 アランがゆっくりと息を吐く。

 どこか重たい雰囲気に、私は鏡をしまえなかった。

 彼は何度も報告書をめくり、内容を確認する。

 表情はいつもと変わらない。けれど、まとう空気が苦しそうで、私はなぜか不安になった。


「レティシア姫、もうこれ以上情報は得られなそうだし、しまおう」

「ん」


 イズールに言われて、私は魔法の鏡をしまう。


「おとーたま」

「うん」

「へん」

「変? いつもと変わらないように見えたけど」


 イズールの言うとおり、表情は変わらなかった。けれど、まとう空気が違ったのだ。

 しかし、これをどう説明していいのかわからなかった。


「でも、陛下の気持ちがちょっとわかるかも」


 イズールがポツリと呟いた。

 私は首を傾げる。


「犯人が見つからない限り、全員を疑わないといけないから」

「ん」

「自国の人間が裏切ったかもしれないとしたら、つらいよね」

「ん」


 私はなんとなく相づちを打った。

 私にはよくわからなかったからだ。

 裏切り。

 それはよくあること。

 人は裏切る。

 しかたないことだ。みんな、自分が一番だから。だからこそ、誰も信じてはいけない。

 だって、信じられるのは自分自身だけだから。


(でも……)


 今の私はどうだろうか。

 信じられるのは自分だけだろうか。

 裏切られても平気だろうか。

 胸がちくりと痛んだ。

 私は胸を押さえる。


「大丈夫?」

「いたい」

「もしかして、魔法使いすぎたとか!? そんな症状、書いてなかったけど……」


 私はオロオロとするイズールの袖を握った。


「へーき」

「本当に?」

「ん」

「おとーたま、かなちい」

「うん」


 昔の私は裏切りなんて悲しくなかった。

 そもそも、誰かを信頼したことがなかったからかもしれない。

 けれど、今は裏切られたら悲しいかもしれない。

 私はぎゅっと小さな拳を握った。


「あたち、みちゅける」

「……え?」

「かなちい、だめ」

「えっ!?」


 イズールが素っ頓狂な声を上げた。


「もしかして、犯人探しをしようと思ってたりなんか……しないよね?」

「しゅる」


 このまま放っておくことなんてできない。

 やきもきしているくらいなら、捕まえてしまおう。

 そのほうが、スッキリする。


「陛下は大人に任せろって言ってたよ」

「へーき。あたち、おとな」

「うーん……。多分、レティシア姫は陛下の言う大人ではないと思うな」


 イズールは困ったような顔で私を見た。

 彼の言うことはわかるけれど、それを素直に受けれることは難しい。

 子どもだからと解決を待っていたら、また危険な目にあってしまうかもしれない。

 知らないあいだに誰かが傷つくのはいやだ。

 だったら罰を受けてもいいから、行動したい。


「どうしても?」

「ん」

「怒られるかもしれないよ?」

「へーき」


 罰を受けるのは慣れている。


(痛いのはいやだけど、みんなが痛いよりはいい)


 私はルノーの肩を思い出す。

 まだ彼の肩は治っていない。みんなの前では平気な顔をしているけれど、時々痛みに顔を歪めるときがある。

 いつか痛みはなくなると医師は言う。しかし、だからといって剣を持てるようになるかはわからない。


「そこまで言うなら、しかたないね。まずは何をする?」


 イズールが立ち上がった。

 私は彼を見上げて目を瞬かせる。まるで一緒に犯人探しをしようとしてるみたいではないか。

 イズールはポンポンと私の頭を撫でた。


「知らないふりはできないよ」

「きけん」

「それはレティシア姫も一緒だよ。まずは情報を整理しよう。怪しいのは使用人と騎士。陛下たちも特定が難しい」


 私の返事など待たずにイズールは情報をまとめ始めた。


(下手をしたら一緒に罰を受けるのに)


 ただ時々魔法を使う場所を提供してくれればいいと思っていた。

 あまり一緒に動いて危険な目に


「陛下は聡明な方だから、使用人たちの王宮の出入りは調べると思うんだ。だから、私たちはそういう面倒ごとはしなくてもいいと思う」

「ん」

「レティシア姫なら、そういうのは魔法でこっそり覗けるだろう?」

「ん」


 イズールは腕を組んで思案する。


「そうだ! こういうのはどうだろう?」


 イズールは私の耳元で囁いた。


「まずは身近なところから攻めよう」


 誰もいない部屋なのに。まるで、秘密の計画を話すように。


「みぢか?」

「レティシア姫の近くにいる騎士といえば?」

「オーバン?」

「そう、正解。オーバンは国一番の騎士だから、きっと騎士たちのことも詳しいと思うんだ。そこから偵察しよう」


 そんなことで犯人が見つけられるのだろうか。

 しかし、三歳児である私が自由に動ける場所は少ない。

 騎士たちに会いに行くには王族の居住区から出なければならないため、アランの許可が必要だ。

 魔法で一人一人探るにも、大変だ。

 マナがいくらでもあったら、その方法も使えるけれど、私のマナは無限ではない。

 距離が離れれば離れるほどマナの消費は激しくなる。


(しかたない)


 私は渋々頷いた。


 **


 なぜ、こんなことになったのか。

 私にもよくわからない。

 私は食堂の机の下で、オーバンと二人並んで座っていた。

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