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【第一章完結】この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~  作者: たちばな立花


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31.レティの実力

 トリスティンの声が空高くまで響いた。

 私は意味もわからず、身体を硬直させた。

 何に怒っているのだろうか。


「私にだけ……。私にだけブルーベリーをくださらないなんてっ!」


 再びトリスティンの声が空高く響く。

 私は目を瞬かせた。


(ブルーベリー?)


「聞きましたよ。殿下がブルーベリーを配り歩いていたと」

「ん。……ん?」

「こんなに胸が痛くなったのは初めてです。師となる私には何もないなんて……」


 トリスティンは地に崩れ落ち、「よよよ」と声を上げて泣いた。

 いや、泣きまねだろうけれど。

 私は冷たい目で彼を見下ろした。


(そんな仲じゃないと思うけど)


 しかし、仲良くなっておくに越したことはない。

 トリスティンの目的を確かめなければならないのだ。


「こんど」

「本当ですね? 本当ですよ?」

「ん」


 トリスティンは満足したのか、笑みを浮かべると立ち上がった。

 機嫌が治ったのか、涙は引っ込んでいる。切り替えの早い男だ。


「では、今日の授業を始めましょう」

「ん」

「今日は殿下の実力を確認しようと思います」

「ん」


 少しだけ、わくわくしている。

 前世、私は魔法を誰かから習ったことはない。毒を飲んだことによって現れた力だった。

 そして、すべて見よう見まね、本に書かれた知識だけで使ってきた。

 そういう意味ではイズールと同じなのかもしれない。


「では、殿下。あの的が見えますか?」

「ん」


 練習場の真ん中にポツンと立っている木の棒にくくりつけられた藁の人形のことだろう。

 距離が離れていて小さく見える。


「あの的に攻撃を当ててみてください。どんな魔法でも構いません」


(攻撃……)


 私はジッと小さな的を見た。

 攻撃魔法は得意だ。けれど、今世ではまだ使ったことはない。

 トリスティンはしゃがみ、私の肩に優しく手を置いた。


「大丈夫ですよ。あの的はただの人形。痛くありません」


 まるで諭すように言われ、私は頬を膨らませる。


(それくらい、見ればわかるわよ)


 私は藁の人形に向かって腕を伸ばした。

 攻撃魔法に必要なのは、照準を合わせる才と威力を調節する才。

 攻撃魔法は広範囲であるほど力が分散してしまい、多くのマナを消費する。

 だから、最小限のマナで目的の物を攻撃するには最小限の範囲に全集中すればいい。


(何がいいんだろう? 対象は一つだから……)


 私は呪文を口にした。

 前世で私が一番に覚えた魔法―─いかづち

 刹那、空から強い光が藁の人形の上に落ちた。


 ズガンッ。


 大きな音のあと、地面が大きく揺れた。

 まだ筋力の足りない私は揺れに耐えられず、ペタンと地面に転んで尻もちをつく。

 藁の人形は木の棒とともに姿を消し、地面にぽっかりと大きな穴が空いて、煙が立ち上っていた。


(やりすぎた……かも?)


 私は首を傾げる。そして、両手をしげしげと見つめた。

 前世で使うよりも威力が増している気がする。


「な、なんということでしょうか……」


 私のすぐうしろに立っていたトリスティンはヨロヨロと地に崩れ落ちた。

 何が「なんということ」なのだろうか。

 私は振り返り、彼の言葉を待った。


(もしかして、何かまずいことでもしたかな?)


 トリスティンは立ち上がると、私を軽々と抱き上げる。

 そして、近くの椅子に座らせた。

 彼は私の目の前でしゃがむ。彼は優しく私の頭を撫でた。

 口角は上がっているけれど、これは笑顔ではないと直感でわかる。

 緊張感が走った。


「この魔法をどこで覚えたのですか?」


 私はトリスティンの質問になんと答えていいかわからなかった。


(どこって、ガルバトール帝国の書庫だけど……)


 これは前世で覚えた最初の魔法だ。

 ガルバトール帝国において重要なのは、ハッタリ。

 中途半端に強いのが一番危うい。出る杭は打たれるの如く、頭角を現した人間は狙われる。

 多くのきょうだい達が命を落とした。

 だから、私は一番見た目派手で誰もが恐怖する魔法を覚えることにしたのだ。

 しかし、それを素直に話すわけにはいかない。

 私は考えた挙句、口を開いた。


「ほん」

「本? 本で読んだのですか?」

「ん」

「イズー、ほん、いっぱい」

「イズー殿下は読書家だと聞いています。そういえば、殿下はイズー殿下のもとに遊び行かれるとか。そこでたまたま読んだということですか? 三歳の殿下が?」


 この言い訳は少し無理があっただろうか。

 冷や汗が背中を伝った。

 私はぎこちなく頷く。言葉を重ねても墓穴を掘るだけだと思った。

 私はトリスティンを見つめ返す。


「うそ、ちあう」


 私はゆっくり、はっきりと言った。

 トリスティンは目を丸くする。彼はゆっくりと息を吐き出した。


「私としたことが常識に囚われてしまったようです。三歳だからといって本から魔法を学べるわけがないという考えが間違っていました」


 彼は目を細めて笑うと、私の頭を撫でる。


「聡明な殿下は、どうしてこの魔法を選んだのですか?」


 紫の瞳が私をとらえる。真実を見透かそうとするような、そんな目をしている。

 私は目を泳がせた。


(どうして……って聞かれても……)


 攻撃魔法はたくさんある。

 火、風、水……どれだって構わなかった。


(これが一番効率的だと思ったんだけど……)


 火球は単純な魔法だけれど、コントロールを必要とする。

 手からまっすぐ飛ばした火球が藁の人形ではなく建物に当たったら、練習場を壊してしまうと思ったのだ。

 雷なら直下への攻撃だから、被害は最小限にできると思った。

 結局地面に大穴を開けてしまったから、まったく最小限とは言えないのだが。


「ちらない」

「知らない?」

「これだけ」

「ああ、なるほど。この魔法だけを覚えていたのですか」


 私は頷く。

 難しい質問から逃れるためには、知らぬ存ぜぬが一番だ。


(なんといっても三歳だしね)


「質問に答えていただき、ありがとうございます」

「ん」

「殿下は私が見た魔法使いの中で、もっともマナの器が大きくいらっしゃる」


 私はトリスティンの言葉に頷いた。

 それは私も感じていることだ。

 前世よりも大きな器になった。


「マナの器を大きくするのは、並大抵のことではありません。リオーク王国の魔法使いから、殿下が何度も危険な目にあってきたことは聞いています。その影響でしょうね」

「ん」

「しかし、まだマナの量は少ない。一気に器を大きくしたせいで、まだ身体がマナを受け入れられていないのでしょう」


 私はトリスティンの話を口をぽかんと開けながら、呆然と聞いた。

 難しいことはよくわからない。


「そして何より、威力調整はてんでだめですね」

「む……」


 トリスティンは私を抱き上げると、藁の人形があった場所へと連れて行った。

 まだ煙が立っている。

 藁の人形の姿はない。

 雷によって一つ残らず塵になったのだろう。


「ご覧なさい。炭になってしまいました。これではマナの無駄遣いです」

「ん」

「せっかくたまってきたマナもまた減ってしまいましたね」


 トリスティンは私の頭を撫でる。

 彼には私のマナの量がわかるのだろうか。

 私は彼を見上げる。彼は目を細めた。


「殿下は天才とはいえ、三歳ですからね。身体が成熟していないため、不安定なのでしょう」


 私は自身の手の平を見つめた。

 私は強い。

 前世の私は生きるために、なんだってしてきた。

 その力を持ったまま、私はここにいる。


(今の私は弱い)


 しかも無知だ。

 私の知識は偏りがある。


「とりちゅ」

「はい。なんでしょうか?」



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― 新着の感想 ―
ちっちゃな殿下をずっと見ていたい…
とりちゅ、、、可愛すぎ
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