悪役令嬢ですが、今、詰んでいます
一応R15で書いております。悪役令嬢もの、大好きであります。
私、悪役令嬢、今詰んでるの。
何故なら今私は何故か、シナリオ通りなら嫌われている筈の王太子殿下に、キスをされているからだ。
これはどう反応するのが正解なの?教えて攻略班。
だがしかし、この世界に攻略班なんて組織は存在しないし、ネット回線も存在しない。
よって私が一人で解決するしかないんだけれど、私が目を閉じる間もなく、彼の唇はゆっくりと私から離れた。
安心してフッと息を吐くと、フィルナード殿下は幸せそうに笑った。
「鼻で息をして良かったんだよ、アルル」
「え、あ、は、はぃ……」
「可愛い。この唇も、君も、全て私の物だなんて夢みたいだ」
夢なら今すぐ醒めて欲しい。私はアルルメイナ・フェイバリット公爵令嬢としての記憶の引き出しを必死に開ける。
嫌われている筈のアルルメイナは、子供の頃から私の愛が重たい病を持っていたが、それが弟君が生まれたばかりで寂しい思いをしていた殿下とカッチリとハマってしまったみたいで、それはもう仲睦まじく成長してきたようだ。
「殿下…」
「今は二人きりだよアルル。どうかフィルと」
甘い!甘すぎる!これでヒロイン現れて手のひら返されたら普通に絶望するわ。禁忌の魔法とか手を出してしまうわ。それはまずい。非常にまずい。
そもそもこの小説『聖女召喚〜知らない世界で二人の王子に溺愛されています〜』は、ヒロイン異世界転移物。二人の王子の一人は、目の前のフィルナード殿下。もう一人は弟君のセイリーフ殿下だ。年上のフィルナード殿下と年下のセイリーフ殿下に奪い合われる溺愛ストーリーなのだ。そして聖女と結婚した方が国を継ぐ。と言う現実になったら恐ろしい話である。
聖女様が来たらフィルナード殿下はどうするおつもりなんだろう。
「あの、フィル様は聖女様が来られましたら…」
「君がお婿に貰ってくれると嬉しいな」
そう言う選択肢かぁ!なるほどなぁ!まじかぁ…。確かに我がフェイバリット公爵家に子供は私しか居ないので、私が王太子妃になったら養子を貰おうと両親は話していたが。
「でも、フィル様はあれほど執務にも励んでいらっしゃるのに…」
「必要だからやっているだけだよ。君と結婚するのが今の所王太子だから私は王太子をしている」
フィル様は私の顎に手をかけると再び唇を重ねた。
「アルルと結婚出来ない王子なんて辞める覚悟はしてあるから間違っても身を引くとか考えないでね?」
めちゃくちゃ考えてました。目が怖い。笑って無い。私の愛が重かったからそれが通常仕様で育ってしまわれたんだわ。凄い私、自業自得感。
「セイリーフ殿下は聖女様が現れたらお近づきになられると思いますか?」
「そうなるように仕向けるよ。彼奴は単純だから、王には向いてないけど宰相達が居るから何とかなるだろう」
絶対逃がさないの意思を感じる。
そうしてしばらくの後、聖女様が召喚された。
あんな事を言っておきながら、フィル様…王太子殿下は聖女様と仲睦まじくしている。
やはりシナリオの強制力には逆らえないのか。
私は正直、がっかりしていた。
期待していたのだ。王太子殿下が、強制力に惑わされず、私を選んでくれるのでは無いか、なんて。
馬鹿だった。愚かだった。私は所詮悪役令嬢なんだから。せめて私はシナリオの強制力なんかに変えられてやるものかと、陛下に婚約の解消を申し出た。
領地に戻り、婿を取りますと言うと両陛下は何故か凄く青ざめていた。
必死に止められたが、それも強制力の一部なのかと思うと何もかも信じられなかった。
その帰りだ。何者かに拉致されたのは。
目を覚ますと、豪華な寝台の上に居た。
足首には足枷と鎖がご丁寧についており、服は、何故か新婚初夜に着る様な薄っぺらい物に変えられていた。
「あぁ、目が覚めたかいアルル。なかなか目覚めないから心配していたんだ」
扉の向こうから現れたのはラフな格好をした王太子殿下だった。
助けに来てくれた訳では無さそう。と言うか、間違いなく、犯人。
「私を帰して下さい王太子殿下」
しかし選んだ言葉が悪かったらしい。殿下は顰めっ面のまま、寝台に上がると、私の両脇に手をついた。
「君が帰る場所は私の隣以外には無い」
「ご冗談はおよしになって。私清い身体のままでいたいんです。帰して下さい」
「…そんなに俺の気持ちが信用出来なかった?」
まるで凄く傷付いた様な顔をして殿下が私を見下ろしている。
「俺には君だけだアルル」
「やめて」
「お願いだ、信じて。そうでないと」
「なに」
「君の純潔を、此処で散らさなければならない」
「なっ!?」
殿下の目から溢れた涙が私の頬に落ちる。
「君が俺以外と結婚なんて、考えただけで気が狂いそうだ。いや、もう狂っているのかもね」
「だって、聖女様が…」
「僕の物ならなんでも欲しい弟を焚き付けたかっただけだよ。誓って手袋越しにしか触れていない」
「殿下…私…」
「そろそろフィルと呼んで。このままでは本当に君を襲ってしまう」
「フィル様。泣かないで」
「泣くよ、あんな絶望は二度と味わいたく無い」
そのままフィル様は私を確かめる様に抱き締めてくる。
「愛しているんだ。君が俺を愛してくれたあの日からずっと、君だけを愛している」
この人に人の間違った愛し方を教えてしまったのは私なんだと思うと、このヤンデレ行動にも仕方ないなぁと思う程度にしか思えない自分がヤバいと思う。
「私も、フィルを愛しているわ」
「本当に?俺だけを見て、俺を一番に考えて、ずっと傍に居てくれる?」
ヤンデレだ。まごう事なきヤンデレに成長させてしまった。
でも愛が重たいのはお互い様だ。私ちょっとだけ嬉しいとか思ってしまっているもの。
「分かったから、この枷を外して。あと何か着たい」
「ごめん無理」
「え」
「あの聖女しつこくて。もう我慢の限界なんだ。既成事実を作らせて」
「ま、待って!?帰してくれるんじゃないの!?」
「アルル」
「は、はい?」
「これ以上俺が我慢して新婚初夜から一カ月閉じ込められるのと今抱かれるの、どっちが良い?」
前略、前世の作者の方。彼は元々こういう性格だったのですか?それとも私のせいですか?
「…今なら一度で済ましてくれるのよね?」
フィルはにっこり笑うだけで答えない。
結局、私は聖女様とセイリーフ殿下の婚儀が行われるまで軟禁され。
その後に直ぐ私とフィルの婚儀が行われ、それも結局一週間抱き潰される未来が待って居る事を、まだ私は知らない。
「フィルの嘘つき!」
「大丈夫、アルルの仕事も俺がこなしておくからね」
「そう言う問題じゃないの!」
「行ってきます愛しい奥さん」
「キスなんかしないんだから、しな、んぅ〜!」
元、悪役令嬢ですが、まだ毎日が詰んでいます。夫の攻略方法、求む。
読んでくださってありがとうございました。
誰かの心に刺さってくださったら幸いです。