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第2の仕事 2

「双子病?」


 それは美緒にとって聞いたことのない病名だった。実際、そのような病気が少なくとも表の社会では使われていない。


「きみが聞いたことのないもの無理はない。これはあくまでも能力者に限られた病だからな」


 麗佳はそういった。

 美緒は次の仕事のため、事前に麗佳の執務室で説明を受けているところだった。


「能力者に限られている……それは、どんなものなんですか?」

「まず理解しておかなければならないのは、双子の能力者というものが存在する、ということだ。これは双子共々が能力者という意味ではない。双子特有の能力を指しているという意味だ」


 双子は元々、能力者に生まれる確率が高いとされている。とくに一卵性双生児の場合、それに応じた能力が付与されることが多い。テレパシー、視界を始めとした感覚共有などだ。


「感覚共有……常に相手と感覚が繋がっている、ということですか?」

「いや、あくまでもそう意識したときのみだ。普段はそれぞれ別の個人として生活をすることができる。とはいえ、その能力を使いこなせないうちは、大変な混乱に陥るようだがな」


 そう言って麗佳はテーブルの上に紙を一枚滑らせた。


「それが今回の患者だ。話の流れでわかると思うが、彼女も一卵性双生児の片割れということだ」


 美緒は写真付きの履歴書を手に取った。名前は水上優里亜。年齢は二十八。他には出身地なども記されているが、病名に関しての記述はいっさいない。


「病名はなんですか?」

「だから言っただろう。双子病だと」


 双子病、と美緒は呟く。しかし、その内容については説明を受けていない。

 麗佳は椅子から立ち上がり、窓辺に寄った。都市部に本部はあるものの、建物の周囲は広大な庭に囲まれていて、緑も多い。麗佳は庭の木々をガラス越しに眩しそうに見つめながら言った。


「一卵性双生児の能力者は生まれた時点で、運命共同体としての一生が義務付けられているようなものだ。しかし、全てが同じなわけではない。環境によって心身が変化することはよくある。摂取したもの、受けたストレス、出会う人もすべてが同一ではない。その結果、一方だけに大きな変化が現れることがある」

「病気など、ですか」

「ああ。そしてそれが双子の能力者の寿命が短い原因ともなっている」

「寿命? 双子だと、病気にかかりやすいんですか?」

「それは必ずしも正確な表現とはいえないかもしれない。二人分の確率を抱え込むと言うべきか」

「確率?」

「双子の能力者はとても有用だ。なんの機器も持たずに情報を別の相手に送る事ができる。諜報要因としての活躍を期待できるわけだが、やっかいなデメリットも存在している。それが感覚共有の深化だ」


 双子の能力者は時間が経てば経つほど、繋がりが強くなる。それは能力の向上と言える反面、個人としては輪郭がぼやけてしまう恐れもある。


 もっとも恐ろしいのは、病気や怪我による影響だ。一方のそれが、もう一方に転移することがある。


 これにはある程度のタイムラグがある。長期の場合にのみ反映されるもので、例えばすぐに治る切り傷などではその現象は現れない。指を切った程度ではもう一方が気づくことはないが、長く患う深刻な病気では、やがて自身に現れる異変でそうなのだと理解する。


 感覚共有の深化が進んでいれば、例え意識の蓋を閉じようとしても、影響を受けてしまうのだ。


「それが双子病……」

「感覚共有の深化による最悪のパターンはもちろん、死ぬことだ。相手が亡くなることにより、健康であるもうひとりも道連れになる。双子の命は繋がっている以上、これは避けられないことでもある」


 一度にふたりとも、というパターンはほぼない。もう一方の人物には、ある程度の時間を置いてその症状などが現れるからだ。なので何も伝えられなければ、数カ月は健康に暮らすことも可能だ。今回のケースもそうだという。


「じゃあ、水上さんの双子のお姉さんか妹が亡くなった、ということですか?」

「ああ」


 美緒は自身の頭の中を整理する。今回の患者である水上優里亜は双子、しかしそのもう一方はすでに亡くなっている。


 その影響で水上優里亜はいま、死を迎えようとしている。すぐには死なないということは、おそらく姉妹のもうひとりは数カ月には亡くなっているということ。


「なんの病気だったんですか?」

「病気ではない」


 そう言って麗佳は美緒の方に顔を向けた。


「水上優里亜の姉、世理奈は自殺したんだ」


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