最初の仕事 5
病室を出ると、そこには見届け人である莉子が待っていた。腕を組み、壁に寄りかかるようにして立っている。
「終わったのね」
「はい。終わりました」
「感想でも聞かせてくれる? 見届け人としての今後に役立つかもしれないから」
簡単には答えられなかった。
人が息を引き取る瞬間を見るのは、美緒にとって初めてのことだった。意識を切断したとき、透の呼吸はゆっくりと収まっていくことがわかった。苦しむ様子はなく、穏やかな顔のまま逝った。もし激しい反応でもあれば、即答もできたのかもしれない。
「いまのあなたには酷な質問だったかもしれないわね」
「……莉子さんは最初の仕事、覚えていますか?」
莉子のまぶたがわずかに動いた。全体的な表情は変わらないのに、美緒はその変化に気づくことができた。
「いいえ。わたしは呪術師。他人を呪うということは自身の心も呪うということよ。いまではもう、感情と呼ばれるものはすっかり希薄になってしまったわ」
なら、どうして市民に犠牲が出たことで引退したのか、そんな質問を美緒が投げ掛けようとしたとき、莉子はすで病室へと移動していた。
ゆっくりとドアが閉じられ、廊下に美緒が一人だけ残される。面会時刻はとっくに過ぎた時間で、病院は静けさに包まれていた。美緒は自然と耳を澄ます形となったが、どこからも物音が聞こえることはなかった。