表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/61

最初の仕事 3

「あの、聞きました。佐伯さんが元夫だって」

「そう。それで?」


 莉子は平然と答える。微塵も動揺はうかがえない。


「いいんですか。わたし、封魔師なんですよ。それがどういうことか、わかりますよね」

「魔術師としてもわたしの方が先輩よ。それを忘れないで」

「佐伯さんの命を奪うことになります。それでもいいんですね」


 莉子の意思によって結果が変わることはないものの、美緒はどうしても彼女の気持ちを確認したかった。


「あなた、何か勘違いしてるんじゃない。わたしと彼の関係は終わっているの。いまはもう、他人の一人でしかないのよ」

「でも、愛し合った過去があるなら、そんな簡単には割り切ることはできないはずです」

「残念だけど、彼に対する愛情は微塵も残ってはいないわ」


 莉子は感情のこもらない口調でそう言う。


「聞いたんでしょう。彼が結界を張れなかったことで、呪いが拡散した話。なぜそんなことになったかわかる?」

「佐伯さんは焦っていたからと」

「それは正確じゃないわね。彼は自分の命を優先させたのよ。敵の増援に対し、彼は確かに焦っていた。焦りながら、自分が生き残る道を探していた」

「どういうことですか?」

「敵は銃を持っていたの。その弾丸が彼のすぐそばに着弾した。それに驚いた彼は集中を切らし、結界を解いてしまったのよ」

「結界を解いた……」

「慌てて新しい結界を張ろうとしたとき、彼が考えたのは自分を守ることだった。二つの結界を同時に張ること出来ない。一つ目を確立して初めて次の結界を生み出すことができる。すでにそのとき、わたしの呪いは発動していたから、周囲の影響を考えれば、第一に大きな結界をつくる必要があった。でも、彼はそうしなかった。まずは自分を守るための小さな結界を作ろうとしたの」


「それはおかしいです。だって佐伯さんは呪いによって体を蝕まれているんですよ」

「だから、失敗したのよ。もしも彼に強い覚悟と街を守るという意思があっなら、例え銃口に狙われていたとして結界をつくることはできたはず。でも彼はあくまでも自分の命を守ることしか考えなかった。一般市民の安全を無視して、自らが生き延びることを最優先にしたのよ。その弱い心が魔術にも影響した。魔術師は常に気高くあらねばならない。心の動揺こそが最大の敵だ、とあなたも教わったはずよ。その教えを忘れた結果なのよ」

「それは間違いないんですか?」

「彼がそう言っていたし、状況的にもそう判断できる」


 はあ、と莉子はため息をついた。


「久しぶりよ、こんなに一気に話したのは。あの日の聞き取り調査でも、もっと簡潔だったわ」

「すいません。わたし、初めての仕事なので、どうしても詳しく知りたかったんです」

「その気持ちはわかるわ。でも、わたしに話せるのはこれくらいね。後は本人に聞いてちょうだい」

「最後に話さなくてもいいんですか?」

「伝えることは何もないわ」


 そう言って、莉子は廊下を歩き去っていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ