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 暗闇の中。ゆらゆらと広がる水紋の間に、白色の花弁が落ちていく。



「あれ・・・?私寝てた?」

 重く閉じられていたまぶたをこじ開けるように、はっきりと意識を覚醒させる。


 なんだろう、まだぼうっとする。

 夢の中を彷徨う羊のようだ。まだ眠っていたいと思う自分の欲に逆らえないでいる。


 そして、こんな時にはそんな私を呼ぶ声が聞こえてくるのだ。


「―――ねえ、ねえっ!」

 ゆさゆさと揺さぶられる体。そこら中に漂う甘い香り。

 細く開けた目に、私に呼びかけ続けている少年の顔が映される。

「あ・・・れ?」

「ねえ、って・・・・・・起きた?」

 先程まで真剣そうな表情をしていた少年の顔が、ぱっととても嬉しそうな、にこやかな笑顔を浮かべた。


 まだ眠くてしかたない私は、その少年とは初対面のはずだというのに、懐かしさを感じていた。その幼すぎる容姿も、どちらかといえば西洋系の顔立ちも、灰色が濁ったような、黒にしては明るすぎる髪と瞳も。


「あなたは・・・」


「ボク・・・?僕はアルペース!きみがねぇ、ここで倒れていたから、どうしたんだろうって思って。」


 倒れていた・・・?不思議に思って辺りを見回そうと振り向いた時、自分に異変が起こっていることに気づいた。


 縮んでいた。


 どうりでこんな幼い少年と目線が同じ高さなのである。どういうわけか、自分は縮んでいた。


 だが、別段驚くことはなかった。そしてここが見る限り学校帰りの雑草だらけの道路などではなく、辺り一面に広がる草原と、そこにそびえる一本の大きな木があるだけの場所だということにも、驚かなかった。


 なんとなく、夢だろう、と思った。

 はっきりとしたリアルな夢。あまり働かない頭と、知らないはずなのに見覚えのある風景。


「ここは?」

「えっ・・・ここ?ここは《ニューハイリネ》だよ」

 聞いたことのない名前。

 私はふーんと曖昧な返事をした。


「ねえ、連れて行ってよ」

「え?」

 何を思ったのか、私は少年に言った。

「ほら、キミの家。ここらへんに住んでるんでしょ?行ってみたいな。」


 周りから見てみれば、いや自分でも自分勝手にしか思えない発言。だが、今の私は”子供”なのだ。なんだか、今ならなにをしても許される気がしてきた。

 そして、そんな私の様子を見ても笑顔を絶やさなかった少年は、元気よく「いいよ!」と言い、私の右手を握ってさっそく走っていく。



 私と少年が先程まで居たのは、どうやら丘だったらしい。草原が一面に広がっているかと思えば、だんだん一際下がったところに建造物が見えてきたのだ。

 だが、なにか言うとすれば、だいぶ古い時代にありそうな風景だった。


 少し訝しげな表情をしていると、私を引っ張って走っていた少年はぴたりと止まり、こちらに振り向いて言った。

「ここが《ニューハイリネ》!ようこそ!・・・ええと・・・」

 元気いっぱいに声を張り上げたかと思えば、戸惑ったような眼差し。


 どうやら、私の名前が分からなくて気まずそうにしているようである。

 仕方ない、と思いつつ、すっと少年に向けて笑顔を浮かべながら、私は少年に教えてあげた。



「ましろ、私の名前はマシロだよ。」



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