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俺の婚約者の食に対する執念が凄すぎる件

作者: りおか

ただいちゃいちゃしているだけのお話。悔いはない。

俺の婚約者がなんだかおかしい。



先日も「私、かき氷が食べたいんですの」と言っていたかと思うと、いつのまにか氷魔法をマスターしてた。自分の魔法で出した氷に甘いシロップをかけて「う~ん、天然水のかき氷って最高!」と目の前で頬張っていた。天然氷だとキーンとならないのがミソらしい。氷魔法など限られた者にしか扱えないので、まさか俺の婚約者ができるとは思っていなかった。「美味しいものは正義ですよ!」って笑ってた。



ちなみに、その前に「私、桃の天然水が飲みたいんですの」と言ったかと思うと、水魔法の練習にはげみはじめた。そのうち、味の違う水を何種類か作り出して「これこれ!これに桃の果汁を混ぜれば…!」と言って何やら美味しい飲み物を作っていた。水魔法で出てくる水に種類があるのかと驚いた。「美味しいものは正義ですよ!」ってやっぱり笑ってた。




最近は「私、前世で食べたケーキをどうしても再現したかったのですわ」

と言ったかと思うと、植物魔法の勉強を始めていた。

どうやら、苺の種類が想像しているものと違うらしい。 よく森に生っているヘビ苺ではなく、もっとおおぶりの苺が欲しいらしい。



そんなふうに突飛な行動をいきなり開始している婚約者だが、観察しているうちにわかったことがある。

俺の婚約者の原動力は「食」だ。


先日、婚約者に向かってそんなことを言ったら「嫌ですわ、私のこと、食いしん坊だと思ってらっしゃるの?」と可愛らしく頬を膨らませていたけれど、俺は婚約者が実際に食いしん坊だと思っている。そうじゃなかったら何ていう言葉で表したらいいのかわからない。その時はそれ以上言わなかったけれど。




だから、今目の前の女の言うことがどうにも信じられない。


「カロリーナ様は、わたくしのことをいつも虐げてくるのです……」

「そうなのか」

「わたくしに暴言を吐き、先日など私を階段から突き落とそうと……!」

「なるほど」

「わたくしのことは何を言われてもいいのです!ただ、最近はウィルトン様のことまで悪く言っていらして……!わたくし、胸が苦しくなって……!」

「(頭は)大丈夫か?」

「お気遣いありがとうございます……!わたくしのこと、信じてくださるんですね……!」




よくわからない女が妄言を吐きながらこちらに触れてこようと突進してくるものだから、思わず避けてしまった。

勢いあまった名のわからぬ令嬢はつんのめってしまったので、転ばないように致し方なく腕をつかむ。




「ウィルトン様……!その方は……?」

「げ」



ちょうどそんなタイミングを婚約者のカロリーナに見られたらしい。

思わず舌打ちする。めんどくせぇ。カロリーナには何も言わないうちに全て処理したかった。




舌打ちをしたことで、カロリーナも目の前の女も何か誤解したらしい。

カロリーナは顔を蒼白にさせてしまったし、目の前の女は何だかやたら嬉しそうだ。



「カロリーナ、この女を知っているか?お前に害されたと泣いていたんだが」

「…っ!! …そんな…わかりません……!心当たりなどは何も……!信じてください、ウィルトン様……!!かくなる上は、真実の魔法を学んで立証を……!」

「待て!もちろん信じているさ。一片たりとも疑ってない!」



涙を浮かべて駆け去ろうとしたカロリーナを必死で引き留める。

カロリーナが悲しむ時間なんて不要だ。


「……え?てっきりその女性のことを信用されたのかと……」

「そんなわけあるか!俺はお前の食に対する執念を知っている!」

「食に対する執念」

なんだかカロリーナがチベットスナギツネみたいな顔になってしまった。


「食以外のことは些末なことだと切り捨てているのも知っている!そんなお前がいじめなどに無駄な時間を使うはずがない!」

「嬉しいような悲しいような……」


「違うか?いつも新しい魔法を習得するときは、何か美味しいものを食べたいときだったように思うんだが」

「違いますけど……!違いませんけど……!」

カロリーナが真実を否定しようとして、やはり思い直したらしい姿に思わずぶはっと笑ってしまった。




「食以外で新しい魔法を学ぼうとしたの、今回が初めてだな。真実の魔法だっけ」

「……それは!だってウィルトン様がその女性を引き寄せている姿を見てしまって……!」

カロリーナが真っ赤になりながらなんとか言い訳しようとする。

婚約者なんだし、言い訳しなくてもいいのに。



「俺は、カロリーナ以外の女性を引き寄せたいと思ったことはないよ。さっきのだって、ただ転びそうだったのを助けようとしただけだし」

「そうなのですか……!私はてっきり……!」

「でも、こうしてカロリーナが嫉妬してくれたのは嬉しいな。てっきり俺にはあまり興味ないのかと思ってたから」

「そんなことありません!」

いつになくカロリーナが強く否定するので驚いた。


「わたくし、あなたとのお茶の時間が一番大切なので……。家にたくさん来ていただけるようにと美味しいものを準備したくて……」

おいおい、そんな理由かよ。

カロリーナが可愛いすぎる。



「ウィルトン様、お顔が赤いですよ…?どうしましたか…?」

思わず顔を手で覆ってしまった俺に、今度はカロリーナがにやりとした顔で告げる。

でも、そんなカロリーナの顔だって赤い。



数日後。



「なぁカロリーナ」

「なんですか、ウィルトン様」

「この前なんだかんだ言ってたけど、やっぱりカロリーナって、俺が一緒じゃなくても食に対する執念あるだろ」

「いやですわ。なにを根拠にそんな」

「さっき料理長が『今夜は豚の丸焼きに挑戦だ!カロリーナ様がこのために火の魔法を習得してくださった!各自配員に着け!』と料理人たちに鼓舞しているのをみかけた」

「くっ……!」


やっぱりうちの婚約者の食に対する執念はすごそうだった。




「でもウィルトン様、私が食いしん坊なおかげで、あの女性に騙されずに済んだんですよね?やっぱり美味しいものは正義ですね!」

そう言って「明日のランチは、ウィルトン様もご一緒にどうですか?今夜からじっくり弱火で豚を焼いていくので、カリカリジュワッな外側のお肉と、ジューシーに脂がしたたりおちる内側のお肉が楽しめますよ?」と誘ってきた。




「いただこう……」

想像して思わずごくりと唾をのんだ。

俺はなんだかんだ、カロリーナのつくる手料理に胃袋を掴まれている。言わないけど。









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