4.ガゼルの過去
イオが目を覚ますと夜になっていた。体を起こすと、普段使っているベッドと違っていた為、体のあちこちが痛かった。ゆっくりとベッドから降り、部屋を出た。
「起きたのか。」
料理を作りながら、ガゼルがイオに話しかけた。イオは親父の姿がない事に気づき、不思議に思い辺りを見回した。ひと段落作り終えたガゼルは手を止めると、イオがきょろきょろしている事に気がついた。
「親父は仕事があって今夜はいないんだ。明日の昼頃には帰って来る。」
ガゼルは両手鍋に入れてあったお玉をかき混ぜると、スープ皿に中身をよそい味見をしていた。
いい香りがしている。
朝食後から何も食べていないイオは、ぐるるぅ〜とお腹が鳴った。顔を真っ赤にしてガゼルの方を見ると・・・良かった。気がついていないようだ。
「・・・うん、うまいな。お前の分も準備するから、突っ立ってないで椅子に座って待ってろ。」
慣れた手つきでスープとパン、サラダを用意していたガゼルは、ふと気がついた。
「お姫様は、こんなものは食べないか?」
イオは首を横に振ると、ガゼルが席につくのを待っていた。
2人で向かい合って食事を始めた。一口食べるとイオは嬉しそうにもう一口食べた。パクパク食べている。
「腹が減ってたのか?」
イオがニコニコしながら頷く様子を見て、ガゼルは安心した。
「俺が作ってやったんだ!うまいだろ!!そのスープに肉がいっぱい入ってるから、腹いっぱい食っていいぞ!」
夕食が終わり洗い物を終えると、2人はやることが無くなった。テーブルに座ったまま、気まずくなったガゼルは緊張していた。普段女の子と一緒に居る事なんて、ほとんど無いのだ。何を話せばいいのか・・・。
「お、俺さ・・・気がついた時には両親が居なかったんだ。そんな俺を親父が引き取ってくれたんだけど、本当の親じゃないって知った時は、嫌で嫌でさ。」
イオはガゼルを見つめた。ガゼルは窓の外を見ていた。
「親父が嫌すぎて家出したけど、どこに行っても俺は1人だった。同い年くらいの奴らには『みなしご』っていじめられて友達もいなかったし、誰も俺を受け入れてくれなくて・・・結局親父以外は全員敵だった。だから」
ガゼルはイオを見た。満月の様なガゼルの金色の瞳を見て、イオはどきりとした。
「ーーーだからお前を助けたんだ。追い詰められてる姿を見たら、天族って分かってたけど体が動いてた。俺ってバカだよな・・・。」
苦笑したガゼルはまた窓の外を見ていた。
イオは何か声を掛けたかったが、自分は話せないのだ。どうすればいいか考え、テーブルの上で指を組んでいたガゼルの手を、両手でそっと包んだ。
「なっ、何すんだよ!!!?」
驚いたガゼルがイオを見ると、優しく微笑んでいた。顔が真っ赤になったガゼルは急いで手を振り払った!
(なんで俺はこんな事を話したんだ・・・!!?)
ガゼルは後悔していた。何か話さなければと考えに考え、緊張している事もあってか、なぜか自分の生い立ちを話してしまった事をひどく後悔していた。この場から居なくなりたくて、ガゼルは怒鳴りつけるように言い放った。
「もう寝るぞ!!お前も早く休めよ!」
イオがきょとんとした顔で見つめていたが、構わずその場を後にした。
※ ※ ※
翌朝。いい香りで目が覚めたイオがキッチンに向かうと、ガゼルが朝食を作っていた。
「ちょうどいいタイミングで起きてきたな。」
そう言うと、イオに目玉焼きとベーコンを乗せた皿を突き出した。
「手伝って。これテーブルに置いて。」
2人で朝食の準備を済ませ、黙々と食べていた。
「これからどうするんだ?家に帰るのか?」
イオは食べる手を止め、暫く何かを考えていた。そして近くにあった紙にペンを走らせた。ガゼルに紙を渡す。
『分からない。でも迷惑になるからこれ以上居られない。助けてくれてありがとうございました。』
ガゼルは目を通すと眉間に皺を寄せた。そして一気に残りの目玉焼きをかきこんだ。
「この森は広いし魔物も多いから危ないんだぞ。安全な場所まで連れて行ってやるよ。」
イオは首を横に振り断ろうとしたが、ガゼルはイオを睨みつけた。怯えたイオが首を縦に振ると、ガゼルは口角を上げた。そして立ち上がると、出掛ける準備を始めた。
※ ※ ※
ガゼルの言う事は本当だった。国境から離れ、森の奥へ進めば進むほど、強くて大きい魔物が増えていった。イオは今まで一度も戦った事などなく、ひっきりなしに出てくる魔物に震えていた。
そんなイオを見て、ガゼルは黒い稲妻で魔物を倒していた。
「ここら辺は狼の魔物が多いんだ。増えすぎない様に討伐隊が魔物を倒して数を調整してるはずなんだけど・・・そいつらには会いたくねぇな。」
突然魔物の悲鳴と共に、燃え盛る炎が遠くに見えた!魔物達が燃えて苦しんでいる声が響いている。
「ギル!森で火を出さないでっていつも言ってるでしょ!」
「ミリアムは黙ってろ!一掃できれば早くていいだろ?それにお前の水で火は消せるじゃないか。」
「2人とも喧嘩はダメだよ〜。」
「ダリルはうるさい!」
遠くから3人組がどんどん近づいてくる。
「噂をすれば影か。面倒臭い奴らが来たな。」
ガゼルがボソッと呟いた、と同時にギルと呼ばれた青年が銀髪を揺らしながら、ずかずかずかと速度を上げて近づいてきた。
「よぉ、みなしご!こんな所でなにやってるんだ?」
「お前みたいな雑魚に話すことなんかねぇよ。」
ざ・・・雑魚??先ほどガゼルが話していた討伐隊なのだろうか。だが、仲が良いとは言えない雰囲気だった。イオはハラハラしながら、睨み合うガゼルとギルを見守った。