四話‐1
僕とルクトは川を泳いでいた、あの崖の下が貯水湖になっていたのでなんを得たが。二人とも何も言う気になれないでいた、あの少女はこの後どうなるのだろうか、小鳥が手元からいなくなっては心の支えが無くなるのではないかと一人悶々とした。
そうしていると自分が徐々に沈んでいることに気づいた、背中に背負っている麻袋に水が溜まり重く沈んでゆく。息を吸う事も出来ず醜い音を当てながら喉の奥から空気が漏れて行く。突然襟首を掴まれ引っ張られてゆく、ルクトかと思い振り返ると見たこともない大柄な青年だ。
少し流された所に岸がありそこに引き上げられた、思いっきり咳込んでいるとルクトも上がってきた。
「お前ら優雅に心中か?」
「込み入った事情でな」
ルクトは僕の背中から麻袋を下ろすと、背中を軽く叩いてくれた。
「なんだアンタらかい」
その言葉に顔を上げると、先ほどの老婆が僕たちの龍を撫でていた。
「あ!ごほ、ごほ、その龍は害のない龍で」
「何だ!この龍もアンタらのかい!」
そう言うとツカツカ僕達のところへ早足で来ると、僕とルクトの頭をスパーンと叩いた
「あんた達こんなバレバレな所に龍を置いとくとは!監督不行きだね!この龍が殺されるところだよ!」
ついでに僕の背中の真ん中辺りも強く叩かれて、詰まっていた水が一気に飛び出した、感謝を述べるべきなのだろうが、遠くから銃声が聞こえた。刹那ルクトと顔を見合わす、このままではどうなるかなど容易く想像できるが、老婆たちも連れ立つか悩んでしまう、ルクトは老婆に聞きたいことがあるらしいし、有益な情報が得られるのは好機だ
「あんたたち逃げなくて良いのかい」
「実はあなたに旅連れをお願いしたくて」
「だったらこいつを連れて行きな」
老婆は青年の襟首を掴むとこちら側へ放り投げた、青年はバランスを崩し膝から転けた、その足を丁寧に撫でている
「そいつは私の孫だ、用心棒にでもしな」
いきなり二人に別れるのかと、龍の知識を豊富に持っていそうな老婆がいないのでは目的が違う。戸惑いルクトの袖を引っ張るがルクトも困り顔である。
「安心しろ、俺も龍のことはばあちゃんと習った、もともと婆ちゃんの護衛だったが。婆ちゃん強すぎて俺みそっかすなんだよ」
そう言うと青年は水龍へと近づき、 前足の根本を叩いた、水龍はのそのそと起き上がり頭を下げる。
「乗ろう」
青年がそう言うが早いか、背後から「放て」と叫び声が聞こえ、一斉に槍と矢が空を描いた