コスモスが咲いて
僕の好きな人は、どこか"ちぐはぐ"な人だ。
『秋本』なのに『咲桜』だったり、季節に構わず年中コスモスの髪飾りをつけていたり、ゆるふわ感に似つかず運動神経抜群だったり、朗らかな笑顔の裏に毒舌が隠れていたり、でもやっぱり困っている人は放っておけなかったり――――。
ちぐはぐ、というのも僕の偏見に他ならないけど、彼女が孕むオリジナリティからどうにも目が離せなくて、気がつけば彼女を探している。
ちぐはぐで、人によっては歪ささえ感じる彼女の個性が、僕の"好き"にぴったりはまった。
そんな彼女は恋人――――ではなく、僕の幼馴染み。そして、彼女に恋をしてから十年が経とうとしていた。
「ねぇ、今日が何の日か知ってる?」
「クリスマスでしょ?」
「そうだよ。はい」
彼女――――咲桜は僕に向かって掌を差し出す。
「え?」
「クリスマスプレゼントが欲しいなぁ」
「交換ってこと?」
「ん?」
「え?」
咲桜はキョトンとした顔で首をかしげると、目を細めて穏やかに笑った。周囲のイルミネーションと相まって、それがやけに眩しい。
「義理プレゼント」
「そんなの初めて聞いたよ」
「バレンタインのクリスマスver.」
「えぇぇぇ」
そのクスクスと笑いながら僕をからかう姿も十年前と変わらない。小学生の頃からだ。その頃から変わらず、おどけたような笑顔が可愛い。
『ねぇ、秋本さんって春生まれ?』
『ううん、秋だよ。急にどうしたの?』
『何で"咲桜"なのか、気になって』
『ふふっ!それはね――――』
今日も、コスモスの髪飾りが揺れている。
「はい、プレゼント」
「え、ほんとにあるの!?」
咲桜は早速包みを開けた。包みの中から現れたのはコスモスのネックレス。
『秋と桜で秋桜なの。素敵でしょ!』
幼き日の咲桜の笑顔が脳裏を過る。
コスモスが咲く季節は疾うに過ぎた。春も秋も瞬く間に終わってしまったけど、秋に咲く桜のように冬に咲く春もきっとある。
「咲桜」
僕は煩いほどの心臓の鼓動を感じ、クリスチャンでもないのに神に祈りながら、口を開いた。
「好きだよ」
来年の秋、咲桜と一緒にコスモスが見られることを願って。