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〜学園一の優等生は学園一のヲタクでした〜

初投稿なので色々と暖かい目で見守ってくれると嬉しいです。

  

 「みてみて、葵様よ、西園寺葵様よ・・・!」

「本当だ・・・!いやぁ、やっぱりいつ見ても知的で高貴なお姿・・・」

午後の暖かな光が から差し込む静かな図書室。その場にいる全員が、じっと吸いこまれるようにとある少女を見つめていた。

 ここ、私立水守学園一の優等生、西園寺葵だ。

美しい黒のロングヘアーに、きっちりと着こなした制服。透き通った瞳。そんないかにも知的で美しい雰囲気を漂わせ、ゆうゆと窓際のベンチ風の椅子に腰掛け、何やら分厚い参考書のようなものを1ページ1ページ、ゆっくりとめくっていくその姿は、窓から差し込む光もあいまり、もはや神々しさのようなものも感じられる。

 「ほら、あんなに真剣な眼差しで勉学の本をお読みになって・・・!流石ですわぁ・・・」

周りにいる生徒の一人がそんな声を上げると、周りにいる生徒たちもうんうんと頷いた。

そう、彼女は真剣な眼差しで勉学の本を読んでなど・・・いなかった。


 彼女が読んでいたのは参考書でも小説でも伝記でもでもない・・・

・・・同人誌だ。


 (なっ、何なのこの展開ッ・・・!興奮で心臓の鼓動が収まらないわ!!あえて原作では取り入られていないこの一見奇天烈なストーリを入れることで、それぞれのキャラの魅力が引き立っている・・・何という神作品なのかしら・・・?これがただの無名の同人誌なんて信じられない・・・もったいない、もったいなさすぎる・・・願わくば我が西園寺家の力で公式コミカライズ化させてあげたいところですが、あいにくそれはできない・・・いや、自分だけのものにするというのも一種の楽しみ・・・)

葵は真剣に参考書を読み込んでいるわけではない。顔を興奮で真っ赤にし、鼻息を荒くして参考書の裏に隠した同人誌漫画の1ページに目を落としていた。

 (・・・と、少し興奮しすぎてしまったわ。怪しまれていないかしら・・・)

葵はちらりと本から目を離した。しかし、周りの生徒たちの反応は、至って都合のいいものであった。

「す、すごい・・・!!」

「なんて素晴らしいんだ・・・!!」

「あ、あんな興奮して参考書を読むなんて・・・よっぽど勉学に意欲的なのね・・・」

近くを通りかかった先生も呟いた。

 その反応に、ひとまず葵はほっとすると本を閉じ立ち上がった。

(続きは家でゆっくり読みましょう。大好きなkn先生の新刊に思わず図書室で開いてしまったけれど、ここだと人の目が気になりすぎるわ。)

カモフラージュ用に積み重ねた図鑑やその他諸々の分厚い本を本棚に戻すと、葵は図書室を後にした。


 葵の通っている高校、ここ私立水守学園は長い歴史と伝統、国内でもトップクラスの偏差値を誇る名門校だ。いわゆる『お嬢様学校』であり、通っている生徒も皆富豪名家の子供である。

 そして、本作の主人公、西園寺葵はこの学園一の優等生にして、皆の憧れる一学年の学年委員長である。

成績優秀スポーツ万能、完璧な容姿に皆から好かれる控えめで優しい性格・・・それが彼女だ。家は父が有名な政治家、母が海外でも活動を行う一流のキャリアウーマンでありそんな二人から愛情を注がれ育ってきた。城のような豪邸に住み、無論超金持ちである。誰がどこから見ても、「完璧」と言わざるを得ないだろう。


 しかし、それはあくまで表の姿。そんな彼女は偶然テレビで流れていた深夜アニメにいたく感動しいわゆる『推し活』を始めた、生粋のオタクなのである。しかし、そんなことが家族や友人、学園の生徒や教師にバレたら一大事。そんなわけで、今まで必死に自分がオタクであるということを隠し、こっそりと漫画や円盤、同人誌を集めているというわけ。


 (・・・それにしても。)

図書室を後にし廊下を歩きながら葵は小さくため息をついた。

(アニメや漫画について語れる友人がいないというのは寂しいですわね・・・SNSを使いネッ友とアニメの放送が終わり次第感想を語り合う・・・ということは満足に楽しめているのですが、リアルでお話がしてみたいという欲求もありますの・・・)

そんなことを思っていると、ふと美術室から美術担当教師である南が顔を出した。

「ちょっと西園寺さん、今いいかしら?」

「あ、はいっ。」

葵が美術室に入ると南が頭を下げた。

「これから帰るところなのにごめんなさいね。実は葵さんに頼みごとがあって・・・前美術の授業で描いた風景画を廊下に展示するのを、少しでいいから手伝ってもらえるかしら?」

「わかりました!全然大丈夫ですよ〜。」

葵はにこっと笑って言った。

「ありがとうね。助かるわぁ。流石西園寺さんねぇ。」

そう言うと南は葵に絵を渡し、展示作業が始まった。


 「それにしても、皆さん絵がうまいですね〜。」

「そうねぇ。でも、西園寺さんのなんて素敵じゃない。とても自然を感じられるわぁ。」

そう言って南が青いに見せたのは、前回の美術の授業で描いた葵の風景画だ。木漏れ日が差し込む木々と周りの草花が美しい作品となっている。

「私なんてまだまだですよ。」

そう言いながら葵が手を動かしていると、ふと、一つの作品に目が止まった。

「あら・・・この絵、すごくうまい・・・」

葵の視線の先には、まるで美術館に展示されてでもいそうな自然のイラストがあった。遠近感やリアルさがうまく強調されている。

「ああ、草薙さんの作品ね。本当に絵がうまいわよね草薙さん。」

(草薙さん・・・同じクラスの草薙零さんの作品だったのね。)

草薙零は、クラスの中でも大人しい女子生徒だ。クールでどちらかというと近寄り難い雰囲気もまとっており、葵が言葉を交わしたのも今までに数回しかない。

(草薙さんってこんなに絵が上手かったのね・・・知らなかったわ。)

そんなことを思いながら葵が零の絵を飾ろうとした時、零の絵が葵の手から滑り落ち、床に絵を落としてしまった。

(あっ・・・拾わなきゃ・・・って、うん?)

慌てて絵を拾おうとした葵の目に映ったのは、零の絵の描かれた画用紙の裏に描かれた、一つの小さな落書きだった。

(この落書きって、もしかして・・・)

葵には、この落書きに描かれたものが、とあるキャラに見えていた。

絵を拾い、よーく落書きを見た瞬間、葵は確信した。

(これって・・・リゼちゃん!?)


 リゼとは、葵の大好きな深夜アニメ、『クリーニング屋の四姉妹』に登場する葵の推し、リゼ・トワイヤルである。四姉妹の末っ子であるため、もちろん萌え属性てんこ盛りの超ロリっ子。ワガママかつその、「子供扱いしないでよ!!」というセリフに射抜かれたファンも多いのか、『クリーニング屋の四姉妹』(略してクリよん)の中でも高い人気を誇るキャラである。


 (あ、あのリゼちゃんがなななんでここに・・・?見間違いよね?)

困惑しつつもう一度まじまじと葵は落書きを見つめた。

(この他のキャラより圧倒的に低い等身、紫色のツインテール、そして自分より遥かに大きいサイズのニットとぶかぶかのデニムパンツ・・・間違いない、これはリゼちゃんだわ・・・!!)

ご丁寧に色までつけられたイラストに困惑のあまり葵は「ええっ!?」と声を出してしまった。

「どうしたの西園寺さん、急に声を出して・・・」

「いっ、いや何でも・・・」

(落ち着くのです西園寺葵・・・状況を整理しましょう。ここにいるのはクリよんのリゼ・トワイヤルで、それが描かれているのは同じクラスの草薙零さんの風景画の描かれた画用紙の裏・・・うう、ますますわけがわからない・・・これを描いたのは草薙さんではないことは確定として、じゃあ一体誰が・・・ここの生徒にこんなの描く人なんて思い浮かばないわよ・・・)

 ただでさえ、クリよんはそこまで知名度の高くないアニメだというのに、そこに登場するキャラを描くような生徒がここ水守学園にいるはずがない。葵は額を抑えながら零の絵をひとまず廊下の壁に貼った。

 それからもんもんと考えていると、ふと、葵の頭の中に一つの考えが浮かんだ。

(もしかして、さっきのリゼちゃんは私の幻想・・・?)

その一見奇天烈な考えも、段々と考えるにつれ現実味を帯びてきた。もし、推しを愛するがあまり、幻覚までもが見えるようになってしまっていたとしたら・・・

(ひいいい!!そそそ、流石にそんな事ありえませんわ!!で、でも・・・)

葵は額に汗を浮かべながら勢いよくカバンを取って立ち上がった。

「す、すみません!!今日はもう時間があれなので・・・帰らせていただきます!!」

「あ、あらそう?ごめんなさいね長いことつきあわせちゃって・・・」

いきなりの帰宅宣言に驚きながらも南は言った。

「失礼しましたぁ!!」

葵は大声でそう言うと風のような勢いで美術室を飛び出した。


 (ま、万が一のことを考えて、病院を受診して脳に異常がないか調べなければ・・・!!最新の機械で脳の様子を・・・!!)

そんなことを考えながら靴箱へと走っていると、不意に聞き馴染みのあるメロディが聞こえてきた。

「・・・え?」

それは紛れもなく、我らがクリよんのオープニングテーマ、『クリーニング屋は今日も大忙しっ!!』だった。

(う、嘘ですわよね・・・?)

しかし、聞こえてくるのはあの何度口ずさんだかわからないサビのメロディだ。間違えるはずがない。

(つ、ついに私・・・幻聴まで聞こえるようになったの〜〜!!??)

「そ、そんな・・・こんなの、手術確定ですわ・・・」

葵がそう言いながらショックでへなへなと床に座り込んだ時だった。

「ね、ねぇちょっと・・・」

聞き慣れない誰かの声だった。

「え・・・?」

葵が顔を上げると、そこにはあの草薙零がいた。

「く、草薙さん・・・?」

「ちょっと、どうしたの?大丈夫?」

怪訝そうな顔でこちらを覗きこむ零に、葵ははっとして立ち上がった。

「い、いや何でもないです・・・!!」

「そ、そう?ピアノを演奏していたら、ドアの隙間から座り込む西園寺さんが見えたから何かあったのかと思って・・・」

「心配かけてすいませ・・・って、い、今なんておっしゃいましたか!?」

「だ、だから西園寺さんが廊下に座り込んでたから心配になって・・・」

「そ、その前です!その前!!何で演奏していたって!?」

(ま、まさか・・・!!)

「ピアノ・・・だけど。」

「えええ!!??」

零のその答えに、葵は思わず大声を出してしまった。

(ピ、ピアノを弾いていたって・・・つまり草薙さんはクリよんを知っていて、ピアノで演奏するほどファンってこと!?)

困惑と同様で固まる葵を見て零は怪訝そうな顔で言った。

「もう何なのよ一体・・・って、もしかして・・・」

葵は徐々に顔を赤くしていくと、がっといきなり葵の手を掴んで叫んだ。

「いっいっ今の演奏聞いていたの西園寺さん!!??」

(!?)

いきなり顔を真っ赤にして動揺する零に葵はさらに困惑しながら頷いた。

「え、ええ・・・あの曲ってもしかして・・・」

「し、知ってるの・・・?」

思わずクリよんの名を出してしまいそうになった葵の声を遮り零が言った。

「い、いえいえ・・・ただ、テレビで流れていたのをちょっと聞いたことをあって・・・」

「そ、そうだったのね・・・いや、これは、その・・・アニメ好きの友達に弾いてって頼まれて・・・」

その時、葵のオタクの固有スキルである同士を発見したからこその興奮が発動してしまった。

「アニメ!!やっぱりアニメなのね!!ということはあの風景画の裏の落書きを描いたのも、草薙さんなの・・・」

(・・・あ、言っちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!)

「・・・へ?」

「いいいいやいい今の発言は取り消してもらえるかしら?そ、その私もアニメ好きの友達がいて・・・これから急ぎの予定があるのでそ、それではこれで失礼しま・・・」

踵を返してその場から逃げ出そうとした葵だったが、その手は強い力で遮られた。

「西園寺さんもクリよん、知ってるの?」


 第一話・おわり



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