吸血鬼族
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この世界には大きく分けて二種類の人種が存在します。
人間族と魔人族です。
私『ミリア・エーデルフェルト』も魔人の一種である吸血鬼族の一人です。
16歳になったある日のこと。
私は父にお使いを頼まれました。
「この手紙を隣町の町長に届けてきてくれないか?」
「わかりました」
こうして私は父の頼みを引き受けたのだが、のちにそれを深く後悔することになるのでした・・・。
私が一人で街道を歩いているときだった。
「こんなところをお嬢ちゃんが一人で歩いてるなんてツイてるなぁ」
前からガラの悪そうな三人の魔族が話しかけてきたのです。
「・・・何かご用ですか?」
「有り金全部置いていきな。そしたらあんたに危害は加えねぇよ」
どうやら盗賊のようでした。
「お断りします」
私の魔力は吸血鬼族の中でも上位に入るためこのようなチンピラに力で負けることはないとたかを括っていました。
「なら力づくだな」
賊の一人が私に向かって剣を振るってきます。
私は攻撃をかわすとすぐさま反撃をした。
「蒼天!」
高温の炎の球が直撃し、跡形もなく焼失する。
「おやおや・・・なかなかの魔力をお持ちのようだ。ならばこれならどうでしょうーー闇よ、我が力の前にカノ者を束縛せん・・・魔封陣!」
賊の一人が詠唱をすると私の身体が強力な魔力で押さえつけられました。
「う・・・身体が・・・」
そしてもう一人の族が詠唱を始めました。
「闇の炎よ、その力をもって敵を打ち滅ぼさん・・」
闇魔法の最上位魔術の詠唱だった。
直撃すれば一瞬で焼き尽くされるでしょう。
(こんなところで死にたくありません・・・私にもっと力があれば・・・)
そう思った時でした。
『力が欲するか・・・ならば我の力を授けよう。我の名は真祖・ブラッドリバー』
すると突然身体の中に魔力が溢れ出て来ました。
「クリムゾン・ギフト!」
私の放ったその技により賊は一瞬で塵になりました。
(この力は・・・)
こうして私は先祖返りの真祖として覚醒してしまったのです。
それから100年後。
いよいよ父の寿命が近づいていました。
ある日のことです。
私は従兄弟のキースに呼び出されました。
「人間領のレヌール大峡谷に族長の寿命を伸ばすための薬草が生えているらしんだ。一緒にきてくれないか?」
そう言われ私はキースに付いて行ったのです。
そこで待ち受けていたのは私を捕らえるための罠だったのです。
キースに言われ近づいた峡谷の壁に触れた瞬間、私の魔力が封印されました。
「ククク・・・ハッハッハ!こうもあっさり騙されるとはな」
「キース!一体なんの真似ですか!?」
「お前にいられると迷惑なんだよ。次の族長はこのオレ様がなるんだからな」
いくらもがいても鎖はビクともしません。
「ムダだよ。その鎖は退魔の鎖っつてな。一度捕らえればいくらお前でも自力じゃ絶対に外せねぇよ。運がよければ数百年後に誰か通りかかるかもな」
ここは人間領でもかなり強力な魔物の巣窟です。
よほどの実力者でなければ人間が無事に通過することは不可能と言われている地帯です。
そして私は不老不死のまま封印されることになってしまいました。
それから50年の月日が経過しました。
ある日のこと・・・なんと人の気配を感じたのです。
私は必死に助けを求めました。
やってきたのは二人の人間族でした。
「そこのあなた!お願いします、私を助けてください!」
すると男の人は即答しました。
「断る。俺たちは先を急ぐんだ。じゃあな」
このチャンスを逃したら次は何年後になるかわかりません。
「ちょ、待ってください!せめて話だけでもっ」
「お兄ちゃん、聞いてあげましょう?」
そう女の子が云ってくれました。
「で、お前は一体何者で、何でそんなとこに囚われてるんだ?」
「私は吸血鬼族の長の娘でミリアといいます」
「その吸血鬼のお前がなんでこんなところに囚われてるだよ?怪しすぎるだろ。ほのか、行くぞ」
「・・・はいなのです」
いやいや、待ってください。
最後まで話を聞いてくださいよ。
「お願いです、待ってください!私は騙されただけなんです!」
「騙されただと?」
「そうです。私が次の族長になるのを反対した人たちに騙されてここに封印されたんです」
「お兄ちゃん、話の続きを聞いてあげましょう」
「何があったんだ?」
そして、私は今までの事情を話しました。
「私は真祖の吸血鬼なんです。原初の吸血鬼ともいいます。16歳になったある日、突然覚醒したんです。通常の吸血鬼の寿命は300年ほどなんですけど、真祖になった私には寿命の概念がありません。一瞬で塵にされない限り身体は再生し続けるんです。魔力も他より優れ殺せない私を彼らはここにこの退魔の鎖で封印したのです」
「ミリア、可哀想なのです」
女の子が同情してくれました。
「お願いです、助けてください!助けていただけるなら何でもします!」
私はこのチャンスを逃さまいと必死に懇願する。
「お兄ちゃん」
「しかたない、わかったよ。どうすればいい?」
「この鎖は強い魔力を込めないと壊せないのですが、誰かそんな強い魔力をもった大魔術師さんを連れてきてはいただけませんか?」
そして彼らは小さな金属の板を取り出しました。
「俺の方が魔力が高いみたいだな」
「はいなのです」
「とりあえずやってみるか」
どういうことでしょうか。
彼が鎖に触れようとします。
「えぇっ?あなたがやるんですか!?半端な魔力では鎖に魔力を吸われるだけですよ!」
「まあ、一か八かだ」
そして彼が鎖を強く握りしめました。
「はあああぁっ!!」
「お兄ちゃんっ!頑張ってなのです!」
「まだまだぁ!はあああっ!」
そして次の瞬間でしたーー鎖は粉々に砕け散ったのです。
「はあ、はあ・・・」
「やったのです、お兄ちゃん!」
「まさか・・・本当に破壊してしまうなんて・・・あなた達はいったい・・・」
すると、彼らはここまでのことを説明してくれました。
「・・・で、帰るために四賢者の作ったダンジョンを目指してるんだ」
「そうだったんですね・・・。よし!決めました!」
今更故郷に帰るわけにもいかない私は一つの決断をしました。
「何を決めたって?」
「私も太一さんとほのかさんの旅について行きます!」
何より私はこの無愛想ながらどこか優しさを秘めている太一さんを好きになっていました。
「だが断る!」
返ってきたのは意外な答えでした。
「えぇ〜っ!どうしてですか!」
「自分で言うのも何だが、俺とほのかは普通じゃない力を得て強くなった。はっきり云って足手まといだ。俺はほのかを守るだけで精一杯なんだ」
私だって不老不死にくわえて尋常じゃない魔力、そして魔力を直接操ることができる特殊な能力があるのですから。
「大丈夫です!私だってこう見えて吸血鬼最強なんですよ?」
「封印されてたじゃないか」
「あれは・・・騙されて油断してたので・・・」
そう・・・始めから警戒していれば封印などされませんでした。
「お兄ちゃん、連れていきましょう。この世界に詳しいミリアがいた方がいいのですよ」
「・・・しょうがないな」
「ありがとうございます〜っ!」
こうして私は太一さんとほのかさんの仲間になったのでした。
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