愛と復讐の神殺し
神を殺す力を以って、その運命を破壊せよ。
その世界は、1人の男を残して
崩壊した________
暗く沈んだ意識の底で彼は思考を巡らせる。
僕は一体何をやったんだ?
滅亡の危機に瀕した人類を守る為、少年は神をも殺す『力』を使い、世界を人類の敵から守っていた………筈だった
その『力』は神を殺しそして____
世界を破壊した。
少年___
望月カナエは『神殺し』だった。
その『力』は、
《吸収と放出》。
物が動くあるいは、跳ねる、空気が振動する、雷が落ちる、あらゆる物理現象の見える、見えないに関わらず、その全てを『吸収』。そして、『放出』する。正に人類最高峰の、
『力』を持った人間だった。
人類は『神徒』と呼ばれる謎の生命体にその存在を脅かされていた。
何千何万と繰り返された人類と神徒との戦いにおいて、人類は神徒を打倒する力を手に入れた。
その力の発現はごく僅かで、大半は9歳くらいからその力が芽生え始め、その力は歳を負う事に上昇し14歳でピークを迎える。
そしてその後緩やかにその力が失われ、17歳でその力は失われる。
人類は『力』がピークを迎える14歳の少年少女達を抜選し、最も優秀な力を持つ子供を人類の敵である神徒と戦わせる事で、人類は存命を続けてきた。そしてその少年少女達を人は
『神殺し』と呼んだ。
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渦巻く思考の中。
人類を、世界を滅亡させた張本人。
望月カナエは願った。
『この世界は僕が望んだ訳じゃない。』
生物はおろか、樹々すら死に絶え、残る生き物は彼ただ一人。
もう二度と生物を産むことのない死んだ海を眺めカナエは願った。
『もう一度、全てをやり直せないだろうか……』
その願いは『神』に届いた_________
『分かったわ。一度だけ、カナエ君を戻してあげる。』
『_____っ!リオっ!?リオなのか!?』
世界に響く声が、少年カナエの目に活気を取り戻す。
『私が出来る事は貴方を、事の始まりに戻すこと、それと、私の力を少しだけ分けるわ。』
『どうしたんだよ!?姿を見せてくれ!リオっ!』
カナエのその願いは聞き入れられず、リオと呼ばれる声が言葉を続ける。
『良いの。私には貴方の心が分かるもの。三番目の彼女を大事にしてあげて………』
『リオっ!?リオっ!?リオが何言ってるのか分かんないよ!!』
『そう。貴方はいつも知らなかった。何も。でも2回目なら………分かるでしょう?だから、カナエ君。次は幸せになって………貴方は私の………』
少年。カナエの意識はそこで途絶えた。
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その世界は死んでいた。
嘗て栄えた大都市の面影は今は無く。全てが無に帰り、絶望と憎悪だけがその世界を支配していた。
崩壊した世界。
あらゆる生物は死に絶え、草木すら消滅したその世界で、白髪の青年。望月カナエは酷く虚ろに嗤っていた。
『ああ、下らないなぁ_________なんの救いも無く、なんの未来もない。______知能の低いサルが考えた様なお粗末な結果だ。反吐が出る。』
望月カナエはその異常なまでの『力』によって、黒かった髪の色は色褪せ、『真っ白』に染まっていた。
そして髪の色と同じく黒の瞳は、まるで返り血に染まってしまったかのように朱く。暗い瞳に変わっていた。
『お粗末な結果に一役かった愚かな自分自身にすら、吐き気を覚える。あぁ______』
思い付いた様に腕を振り、その衝撃波が生命を感じない山を破壊した。
『クッ________ハハハッ!!もう!何回見ても何だよコレ!!コレが人類の望んだ進化の結末!?とんだお粗末な結果だな!!クソ喰らえだッ!!』
カナエは叫ぶ。
絶叫にも近いその叫びは、大気を震わせ生命の産まない海を荒立たせた。
『憎い憎い憎い憎い憎いッ!!クソッタレがッ!!こんな下らない結末を作った『デウス』が憎い!!人とは呼べないあのゴミ共、それに群がるハエ共も全部!俺が殺してやるッ!』
カナエは決意した。自分をここまで追い込んだ全ての人間を『殺す』と_________
それは『復讐』だろうか______否、これが今彼を救える唯一の『希望』なのだ。
『俺は人類進化の果ての存在______この存在に不可能はない。人類の果てに行き着く結果。俺は人類の『可能性』だ。』
カナエの眼前に黒く飲み込まれる様な異質の空間が現れる。
『______はッ、人類進化の果ては、世界の過去そのものの喪失か。………仕方ない。限りなく俺の世界と同じ世界で良いか_____』
一人呟いた言葉はその世界に残され、カナエは黒い空間に吸い込まれる様に消えた。
続く(続かない)
2年前から残ってたので投稿してみた。