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ファイアボール

ここは《メルカリダスの奇跡》──


アレンが《郢曲(えいきょく)》を脱退させられることになったいわく付きのダンジョン。


まずは1階層──


赤い躰に尖った牙。4本足で歩く体高1m程の狼──レッドウルフと呼ばれる魔物だ。


グルルルと唸り低く構える。前足をガシガシと床に叩きつけタイミングを狙うようだ。


かたや…ヒカリは鼻糞をほじってポケ〜っとしている。

チビとクロはアレンに団扇で風を送ったり身の回りの世話をしていた。


レッドウルフに対峙するジークとライゴも気だるそうにレッドウルフを見つめる。


レッドウルフは──明らかに弱そうな小型な体躯のジークに狙いを定め今まさに襲いかかろうとしていた。


たった一体のレッドウルフだが──


この魔物はランクDだ。決して初心者が相手にする魔物ではない。群れを成すことも多く10体を超えたレッドウルフはBランク以上のチームがやっとの事で倒せる程驚異なのだ。


たった一体とは言え、、、単なるリスでは相手にならない。


ジークは仮面をクイッと上に上げる。その隙を狙ってレッドウルフが突撃してきた!しかしそれも想定ないだったのか焦ることなくシュンっと上空に飛び上がる。上空で逃げ場を失ったと思ったレッドウルフは更なる追撃をしようと口を広げ上空へ跳躍する。


刹那──ジークは地上に降り立った。


魔槍グングニルは地面に突き刺さり大きなクレーターを作っている。


レッドウルフは中央にどデカい穴が空いていた。穴は螺旋状に引きちぎられておりレッドウルフは何が起こったのか分からない様子で数歩歩くとポテっと倒れ込んだ。


「ジーク凄いじゃないか!余りにも早くて分からなかったよ!」


「ありがたき幸せでござる。ソレガシは直線の動きならば誰にも負けませぬ。アレン殿のお役にたつでござる。」


レッドウルフを傍観していたライゴはプクッと頬を膨らませて言う。

『もぉ~!アタイの出番はまぁだぁ~?あ!あんな所に殿方がぁ~♡』


ドドドドドという爆音と共にソルジャーアーマーに近づいていく。ソルジャーアーマーとは単体Cランクの魔物で中々に強い。はずだった。ライゴは冒険者じゃないと悟った瞬間に肩から激しいタックルをかました。


ソルジャーアーマーは洞窟の壁を2枚破壊しながら3枚目にめり込む形で停止した。滅多な事では壊れることの無いダンジョンの壁が破壊され近くにいた冒険者は唖然としていた。


『ごっめんあそばせぇ~♡アタイの乙女心を弄んだ罰よぉ~♡死で償いなさぁい♡うっふっん』


ソルジャーアーマーが心做しか涙していた気がするがきっと気の所為だろう。だって魔物は泣かないはずだもの。みつを。


「…ライゴも凄いね…」


アレンは小声で俺も逆らわないようにしよっと言ったが地獄耳なのかライゴが『ヌシサマ?ナニカイイマシタカ?』と片言の日本語とどす黒いオーラを放つもんだから「な、なんでもないです!」と敬語になった事は笑い話だ。笑えないけど。


こえして俺達一行は──


メルカリダスの奇跡9階層まで順調に到達した。メルカリダスの奇跡は全50階層と言われ、Sランクパーティの《郢曲》ですら24階層までしか到達していない。28階層以降は未だ誰も到達なしえない未踏の地である。


アレン達はそのまま攻略を続け、とうとう10階層にいるフロアボスと戦闘することになる。


10階層のボスはオーガと呼ばれる鬼の仲間だ。赤茶色の躰に2本の角。筋骨隆々で血管が身体中に浮き出ている。肉体派のオーガは武器を持たないと有名だがここのボスは一味違うのだ。三つ又の槍を使う亜種である。


フロアボスの部屋に入った俺達は骸の数に驚いた。100体はゆうに超える骸。骸骨の山だった。


グルァァァァァアアアアアアと大きな雄叫びを上げるオーガ。


相変わらず鼻糞をほじくるヒカリ。


オーガは急に体を低くすると斜め上空に跳躍する。振り下ろしの鉄槌。これがこのオーガの最も得意な攻撃だ。


ヒカリは相変わらずほじほじ。


──突然ほじくるのを辞めた。いや。もっと早く辞めて。汚いから。


ピンッ!ほじくっていた鼻糞をオーガの額に飛ばした。見事眉間に命中した。


アレン、チビ、クロ、ジーク、ライゴはドン引きしていた。皆心の中で『きったね!』と以心伝心していた。


オーガも鼻糞にイラついたのか先程までよりももっと早く鉄槌を下そうとしているようだった。がそれは叶わなかった。


運がMAXのヒカリ。それは何をしても勝つと同義だ。


鼻糞のついたオーガは突然速度を上げたため軌道がズレてジークの方向へ。


ジークは汚ぇ!来んな!と思いながらも魔槍グングニルに一直線に突撃してくるオーガを傍観する。


串刺しになったオーガは腹に溜め込んだ大量の黄金を吐き出しながら果てたのだった。


なんともラッキー?なのである。黄金は10gで1枚の金貨と同等の価値がある。今見つかった黄金は軽く10キロはある。金貨1000枚分の価値だ。ただ胃の中から出てくるなど汚いが。ヒカリはまるで気にしてない様子で皆にドン引かれている。


アレン達はそのまま11階層まで行き野営して一夜を過ごす事に。ここではライゴの家事全般スキルが冴え渡った。テント張りや料理の支度は勿論、寝床を用意した時には驚愕した。天蓋付きのベッドが出てきたからだ。ダンジョンの中なのに異様な野営状況に他の冒険者達は奇怪な目をするが羨ましそうでもあった。それでも声をかけてこないのはライゴが気味が悪いからだろう。ある意味役に立っていた。決して暴漢などに襲われる事がないのだから。


そんな時──


キャーーーーーーーー


──女性の悲鳴だ!


アレンは咄嗟にベッドから飛び起きると悲鳴の声の方向へ向かう。


チビ達も続々とついてくる。そんな中ライゴは一瞬で野営セットを片付け俺の横にピタリと並ぶ。「怖ぇよ…ライゴ。」


『ごっめんねぇ~♡主様~♡』とライゴは少し下がり3歩後ろを陣取る。チビとクロは俺より少し先行すると声の主の元へ向かう。


目の前に広がるのは大きな森。11階層は巨大な森で出来ている。その森の中から声は聞こえてきた。


『アレン様。悲鳴は森の中から聞こえてきますね?こんな時間に…』

メルカリダスの奇跡は外と同じ時間軸で昼夜が存在する。現在深夜2時。人など出歩く時間ではない。


「分かってるけど…悲鳴だよ?誰かが襲われてたら助けなくちゃ!」


アレンは今まで人に裏切られ続けた。それなのに自分は裏切る事や見捨てることが出来ない。周囲には甘ちゃんと揶揄する者もいたが、召喚獣達にとって誇るに相応しい主でもあった。


『ふふ…アレン様らしいです。さぁ…行きましょう!』


キャーーーー…いや…イヤーーーーーやめ…やめ…あああ…


最早手遅れかもしれない。がそれでも全力を尽くしたい。限界を超えた速度で走り続ける。すると後ろからジークがヒョイっと俺を持ち上げ担いだ。

『アレン殿。失礼。ソレガシが走るでござる。指示してくだされ!』


「うん!ありがと!そこ…右!いや…左!やっぱ上!」

声のする方に走り続ける。と急に開けた場所が。


うねうねと蠢く触手。幹には今まさに取り込まれそうになっている少女がいた。もう一刻の猶予も無かった。顔はほとんど取り込まれ口は幹の中にある為叫ぶことすら出来ない。必死に暴れているのか涙を浮かべて血管が浮き出ている。


「待ってろよ!今助けてやるからな?」アレンはジークから飛び降りると掴まれていたのかそのままずっこけた。


「痛てぇ…!ジーク着いたら離せよ!痛てぇよ!」


『スマンでござる…』ジークはしょんぼりと沈む。


ふと横を見るとクロが飛び出した。大剣を軽々と操り迫り来る触手を叩き切ると大剣の重さを利用した遠心力で幹まで一足飛びに到達する。大剣を一振すると木の幹はビキビキと音を立てて大きな亀裂が入る。しかしまだ木の魔物は絶命すること無く次なる触手をクロに向かわせる。


『紅く燃える太陽よ。地獄の業火となりて我が命に従え。《ファイアボール》』


ライゴが音楽を奏でるように詠唱し初級魔法ファイアボールを放つ。しかしライゴのファイアボールは初級魔法の威力を軽く凌駕していた。半径5mのその炎の玉は轟轟と燃えプロミネンスも発生している。それは本当に太陽の様だった。太陽の表面温度6000度。中心温度は1500万度とも言われている。若しかするとこのファイアボールは太陽に負けるとも劣らない温度を再現しているかもしれなかった。


ファイアボールが当たった幹はドロっと溶け落ちる。確実にオーバーキルだ。

悲鳴を上げていた女性はファイアボールが当たる直前にジークが助け出した。もしも遅れていたらジーク諸共消し炭になっていただろう。ファイアボールが通った後には巨大な谷が発生していた。この谷は『魔王が11階層にやってきたのではないか?』などの噂が囁かれたが俺達は口笛を吹いて誤魔化した。


なんせ俺達は冒険者登録したばかりのFランクの冒険者パーティ。


誰もがそんな破壊なんて出来るはずもないと思うだろう。


唯一の目撃者である幹に囚われていた女性も意識を失い現在入院中である。同じパーティだった奴らは彼女を見捨てて逃げ出したらしくギルドから罰則を与えられていた。


メルカリダスの奇跡を攻略すべく潜っていたアレン達だったが意図せぬ不運で帰還してしまった。しかし案の定、黄金を換金すると金貨1000枚となりアレンはホクホク顔になる。


金貨を山分けにしようとするも召喚獣は金などいりませんと。全ては俺への忠義と妄想による産物が褒美になるらしい。


俺達は安定して妄想する環境、安眠ができる自分たちの拠点、家を手に入れる画策に打って出ることにしたのだった。

拙い文章ですが読んで頂きありがとうございます。

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