トゥルント~コロナシ村へ
だだっ広い何処までも続く田園風景──
──ここはどこだ?
「皆ここがどこか分かる?」
『ワタシは分かりせん。』
『ワレも分からないであります。』
『ボクもわからなーい!あははは』
『ソレガシも分からぬでござる。』
『アタイもわからなぁいわよぉ~』
『あ。私わかります。』
『ガウは知らないガウ!』
『アッチも知らないっすよー』
『『私達も知りません。』』
「ん?誰が知ってるって言った?」
『『『『『『エリーゼです』』』』』』
「エリーゼここがどこか知ってるの?」
『はい。私の故郷ですから。』
『『『『『えっ!?』』』』』
『ここは帝都カナルギアが治める西の大地です。』
「えぇ、、、マジで?俺たちがいたのは東のトゥルントだよね?そこから西の大地って軽く2000キロはあったと記憶してるんだけど……」
『はい。そうです。その通りです。ちなみにここは帝都カナルギアから3日ほど南に行ったコロナシ村の近くかと思います。特産のトウキビ畑があるので多分間違いないと思います。』
「そ、そんなぁ……折角の拠点だったのに……」
ガックリと肩を落とすアレン。
周囲の召喚獣達はアレンを励ます。
『ガウなら1ヶ月も飛べば帰れるガウ!』
ガウよ……何の励ましにもならねぇよ……でもありがとう。その優しさが辛いよ……
「エリーゼ?近くの村や街まで案内してくれるかい?」
『はい!アレン様!喜んで!』
「今更だけどさ?エリーゼはアレン様って呼ばなくていいよ?召喚獣達もみんな好き好きで呼び方違うし……様って結構恥ずかしいんだよね。」
『ふふ…今更ですね?でも私は命の恩人に失礼な事はしたくないのです。これからもずっとアレン様と呼び続けますのでお気遣いなく!』
何故か顔を赤く染めこちらをチラチラ見てくるエリーゼ。どうやら意味がちゃんと伝わってないようである。
エリーゼの案内で歩いて30分程の所にあるコロナシ村まで案内してもらった。
村には柵や堀も無く長閑な風景が広がっていた。魔物の襲来とかは無いのだろうか?
近くには森も川もあり豊かな自然に包まれている。都会で暮らすのも良いが長閑な場所は安らぐなぁと元々田舎暮らしのアレンは思った。
「じゃ……村に入れてもらえるか聞いてみよっか?」
カンカンカンカンカン~
けたたましい鐘の音が聞こえてきた。
アレン達は召喚獣を大量に連れている。アリスとアリサとエリーゼは人間だから良いがガウやテイラー(ジュリアンテ)は魔物と言われる可能性もあるのだ。チビ達は基本猫だ。可愛から許してくれ。これは譲れぬ!
「すみませーん。誰かいませんか〜?」
『『『隠れろーー魔物だーー!!』』』
村の中はパニック状態になっていた──何故?どこに魔物が居るんだろう?──あ!俺たち?やっぱ俺たちか!?これは事情を説明せねば……と思っていた矢先の事である。
《聖なる雷よ。我が魔力を糧に魔族達を殲滅せよ!《包囲流雷》》
いきなり村から発せられた魔法は召喚獣達に迫る。というか魔族って俺達も含まれてる?どう見ても人間じゃん?ってか結構イケメンだと自負してるんだけど……最近人外扱いを受けることも増えたけどアリスとアリサは人型だし……エリーゼなんて完全な人間だろ?おかしくない?ちょっと泣けてきた。
《完全防御》チビが防御魔法を発動させる。頭上から張った大きなドーム状の空気が雷を弾いていく。ちなみにテイラーは何故か嬉しそうにはしゃぎ完全防御から出ようとしていた。何故だろう?
『はぁ!?最上位防御魔法が詠唱破棄?ありえない……私の必殺技が……おかげでもう魔力なんて残ってないのに……この村ももう終わりね……やっぱり魔族には勝てないのね……』
村の中央にある少し高めの建物の屋根の上に真っ黒いローブに身を包み身の丈に合わない杖を掲げた身長の低い幼女が肩で息をしている。どうやらあの範囲魔法の発動主だろう。アレンは村に入り彼女に話を聞こうとした。
「すみませーん。入りますよー?」
村の中央の建物に近づくアレン。
『いや!来ないで!殺さない……きゃ!』
斜めになった屋根の段差に足をとられ少女はゴロゴロ転がり始めた。
キャーと悲鳴をあげる姿はなんとも情けなく横向きにゴロゴロ転がりパンツが見えそうだ。
「あ。パンツ見えそう……はは。そんなこと言ってる場合か?今助ける!」
『キャーーーー誰か助けてぇ!』
ゴロゴロ転がってくる先にアレンが到着した。何とか間に合ったようだ。
屋根の端に少女が当たると樋に当たったのか軌道が上昇に逸れジャンプした。
「おっと!……ここか?よし!」
見事少女をお姫様抱っこスタイルでキャッチしたアレン。
少女はゴロゴロ回ったことにで目を回しているようだ。しかし……
『あわわわわ……ま、魔族……!?は、離しなさいよ!わ、私をどうする気!?』少女は喚き散らすので取り敢えず地面に降ろしてやった。
『あわわわわ……目が……目が……』少女は目が回り足が覚束無い。
「大丈夫……?」アレンは膝立ちで少女を心配そうに見つめる。
そして……少女はフラフラした足取りで逃げようとするも視界が回っているのか何故かこちらに近づいてきて……
チュッ……
「……!?」
『……!?』
『『『『『『「……キィサァマァー!アレン様に……なんて事を……泥棒猫がァ!」』』』』』』
アリス、アリサ、エリーゼ、チビ、ヒカリ、ライゴが半狂乱になり村に特攻をしてきた。クロ、テイラー、ジークはこちらを傍観しニヤニヤしている。見てないで止めて欲しいのだが。
俺も突然の事に驚いた。目を回した少女は俺から逃げようとしていたようだが急にこちらに倒れ込んでキスする形になってしまったのだ。ちなみに俺のファーストキスである。ファーストキスは幼女。なんか悲しい。
少女は目を潤ませてプルプルと横に顔を振っている。ショックだった様だ。彼女もファーストキスだったのかな?おあいこなので許して欲しい。しかも俺のせいじゃないし。
『ま、魔族と接吻……ありえない……ありえないーーーーー』
突然正気に戻ったのか少女は猛ダッシュで去っていこうとする。がそれは完全に阻まれる。チビ達である。
少女の周りを完全に包囲する。召喚獣達の顔には怒りが籠りワナワナと震えている。何故かそこにはエリーゼの姿もあるのだ。不思議である。
『貴様!ワタシのアレン様に……殺してやる!』チビが激しい口調で怒っている。
『『私達のご主人様は誰にも渡しません!呪い殺してやる!』』アリスとアリサは呪術が使えるのだろうか?古代アーティファクトは恐ろしいな?
『ボクだって狙ってたのに!お前なんて死んじゃえ!』円月輪を構えるヒカリ。いつもの能天気さは微塵もない。
『アタイ達の主様になんて事をしてくれたのぉ?殺す殺す殺す殺す殺す!』ライゴの怒り方は最早呪いだ。怖いから辞めて!
『……のに……私も……あわよくば……狙ってたのに!クソクソクソクソ!雌豚が!横取りしてんじゃねぇ!』エリーゼさん?口調が怖いですよ?ってか雌豚って……豚じゃないよ?人だよ?
クロ、ジーク、テイラーはニヤニヤと見ている。ガウは何が何だか分からない様子で頭にはてなマークを浮かべている。俺と同じ状態である。仲間がいた。
『ちょ……ちょっと待って!私が被害者でしょ!?あいつが私の唇を……』また思い出したのかワナワナと震わせこちらをキッと睨んでくる。だからごめんて。俺何もしてないけど謝るから。ごめんなさい。でも柔らかかったです。ご馳走様。
『もう覚悟は出来たわねぇ?死を持って償いなさぁい!《神葬八連獄》』
え……それはヤバいでしよ?ライゴの八本の手に持つ錫杖に膨大な魔力が集まる。神葬って神すら滅する威力って事だよね?村が消し飛んじゃうから!
ファーストキスの動揺からハッと冷静さを取り戻したアレンは「お前らやめろ!」と普段召喚獣達を《お前》と呼ぶことの無いアレンが声を荒らげ激昴する。
アレンの怒号を聞いたライゴの魔力は一気に噴散し、少女を目で射殺さんとしていた召喚獣達+エリーゼもアレンを見つめる。その目には涙が溜まりアレンと目が合うと頭を横に振っている。何かを言いたいようだ。
『だって……アレン様の唇を……』と口々に言う召喚獣達。
しかし「あれは事故だから。仕方ないだろう?」とアレンに言われ項垂れる。
だが少女が『なにが事故よ!私のファーストキス返しなさいよ!』と言ったもんだからまた召喚獣+エリーゼが激昴する。俺は少女に蒸し返すなよと思ったがこんな場所で知らない人と初キスをするなんて女の子としては可哀想なのでそっとしておいた。俺優しい。
「でも…ファーストキスは返せないから。俺も初めてだったし。俺なんかでごめん。」
アレンが少女に謝ると……
『アレン様が謝ることはございません!この雌豚が行けないのです!』とチビまで雌豚と呼び始めた。だから豚じゃないでしょ?人だよ?
兎に角、召喚獣達に囲まれ次々と暴言の数々を言われ少女は堪らず泣き出してしまう。それを聞きつけたのか周囲には農具を手にした村人たちがワラワラと湧いてきた。
『おら達の姫様にてぇだすんじゃねぇ!魔族風情に負けてたまるかってんだ!おめぇらやるぞー!おーーー!』と何故か盛り上がっている。またややこしい事になってきたなと思ったその時だ。
『やめなさい!私で適わなかったのよ?あなた達がどうにかできる相手じゃないわ!ちょっと……アレンだったかしら?こっちに来てもらえる?』と武装した村人を窘めると村の中心にある建物に案内された。召喚獣達はブツブツ言いながらも渋々少女について行った。
「ふぅ……これでいいわね。あなた達は何者なの?魔族じゃないの?」
「魔族じゃないよ?トゥルントから来たんだ。」転移魔法陣の事は話せないが嘘ではない。
『そう……とりあえず魔族じゃないのね?この村を襲いに来たの?』
「仲間のエリーゼが帝都カナルギアの出身だって言うから近くのこの村に案内してもらったんだけど……ってどうしたの?」
アレンが帝都カナルギアと話した瞬間に少女は顔を歪ませ睨んできていた。もしかしたら何か事情があるのかもしれない。
「帝都カナルギアに恨みでも?」
『……いえ……知らないのならいいの。これは私たちの問題だから……』
カンカンカンカンーーーーー
またしてもけたたましい鐘の音が聞こえてきた。
『くそっ……こんな時に……』
少女は苦悶の表情を浮かべながらも建物の外へ向かって走り出した。なにかある様だ。アレンも続いて家の外に出てみると。
外には100名にも及ぶ騎馬隊が村を囲んでいたのだった。