パーティーから追い出された自称賢者
俺はアレン。18歳だ。俺達は今メッセにある前人未踏のダンジョン《メルカリダスの奇跡》と呼ばれる洞窟に来ている。
もちろん所属するSランクパーティー《郢曲》のメンバーと一緒だ。
斥候役兼魔法使い兼僧侶の俺は自称賢者と名乗っている。
貧乏で職業の神託を受けていないからだ。
俺は魔物が出ると直ぐに魔法を連発する。
そして魔物が多いと無理が祟って魔すぐ力切れを起こしてしまうこともしばしばある。でも仕方ないだろう。
《郢曲》のメンツは俺以外超攻撃型ばかりだからだ。
圧倒的速度と攻撃力をもって敵を薙ぎ倒す。
タンク兼盾役のハリキでさえ最前線に飛び出し盾を使って魔物の首を刎ねる。
まぁ俺にはできない芸当だ。
だからこそ俺は斥候からその他の雑用、メンバーの回復や野営の準備を全て担う。
そして俺は本日も絶賛ぶっ倒れ中だ。
《メリカリダスの奇跡》から運び出され安宿のベッドに投げ捨てられる。
投げたのは攻撃兼盾役のマルクスだ。
痛いからもう少し位手加減して欲しいところだ。
「おいアレン。てめぇよ…足でまといなんだよ!てめぇがいるとダンジョン深部に行けねぇんだよ!クズが!」
マルクスは禿げあがった額にビキビキと青筋を立てて怒る。肌は黒く筋骨隆々なナイスボディである。子供が見たら泣いて逃げだすレベルの凶悪な顔をしていて、眉毛がゴン太な事が彼の特徴でもある。
「僕も流石に毎度毎度だと看過できないね。」
無口なヒルデナイトも賛同する。
透き通ったブルーの頭髪をギュッと後ろで一纏めに縛っている。目鼻立ちは整いエルフ族に負けないほどの美貌を持つイケメンだ。
彼は勇者と呼ばれるレア職だ。勇者とは世界に1人では無く数百万人に1人の割合で生まれる神から与えられし勇気ある者の略称だ。
全世界の人口は不明だが拠点としているそこそこ栄えた街が人口6800人である事から相当なレアな職業である事が窺い知ることが出来る。
「ねぇ…何か言ったらどうにゃのよ。貴方のせいで何度も何度も死にかけてるにゃ?責任取るにゃ!」
彼女はニーニャ。猫の獣人族で超近接タイプだ。
茶色い獣耳と尻尾が特徴だがその他は普通の人族と変わらない。
「ごめんよ…皆に回復かけてデバフかけてバフかけてってやってたらいつの間にか倒れてて…あんまり覚えてないんだ。」
「はっ!やっぱこんなやつ要らねぇな!なぁヒル?言っただろう?此奴は反省なんて微塵もしてねぇって!皆も本当は俺の意見に賛成なんだろ?命かかってんだぞ?正直になれよ!」
マルクスがヒルデナイトとニーニャに何かを促す。
「そうだな…よし!」
無口なヒルデナイトが声を張った。
「僕達全員の総意だ。君は本日をもってクビだ。お疲れ様。」
「え…俺なんか要らないか…そうか…そうだよな…でもお前たちだけで斥候も回復も大丈夫なのか?」
「ふんっ。偉そうに…そんな心配は無用だ。おい。新入り入れ。」
ギィィ
扉の開く音だ。
申し訳なさそうに女性が入ってくる。
『は、初めまして…セイナと言います。以後お見知りおきを…』
エメラルドグリーンの髪色が肩で切りそろえられて
「彼女はな?斥候に長けていてな?更には魔力も膨大で魔法もほぼ無尽蔵に使えると来てる。てめぇみたいなゴミクズなんかの数倍は優れてるだろうよ。もう二度と会うことは無いから顔なんて覚えなくていいんだよ!ガッハッハッ!」
マルクスの言葉は汚い。そのストレートな言葉がアレンの心にグサグサと突き刺さる。
「そうか…俺は御役御免か…分かったよ。今までありがとう。」
俺は今までパーティーに入れてくれていた感謝を素直に言葉に乗せた。
「はん!少し位は縋って泣いてくれても良かったのにな!てめぇを追い出せてせいせいするが最後くらい鬱憤を晴らしたかったぜ!」
「マルクス。いい加減にするんだ!かつてのメンバーに憂さ晴らしなど流石に看過できないぞ?アレン…ごめんな?これから僕達《郢曲》は魔大陸を目指す。足でまといは確実に命を落とす。そして他のメンバーの枷になるんだ。申し訳ないが君では実力不足だ。」
ヒルデナイトが正当な理由で俺を更に追い込む。
まぁ本当なのだ。実際レベル差がありすぎる。
マルクス 戦士 攻撃兼盾役 レベル72
ヒルデナイト 勇者 攻撃兼回復兼バフ レベル88
ニーニャ 闘士 攻撃兼自分のみバフ レベル69
俺ことアレン 魔法使い 斥候役兼魔法使い兼僧侶 レベル12
俺だけレベル低すぎなのだ。理由は単純だ。
この世界でレベルを上げるには魔物への攻撃。その1点である。
魔物に攻撃しなければ経験値は得ることが出来ないという仕組み。
例えばゴブリンが出てくるとする。
攻撃が得意な3人が前に出る。
ヒルデナイトがバフを使い精神と力を上昇する。
その効果は5分間対象能力が10%上昇する。というものだ。
バフをかけられたニーニャとマルクスが攻撃する間に俺は敵にデバフをかける。
状態異常系がよく効く魔獣系や思考阻害系がよく効く人型の魔物などにデバフをかける。
デバフは時間経過と共に効力が弱くなるため攻撃直前に重ねがけるのが定石である。
だがそんな俺は魔力量が異常に少ない。
しかも攻撃魔法はほぼ使えない。相手にダメージを与えられないのだ。
ちなみに仮に俺が魔法使いならば半径2m位の火柱を1発上げたらぶっ倒れるだろう。
下手をすれば子供にだって負ける魔力量だ。
だからこそ仲間が戦いやすい様に気を配ってきた。
しかし毎度毎度倒れてきた。
そしてその結果がこのクビ騒動だった。
だから俺は首を縦に振るしかなかった。
「じゃあな。」
「じゃ。僕らはいくね。」
「さよならにゃ!」
「ご、ご、ごめんなさい。私が居場所を取ったみたいで…申し訳なくて…」
「いいっていいって。自分でも分かってたことだから。」
「あ。」
ヒルデナイトが振り返る。
えっと…まだ用事があるのかな?俺って今凄く惨めな気持ちなので早く1人にしてください。
「安宿で申し訳ないけどあと3日この部屋は君用に取ってるから心配しないでゆっくり休んでね。それと…これは最後の餞だと思って受け取って。」
牛型の魔物ズモーンの皮を鞣した皮袋に入った何かを渡された。
「おいおい。こんな奴にそんな事しなくても…」
「これは僕の気持ちなんだ。今まで頑張ってくれた仲間に非道いことは出来ないからね。じゃ体には気をつけてね。」
「にゃ!」
こうして俺はSランクパーティー《郢曲》を首になったのだ。
さぁ…これからどうしようかな…
俺が冒険者になった理由。
それは誰にも縛られない自由な仕事だからだ。
勿論貴族や大富豪など金を使った自由もあるだろう。
しかしそれは本当の自由とは呼べないと俺は思う。
旅する自由。好きな女と結婚する自由。そして命の自由。
これが俺が求める自由だ。
誰もいなくなった部屋では夕日が傾き暗闇が影を落とす。
真っ暗になっていくその間、アレンは冒険者になった初心を思い出すのだった。
拙い文章ですが読んで頂きありがとうございます。
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